―ネットと実店舗の連携強化も進む、OMOで次の成長ステージへ―
アパレル業界のECシフトが加速している。国内のアパレル市場は、少子高齢化の進展や低価格ブランドの普及などで伸び悩みが続いているが、そうした業界環境のなかでも成長するためには、消費者ニーズを汲み取りやすいECと、実際に商品の良さを確認できる実店舗の連携が欠かせなくなってきている。
アパレル業界は他の業界と比べても EC化への取り組みが早かったが、それでもEC化率は拡大の余地があり、更に進むとの見方が強い。既にシフトを進めている企業がより優位性を発揮する場面となりそうだ。
●アパレル業界を取り巻く環境
経済産業省が公表している「商業動態統計調査」によると、2023年の「織物・衣服・身の回り品」の商業販売額は、8兆5160億円で前年に比べて2.2%減となった。1991年に15兆2760億円のピークをつけて以降、緩やかに減少傾向にあったものの、2010年代後半は11兆円前後で推移していたことを考慮すると、コロナ禍前の水準を回復するには至っていない。アパレル業界は、コロナ禍で外出機会の減少により需要が落ち込み、店舗販売を中心に影響を受けたが、行動制限の全面解除や新型コロナウイルスの5類移行などで人流は戻っても販売額が回復していないのが現状だ。
その要因としては、リモートワークなど在宅勤務の浸透やファッションのカジュアル化が進み、百貨店アパレルを中心とした中価格帯(1万~3万円程度)の市場が縮小したことや、ファストファッションの拡大で低価格帯市場が広がったことなどが挙げられている。また、リユースショップやメルカリなどの二次流通市場が拡大していることも響いているようだ。
●EC分野は好調
アパレル市場全体が伸び悩むなか、気を吐いているのがEC分野だ。
「商業動態統計調査」同様に経産省が公表している「電子商取引に関する市場調査」によると、「衣類・服装雑貨等」のBtoC-EC市場は年々増え続け、22年には2兆5499億円(前年比5.0%増)となった。20年に2兆2203億円(同16.3%増)と2兆円を突破して以降も拡大を続けている。コロナ禍が明けても、ネット通販に親しんだ消費者が継続して利用している様子がうかがえる。
全体市場に占めるEC市場の割合を表すEC化率も上昇を続けており、22年は21.6%となった。コロナ禍前の19年には13.9%に比べると7.7ポイントも上昇しているが、「書籍、映像・音楽ソフト」の52.2%、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」の42.0%などに比べるとまだまだ低い。その分、今後の拡大余地があるともいえ、アパレルEC市場は伸びしろが大きそうだ。
●ネットと実店舗の連携が重要に
とはいえ、衣類はサイズや色味など実際の着用感や着心地を確認したいという人も多く、実店舗の役割も大きい。ネット販売と実店舗の連携がこれまで以上に必要となっており、OMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)など、オンラインとオフラインの境界をなくし、顧客の体験価値を高めるマーケティングが重要となっている。ECシフトを進める一方で、ECの活用によるデータやノウハウを蓄積し実店舗の運営に還元することが重要となっている。アパレルECの役割は更に増すことになりそうだ。
●アパレルECの関連銘柄
アパレルEC大手と言えば、国内ユニクロ事業におけるEC化率が14.4%(24年8月期第1四半期)を占めるファーストリテイリング <9983> [東証P]だが、このほかにも注目銘柄は多い。
オンワードホールディングス <8016> [東証P]は「23区」、「UNFILO」など、中高価格帯のブランドを中心に展開しており、4月4日に発表した24年2月期連結決算でEC化率は29.8%と高水準にある。売上高は1896億2900万円(前の期比7.7%増)で、売り上げ増の要因の一つに公式オンラインストアの商品を実店舗で試着できる取り寄せサービス「クリック&トライ」を導入したOMO型店舗による主力ブランドの好調を挙げるなど効果を上げている。「クリック&トライ」効果は続くとみられ、25年2月期は営業利益125億円(前期比11.0%増)と2ケタ増益見通しだ。
ワールド <3612> [東証P]は「UNTITLED」「INDIVI」などを展開する総合アパレル大手の一角。4月3日に発表した24年2月期連結決算では、決算期変更のため前の期との比較はないものの、売上高は2023億4200万円で、EC化率は21.8%だった。同社ではグループ公式サイトと連動したOMO型ストア「THE GALLERY WORLD ONLINE STORE」の出店を開始しており、百貨店やショッピングセンターへの展開を進める方針。25年2月期は前期比実質3%増となる売上高2300億円を見込んでおり、EC売上高は全体の増収率を上回る実質3.6%増を予想する。なお、営業利益は実質11%増の155億円を見込む。
アダストリア <2685> [東証P]は「GLOBAL WORK」「niko and...」などを展開するカジュアル衣料大手。ECと実店鋪のメリットが融合したOMO型店舗「ドットエスティストア」の展開を21年から進めており、徐々に店舗数を増やしている。4月4日に発表した24年2月期連結決算で営業利益は180億1500万円(前の期比56.4%増)となったが、その背景として10年から取り組んできたSPA体制の構築とコロナ禍で加速させたEC事業が結実したとしており、EC化率は28.3%に及ぶ。なお、25年2月期は営業利益190億円(前期比5.5%増)を見込む。
ユナイテッドアローズ <7606> [東証P]は「UNITED ARROWS」「green label relaxing」などを展開するカジュアル衣料大手。22年3月に自社ECサイトをリニューアルし、運用を業務委託していた体制から自社運営に切り替え、OMO施策を進める基盤を整備した。リニューアル後、EC売上高は順調に増加しており、24年3月期第3四半期ではネット通販の売上高に占める割合は24.5%になった。24年3月期連結営業利益は70億円(前の期比10.0%増)を見込む。
しまむら <8227> [東証P]は低価格帯のファッション衣料店を展開している。4月1日に発表した24年2月期連結決算で、売上高6350億9100万円(前の期比3.1%増)のうちEC売上高は72億円で、EC化率は1.1%と低いが、決算と同時に発表した27年2月期を最終年度とする新中期経営計画でEC事業の拡大を打ち出している。会員情報の一元管理で実店舗とECの相互利用を拡大し、顧客管理システムデータを販促に活用することで、OMO戦略を推進するとしており、EC売上高110億円、EC化率1.6%を目指すとした。なお、25年2月期は営業利益563億6200万円(前期比1.9%増)を見込む。
TSIホールディングス <3608> [東証P]は、総合アパレル大手。中期経営計画でも、EC事業の大幅拡大に向けた構造改革を進めるとしているが、24年2月期第3四半期累計連結決算では、実店舗への集客増加やそれに伴う在庫集約での売れ筋商品欠品が発生したことでEC売上高を伸ばすことができず、国内EC化率は26.8%にとどまった。第3四半期決算の発表と同時に通期業績予想を下方修正し、営業利益は14億円(前の期比39.9%減)の見込み。なお、決算発表は4月12日の予定だ。
三陽商会 <8011> [東証P]は「MACKINTOSH LONDON」などを展開するアパレル大手。23年9月、これまでのブランドサイトとECサイトを統合した「SANYO ONLINE STORE」をオープンさせるなどOMO推進に注力し、プロパー(正価)販売や相互送客の強化に取り組んでいる。24年2月期連結営業利益は31億円(前の期比38.6%増)の見込み。なお、決算発表は4月12日を予定している。
このほかにも、「SHOPLIST」を運営するクルーズ <2138> [東証S]、「ZOZOTOWN」を運営するZOZO <3092> [東証P]も関連銘柄として注目したい。
株探ニュース
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