*16:07JST ヤマタネ Research Memo(7):中期経営計画は前倒し達成の状況、最後の仕上げへ(2)
■長期ビジョンと中期経営計画
2. 中期経営計画「ヤマタネ2025プラン」
長期ビジョンにおいて着実に前進するため、ヤマタネ<9305>はさらに3ヶ年の中期経営計画「ヤマタネ2025プラン」(2023年3月期から2025年3月期)を策定した。2025年3月期は総仕上げ期間となり、スローガン「創業100周年に向けて、豊かな社会づくりにチャレンジしていく」に沿って計画を推進中である。方針として、(1)「チャレンジ領域」と「コア事業領域」に分け、経営資源を適切に配分し規模を最適化する、(2) 環境に配慮した事業活動を推進し、社会に安心と安全、効率性を提供する、(3) これまで築いてきた資本(財務、製造、知的、人的、社会関係、自然)を基盤に、長期的な展望に基づいた事業展開を行う、の3つを掲げた。
財務目標としては、(1) ROE:5%以上、(2) 配当性向:35%以上、(3) 売上高:565億円、(4) 営業利益:32億円、(5) EBITDA:66億円、(6) 有利子負債:40億円削減、(7) 総資産:50億円圧縮、の7つを設定した。
「ヤマタネ2025プラン」の財務目標のうち(6) 有利子負債:40億円削減(7) 総資産:50億円圧縮については2024年3月期末時点で未達となっている。ただし、この2点については単純に中期経営計画策定時にショクカイのようなレベルの大型M&Aを見込んでいなかったことが理由であり、未達に関してネガティブな印象はない。一方、(2) 配当性向:35%以上は達成見込みであるものの、それ以外の目標については(1) ROE:5%以上(2024年3月期実績は5.1%)(3) 売上高:565億円(同645億円)(4) 営業利益:32億円(同34億円)(5) EBITDA:66億円(同69億円)と、いずれも1年前倒しでの達成となった。
定量目標の面からは前述したとおり、おおむね有言実行の状況であることは言うまでもない。定性的な観点から、全体的な中期経営計画に対する実効評価を加えると、物流事業、食品事業での進捗は非常に良好という印象だ。例えば、生鮮食品をはじめとした食品全般の日配及び食品量販店のセンター運営等を主業とし、トランスファーセンター(TC)型の冷凍冷蔵保管や冷凍冷蔵配送にノウハウを有するシンヨウ・ロジを2022年4月にグループに加えた。これにより、新たに食品量販店センター運営等に参入することになり、物流事業のチャレンジ領域の目標は達成した。
食品事業では、ショクカイを2023年10月にグループに収めたことが最大の成果だろう。2025年3月期における収益インパクト要因として期待するのは時期尚早と弊社では考えているものの、食品事業におけるショクカイの最大活用は一段の成長と資本収益性の向上に不可欠なポイントだ。すでに取引関係のある大手食品量販店と新商品開発に向けた取り組み(冷凍おにぎり商品の試験販売)に着手している点はそういった意味でもポジティブな要素である。その他にも、大手食品量販店の冷凍加工食品サプライヤーと商品開発(冷凍米飯/冷凍ピザ/冷凍野菜など)に向け協議を開始しており、会社側としても次期中期経営計画の食品事業の発射台を高くするためにも現中期経営計画期中に進捗を加速させておきたいところであろう。四半期ごとにその推移に注目したい。
また、ショクカイ以外にも連携を加速しており、2023年7月には農家向け脱炭素施策の収益化と、カーボンクレジットの流通サポートを手掛けている(株)フェイガーと業務提携を締結した。加えて、特に林檎に関して特殊な生産農法を持ったベンチャー企業である(株)日本農業への出資と協業も行っており、今後はこれらの協業網を通じたシナジー発揮に投資家の期待も向いていくだろう。特にフェイガー、日本農業との取り組みは、産地の収入を上げる方法の模索が最大の目的であり、持続的かつ魅力的な農業の確立という日本社会全体の課題に対する取り組みという側面もあり、期待したい。また、2022年12月には農業などの一次産業向けの人材支援会社YUIME(株)とも資本業務提携して、常態的に人材不足に悩まされている農家の支援にも道筋をつけている。
企業経営に際して重要度が日に日に高まっているガバナンス面についても一段の強化が進んだ。具体的には、監査役設置会社から監査等委員会設置会社への移行が挙げられる(2023年6月21日開催の第124回定時株主総会で承認)。この変化により、取締役の職務執行の監査等を担う監査等委員を取締役会における議決権を有する構成員とすることで監督機能を強化しつつ、取締役会から取締役への重要な業務執行の委任によりスピードある業務執行を可能とする体制になった。
