―リスクオフ相場も近視眼的に弱気に染まれば好機を逃す、ここは勇気を持って買い向かえ―
週末9日の東京株式市場はリスクオフ相場が加速する展開を余儀なくされた。8日の欧米株市場が軒並み大きく値を下げたことから、日経平均株価は一時700円近い急落に見舞われ、2万8000円台を割り込み一気に2万7000円台前半まで水準を切り下げる場面もあった。日経平均は今週に入ってからきょうの安値まで1360円強も下落しているが、足もとは押し目買い意欲も限定的で、投資家のリスク回避姿勢の強さを物語っている。
●「ワクチン・パラダイス」を突き崩すデルタ株
これまで新型コロナワクチン普及を背景とした経済活動の正常化期待を拠りどころに、世界の株式市場は米国株市場をリード役としてアフターコロナの景色を先取りする強調展開を続けてきた。しかしここにきて、にわかに雲行きが怪しくなった。新型コロナウイルスのインド型変異株である「デルタ株」が猖獗(しょうけつ)を極め、感染者数の拡大が景気の回復に向けた楽観シナリオに水を差す形となっており、株式市場の先行き不透明感も拭えない局面に陥った。
頼みの綱は最高値圏に近い水準で売り物をこなす米国株市場だが、ここ最近は景気回復に対する行き過ぎた期待感は剥落している。何よりも米長期金利の動向が今の実勢経済の体感温度を代弁している。米10年債利回りは、前日終値ベースで1.296%と1.3%台を割り込み約5ヵ月ぶりの水準まで低下、ひと頃のインフレ警戒ムードが嘘のように安全資産とされる米国債に買いが集まる状況となっている。皮肉にもFRBによるテーパリング開始時期に関する思惑が俎上に載った途端、経済が新型コロナ変異株の逆襲で変調をきたし、債券市場における時計の針が逆戻りしているというのが今の状況だ。コロナまん延で超緩和環境が続くとすれば、それはそれで株式市場にとって追い風となる部分はあるのだが、「少なくともベストシナリオとして想定された金融相場から業績相場へバトンを渡すという筋書きは遮断された形」(準大手証券ストラテジスト)となった。
●日本には固有の株安材料が満載
更に、東京市場は日本固有のネガティブ材料が多いことから、世界の株式市場のなかでも売りのターゲットとされやすい弱みもあった。まず、今週に限って言えば株式需給面では前日ときょうの2日間でETFの分配金捻出に絡む売りニーズが約8000億円規模に達すると想定されていた。しかも前日よりもきょう(9日)の方が売却金額は大きく、市場関係者によると「TOPIX型と日経225型を合わせて5000億円近くに達する」(ネット証券マーケットアナリスト)との見方で全体相場の下げを助長した。
そして、国内の新型コロナ感染状況も東京五輪開催を目前に、東京都に4度目の緊急事態宣言が発令される方向となり、これも株式市場にとっては気勢の削がれる材料となっている。更に、東京と埼玉、神奈川、千葉の1都3県で行われる五輪競技は無観客開催が決定し、「五輪を文句のない形で成功させ、景気対策を打ち出し、秋の解散総選挙へというのが菅政権の描いていたシナリオだったが、最初の一歩から狂いが生じた。政局が相場の重荷となる可能性は否定できない」(中堅証券株式ストラテジスト)と指摘する声も出ている。
●相場の思惑は売りも買いも表裏一体
しかし、相場が崩れている最中に悲観材料を探せばいくらでも出てくるのはある意味当然という見方もできる。上昇相場の時には、見えていても無視するような悪材料がいくつもあるが、それが喧伝されるのは決まって株価が下落トレンドに入ってからだ。相場の思惑は常に表裏一体である。「今週はETF分配金捻出に伴う売り圧力と緊急事態宣言の発令が取り沙汰されたことなどを手掛かりに、外資系ヘッジファンドの空売りもかなりの水準入っていた可能性がある」(ネット証券マーケットアナリスト)という指摘もあり、差し当たっては来週のどこかでその買い戻しが見込まれる。
9日は後場に入り急速に下げ渋った。これについては「日銀のETF買いが発動された公算が大きいとみられたこと。また、これとは別に年金資金であるGPIFの政策買いも入ったとの観測がある」(同)とする。なお、日銀のETF買い入れは実際は行われていなかった。午後1時50分過ぎから継続的な買い注文が入ってきたことは確かだが、羽音に驚いた売り方の買い戻しも多分に含まれていたであろう。売り方の立場に立てば、やはりここは不安を煽って一気呵成に売り乗せていけるような状況ではないのだ。
●過剰流動性のセーフティーネットは健在
忘れてならないのは、現在の相場環境が依然としてジャブジャブの資金、過剰流動性の中にあるということだ。それを前提に、あえてここからのポジティブ材料を探ってみる。自民党はこのままでは秋の総選挙は戦えない。とすればまず、サプライズを伴う補正予算の編成に期待がかかる。これは素直に株高材料となる。そして、もうひとつは「菅降ろしの動きは政局になりやすいという点では相場にマイナスだが、禅譲という形で国民が認めるような“次”の総理候補が出てくれば、野党も強いところが見当たらない状況で議席数を大きく減らすことはないのではないか」(準大手証券ストラテジスト)という指摘もある。
また、森より木を見るのが個別株戦略の鉄則だが、個別企業の業績は跛行色こそあるものの、製造業中心に思った以上にコロナ禍で健闘している企業が多い。「直近では11月決算のオーエスジー <6136> が今期の中間決算を発表したが2ケタ増収増益を確保しており、こうした業績面での強い数字が今後も相次げばおのずと流れは変わってくるのではないか」(同)という声もある。全体観だけで弱気に傾き過ぎると投資のチャンスを見失うことになる。
