1. 2023年3月期の業績動向
テノックス<1905>の2023年3月期の業績は、売上高18,317百万円(前期比23.6%増)、営業利益653百万円(同40.0%増)、経常利益694百万円(同34.6%増)、親会社株主に帰属する当期純利益482百万円(同34.9%増)と大幅増収増益となった。期初の計画に対しても、売上高で817百万円、営業利益で203百万円、経常利益で194百万円、親会社株主に帰属する当期純利益で172百万円の超過達成となった。
日本経済は、ロシアによるウクライナ侵攻に端を発した資源価格の高騰や不安定な為替相場などの影響を受けつつも、新型コロナウイルス感染症の抑制策や各種の経済政策により緩やかながら持ち直しを続けている。一方で、高止まりを見せる資源価格や海外経済の減速が景気を下押しする懸念があり、先行きは予断を許さない状況にある。建設業界は、公共投資が防災・減災、国土強靭化の加速化対策などにより引き続き底堅さを維持し、加えて高水準にある企業収益を背景にコロナ禍で先送りされていた民間の設備投資も前向きに動き始めるなど、総じて堅調に推移している。しかし、建設資材価格の受注契約への適正な反映や慢性的な現場従事者の不足、来年4月に迫った建設業の「2024年問題(時間外労働の上限規制への対応)」など、乗り越えなければならない難しい課題もある。基礎工事に関しては、中小案件において景気の先行きに敏感な中小事業者との価格競争企業が続いている状況だが、競合が限られる大型案件では、建築で物流倉庫やデータセンターが引き続き順調に推移しているうえ、半導体や化粧品・医薬品関連の工場投資が回復、土木では国土強靭化が加速していることを受けて全国的に好調に推移しているようだ。
このような状況のもと、同社は中期経営計画で課題に掲げた「設計提案から施工までの一貫体制の強化」と「顧客のニーズに応える付加価値の創出」への取り組みを着実に進め、さらには持続的な企業価値の向上を目指してESGを意識した経営を推進した。
売上高については、北海道新幹線延伸事業の高架橋初弾工事「市渡高架橋」、関西の高速道路やモノレールといったインフラ関連の土木杭工事や、民間設備投資の盛り上がりに伴う半導体工場の地盤改良工事など、大型工事が寄与したことで増収となった。特に工場の回復が目立つが、なかでもコロナ禍で最も投資が抑制されていた1億円規模の基礎工事としては小ぶりな大型案件の回復が目覚ましく、今後も収益の押し上げ効果が期待されている。受注高も工期の長い国土強靭化をベースに想定どおり順調に伸びており、受注残高も内定分も含めると強い伸びとなっている模様である。なお、データセンター向けなど建築杭工事に関しては、同社主力のTN-X工法が、鋼材価格の上昇でコンクリートパイル工法に対する競争力が低下したため苦戦した。ただし、足もとでは、鋼材価格の上昇が止まってきたこと、建設残土が少ないという環境面のメリットが注目されていることから、受注が回復しつつあるようだ。
利益面では、資材価格の高騰を受けて売上総利益率は下がったが、価格転嫁がある程度進んだうえ、増収に伴って施工機械の稼働率が上がったこと、記録的な寒波にもかかわらず工事が順調に進んだこと、一部難工事を情報化施工によってコストダウンできたことなどにより、低下を軽微に抑えることができた。販管費は、主に社員の生活を下支えすることを目的にインフレ手当を支給したため2ケタの伸びとなったが、固定費が中心のため、売上高が伸びる局面では比率が下がる傾向がある。なお、期初の同社予想に対して業績が超過達成した要因は、売上高がインフラ関連の杭工事や民間設備投資の盛り上がりに伴う地盤改良工事などの大型工事の回復ペースが速まったこと、営業利益の面では想定以上に順調に工事が進んだことなどである。
セグメントの業績に関して、建設事業は、鉄道や高速道路の杭工事や民間工場の地盤改良工事の寄与により売上高が17,864百万円(前期比23.8%増)、増収効果や施工機械の稼働率向上によりセグメント利益が631百万円(同28.1%増)となった。土木建築コンサルティング全般等事業は、主としてコロナ禍の打撃が大きかった鉄道関連の設計・計算業務が回復したことより、売上高が430百万円(同17.6%増)、セグメント利益が14百万円(前期は33百万円の損失)となった。その他の事業は、神奈川県川崎市に所有している不動産の賃貸による安定収益である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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