併せて取締役会の機能強化にも着手し、取締役の人数は6名(うち社外取締役3名:2022年9月22日付の「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」より)から10名(うち社外取締役6名:2024年6月21日付の「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」より)となり、独立社外取締役比率は50.0%以上に拡大した。さらに、取締役には女性2名、外国人1名が抜擢されており、多様性(ダイバーシティ)の観点にも配慮がなされている。また経営陣の、持続的な企業価値向上に対するインセンティブを従来以上に高め、次の100年に向けたヤマタネグループ作りに臨むべく、譲渡制限付株式報酬制度も導入するなど、経営推進体制がさらに整備された。
なお、2025年3月期は中期経営計画の仕上げという意味で、本社が所在する越中島地区の再開発の方向性づくりを加速させる計画だ。社内的には越中島開発推進室を新設し、グループ全体のCRE戦略※を踏まえた開発計画策定の支援役としてケネディクス(株)を抜擢した。加えて、グランドビジョン策定や行政協議、地域連携でナレッジを豊富に有する(株)日本総合研究所、建築に関する技術的支援担当として(株)日建設計の計4社による推進体制を構築した。これら外部専門家と連携し、2025年5月には「越中島グランドビジョン」として計画を公表する予定である。東京駅からのアクセスが良好で、隅田川沿いのリバーフロントに位置している越中島は地理的に非常に魅力的なロケーションである。そういった意味で、従来と同じ倉庫ではなく、街づくりという形で検討を進めているようだ。
※Corporate Real Estate戦略の略で、企業不動産について「企業価値向上」の観点から経営戦略的視点に立って見直しを行い、不動産投資の効率性を最大限向上させる戦略を意味する。
中期経営計画期間の課題として、(1) さらなる利益成長と資本収益性の向上〜コア事業領域とチャレンジ領域の両輪での成長投資〜、(2) 部門別の収益管理と資産効率性の向上〜資本収益性(ROIC)の管理とCRE戦略の実行〜、(3) バランスシートマネジメントの導入〜政策保有株式の売却と株主還元を含めた資本政策の実行〜の3点を挙げた。課題を踏まえたうえで、ガバナンス体制強化や人的資本投資の観点も加えた新中期経営計画を目下策定中であり、2025年3月期第2四半期決算説明会で公表する予定だ。
(執筆:フィスコアナリスト 村瀬智一)
<HN>
2. 中期経営計画「ヤマタネ2025プラン」
長期ビジョンにおいて着実に前進するため、ヤマタネ<9305>はさらに3ヶ年の中期経営計画「ヤマタネ2025プラン」(2023年3月期から2025年3月期)を策定した。2025年3月期は総仕上げ期間となり、スローガン「創業100周年に向けて、豊かな社会づくりにチャレンジしていく」に沿って計画を推進中である。方針として、(1)「チャレンジ領域」と「コア事業領域」に分け、経営資源を適切に配分し規模を最適化する、(2) 環境に配慮した事業活動を推進し、社会に安心と安全、効率性を提供する、(3) これまで築いてきた資本(財務、製造、知的、人的、社会関係、自然)を基盤に、長期的な展望に基づいた事業展開を行う、の3つを掲げた。
財務目標としては、(1) ROE:5%以上、(2) 配当性向:35%以上、(3) 売上高:565億円、(4) 営業利益:32億円、(5) EBITDA:66億円、(6) 有利子負債:40億円削減、(7) 総資産:50億円圧縮、の7つを設定した。
「ヤマタネ2025プラン」の財務目標のうち(6) 有利子負債:40億円削減(7) 総資産:50億円圧縮については2024年3月期末時点で未達となっている。ただし、この2点については単純に中期経営計画策定時にショクカイのようなレベルの大型M&Aを見込んでいなかったことが理由であり、未達に関してネガティブな印象はない。一方、(2) 配当性向:35%以上は達成見込みであるものの、それ以外の目標については(1) ROE:5%以上(2024年3月期実績は5.1%)(3) 売上高:565億円(同645億円)(4) 営業利益:32億円(同34億円)(5) EBITDA:66億円(同69億円)と、いずれも1年前倒しでの達成となった。
定量目標の面からは前述したとおり、おおむね有言実行の状況であることは言うまでもない。定性的な観点から、全体的な中期経営計画に対する実効評価を加えると、物流事業、食品事業での進捗は非常に良好という印象だ。例えば、生鮮食品をはじめとした食品全般の日配及び食品量販店のセンター運営等を主業とし、トランスファーセンター(TC)型の冷凍冷蔵保管や冷凍冷蔵配送にノウハウを有するシンヨウ・ロジを2022年4月にグループに加えた。これにより、新たに食品量販店センター運営等に参入することになり、物流事業のチャレンジ領域の目標は達成した。