●波乱相場でも強さ発揮する選りすぐり6銘柄
今回のトップ特集では、今期業績の好調が見込まれる銘柄群のなかから、展開材料が豊富でなおかつ同業他社とは一線を画すノウハウや商品競争力を有し、中期的にも成長期待の強い有望株を6銘柄選抜した。
◎TOWA <6315>
モールディング(樹脂封止)装置を主力に切断加工や収納などを行うシンギュレーション装置などを製造する半導体製造装置メーカー。先進的な超精密金型でも高度な技術力を持っている。世界的な半導体供給不足を背景に世界の半導体メーカーが設備増強の動きをみせており、同社は特に半導体内製化を推進する中国や大規模投資に動きだした台湾の大手メーカー向けで需要を獲得している。業績は21年3月期が営業利益段階で前の期比4.5倍の36億1800万円と急拡大したが、続く22年3月期は50億円予想と前期比4割近い伸びを見込んでいる。株価は2200円近辺で売り物をこなした後に上放れ、4月5日の年初来高値2439円を通過点に2000円台後半を指向する展開が期待できる。
◎GCA <2174>
独立系のM&A助言会社だが、国内だけでなく米国や欧州などクロスボーダー案件で優位性を持つ。欧米ではテクノロジー・デジタル分野で活発なM&A案件を取り込み収益に反映させている。また、時流に乗るESG案件についても脱炭素のテーマに絡むM&Aを深耕。21年12月期第1四半期(1-3月)はトップラインが前年同期比倍増の62億6100万円と急増。通期見通しではトップラインを従来予想の255億円から335億円(前期比53%増)に、営業利益は26億円から38億円(同2.2倍)に大幅上方修正しており脚光を浴びた経緯がある。株価は直近、年初来高値を更新後、全般波乱相場で押しを入れたが、中長期的には2015年8月につけた2034円の高値奪回が目標に。
◎愛三工業 <7283>
トヨタ直系の自動車部品会社で燃料ポンプや燃料噴射システムなど内燃機関に強く、トヨタが注力する燃料電池車(FCV)向けに水素インジェクターを提供するほか、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)の電動車制御システム事業化にも傾注している。「機械機構」から「電子制御」時代への移行で同社の制御技術は重要な役割を担い、トヨタグループにおける次世代モビリティ実現に貢献する。22年3月期は合理化努力も発現し、営業利益段階で前期比倍増となる100億円を見込む。利益水準的にも15年3月期の過去最高利益に急接近することになり要注目となる。株価指標面では時価はPER8倍台、PBR0.6倍台と依然として超割安圏に放置されている状態にあり、見直し余地が大きい。
◎岡本工作機械製作所 <6125> [東証2]
総合研削盤を手掛ける工作機械 メーカーで平面研削盤では国内トップシェアを誇る。半導体関連装置も幅広く手掛けており、世界的に旺盛な半導体設備投資需要が追い風となる。半導体は5G対応スマートフォンの普及や、企業による世界的なリモートワーク導入加速などが追い風となっており、今期は期初時点で積み上がる高水準の受注残が収益拡大を後押しする。再生可能エネルギーや電気自動車(EV)向けで市場拡大が見込まれる次世代パワー半導体用に付加価値の高い研削盤やラップ盤などの開発を強化している。22年3月期営業利益は27億5000万円と急回復を見込むが、一段の上乗せも期待できそうだ。時価は株式併合考慮で約14年半ぶりの高値圏にあり、実質的な青空圏を進む展開を期待。
◎メイコー <6787> [JQ]
プリント配線板の設計・製造で国内でも指折りの実力を有し、自動車のエレクトロニクス化進展を追い風に車載向けで実績が高い。同業他社で片面プリント配線板世界トップの京写 <6837> [JQ]とは5月に資本・業務提携を行い、相互補完により収益性を高めている。6月にはジャスダック市場から東証1部に市場変更し、ファンド系資金のベンチマーク組み入れ需要を取り込み株価上昇に拍車がかかっている。22年3月期営業利益は前期比43%増の95億円と連続大幅増益で3期ぶりに過去最高利益を更新する見通し。同社株は天井も高く、リーマン・ショック前の2006年2月には1万1850円の最高値をつけている。時価3400円近辺は高値からみて3合目の位置にあり、中期的な上値妙味は大きいといえる。
◎UTグループ <2146>
半導体業界や自動車業界を中心に製造業向け人材派遣のほか、人材流動化支援業務も行う。月間1000人以上を採用できる体制を確立し、圧倒的な人材基盤を武器に製造業のニーズに応える。AI・IoT、5GなどのICT分野で引き合い旺盛な半導体製造装置エンジニアの育成に注力し、6月にはテクノロジー能力開発センターの4拠点目を大阪に開設したことも発表している。業績は22年3月期営業利益が前期比12%増の80億円予想と2ケタ成長を見込む。23年3月期はM&A戦略の効果なども発現し、利益成長が更に加速する公算が大きい。修正後株価で18年6月に4365円の最高値をつけているが、来期業績は当時の利益水準を大幅に上回る見通しで、時価はあまりに評価不足といってよい。
株探ニュース
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