食品事業では、ショクカイを2023年10月にグループに収めたことが最大の成果だろう。2025年3月期における収益インパクト要因として期待するのは時期尚早と弊社では考えているものの、食品事業におけるショクカイの最大活用は一段の成長と資本収益性の向上に不可欠なポイントだ。すでに取引関係のある大手食品量販店と新商品開発に向けた取り組み(冷凍おにぎり商品の試験販売)に着手している点はそういった意味でもポジティブな要素である。その他にも、大手食品量販店の冷凍加工食品サプライヤーと商品開発(冷凍米飯/冷凍ピザ/冷凍野菜など)に向け協議を開始しており、会社側としても次期中期経営計画の食品事業の発射台を高くするためにも現中期経営計画期中に進捗を加速させておきたいところであろう。四半期ごとにその推移に注目したい。
また、ショクカイ以外にも連携を加速しており、2023年7月には農家向け脱炭素施策の収益化と、カーボンクレジットの流通サポートを手掛けている(株)フェイガーと業務提携を締結した。加えて、特に林檎に関して特殊な生産農法を持ったベンチャー企業である(株)日本農業への出資と協業も行っており、今後はこれらの協業網を通じたシナジー発揮に投資家の期待も向いていくだろう。特にフェイガー、日本農業との取り組みは、産地の収入を上げる方法の模索が最大の目的であり、持続的かつ魅力的な農業の確立という日本社会全体の課題に対する取り組みという側面もあり、期待したい。また、2022年12月には農業などの一次産業向けの人材支援会社YUIME(株)とも資本業務提携して、常態的に人材不足に悩まされている農家の支援にも道筋をつけている。
企業経営に際して重要度が日に日に高まっているガバナンス面についても一段の強化が進んだ。具体的には、監査役設置会社から監査等委員会設置会社への移行が挙げられる(2023年6月21日開催の第124回定時株主総会で承認)。この変化により、取締役の職務執行の監査等を担う監査等委員を取締役会における議決権を有する構成員とすることで監督機能を強化しつつ、取締役会から取締役への重要な業務執行の委任によりスピードある業務執行を可能とする体制になった。
併せて取締役会の機能強化にも着手し、取締役の人数は6名(うち社外取締役3名:2022年9月22日付の「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」より)から10名(うち社外取締役6名:2024年6月21日付の「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」より)となり、独立社外取締役比率は50.0%以上に拡大した。さらに、取締役には女性2名、外国人1名が抜擢されており、多様性(ダイバーシティ)の観点にも配慮がなされている。また経営陣の、持続的な企業価値向上に対するインセンティブを従来以上に高め、次の100年に向けたヤマタネグループ作りに臨むべく、譲渡制限付株式報酬制度も導入するなど、経営推進体制がさらに整備された。
なお、2025年3月期は中期経営計画の仕上げという意味で、本社が所在する越中島地区の再開発の方向性づくりを加速させる計画だ。社内的には越中島開発推進室を新設し、グループ全体のCRE戦略※を踏まえた開発計画策定の支援役としてケネディクス(株)を抜擢した。加えて、グランドビジョン策定や行政協議、地域連携でナレッジを豊富に有する(株)日本総合研究所、建築に関する技術的支援担当として(株)日建設計の計4社による推進体制を構築した。これら外部専門家と連携し、2025年5月には「越中島グランドビジョン」として計画を公表する予定である。東京駅からのアクセスが良好で、隅田川沿いのリバーフロントに位置している越中島は地理的に非常に魅力的なロケーションである。そういった意味で、従来と同じ倉庫ではなく、街づくりという形で検討を進めているようだ。
※Corporate Real Estate戦略の略で、企業不動産について「企業価値向上」の観点から経営戦略的視点に立って見直しを行い、不動産投資の効率性を最大限向上させる戦略を意味する。
中期経営計画期間の課題として、(1) さらなる利益成長と資本収益性の向上〜コア事業領域とチャレンジ領域の両輪での成長投資〜、(2) 部門別の収益管理と資産効率性の向上〜資本収益性(ROIC)の管理とCRE戦略の実行〜、(3) バランスシートマネジメントの導入〜政策保有株式の売却と株主還元を含めた資本政策の実行〜の3点を挙げた。課題を踏まえたうえで、ガバナンス体制強化や人的資本投資の観点も加えた新中期経営計画を目下策定中であり、2025年3月期第2四半期決算説明会で公表する予定だ。
(執筆:フィスコアナリスト 村瀬智一)
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