*14:44JST 飯野海運 Research Memo(4):環境負荷軽減や競争力強化に向けた環境配慮型船舶を積極投入
■飯野海運<9119>の事業概要
3. 環境配慮型の最新鋭・次世代燃料船
2020年1月から国際海事機関(IMO)の船舶燃料硫黄分の規制(SOx規制)強化が適用開始となった。船舶燃料に含まれる硫黄分濃度を従来の「3.5%以下」から「0.5%以下」とする国際規制の強化である。対応選択肢としては、低硫黄燃料油(規制適合燃料油)の使用、またはSOxスクラバー(船舶の排出ガス中のSOxを除去する脱硫装置)の設置がある。
この規制強化のマイナス影響としては、規制適合燃料油対応仕様に変更するための船用品・修繕費の増加や、従来の舶用燃料油と規制適合燃料油との価格差などのコストアップ要因がある。プラス影響としては、規制適合燃料油の輸送需要の発生や、規制強化に対応できない船が淘汰されることによる需給バランスの改善などで、プロダクトタンカーやケミカルタンカーの市況上昇につながる効果が期待される。
同社の対応としては、規制適合燃料油使用をはじめとする環境規制対応コストを荷主に求め、COA(数量輸送契約)等の契約に反映すべく交渉を行っている。さらに規制適合燃料油使用にとどまらず、海運業における環境負荷軽減や競争力強化に向けた取り組みとして、環境配慮型の最新鋭・次世代燃料船を積極投入している。
2019年12月には同社初の二元燃料主機関搭載メタノール船(規制適合燃料油だけでなく、従来の重油と比較して硫黄酸化物SOxや窒素酸化物NOxの大幅削減も期待されるメタノールを推進燃料とすることが可能)が竣工した。2020年3月には同社初のSOxスクラバー搭載船(VLCC)が竣工した。その後の新造船においてもSOxスクラバー、海洋生態系保護のためのバラスト水処理装置、船尾フィン及びフィン付き舵(Rudder-Fin)などを装備した最新鋭船へのシフトを推進している。2021年1月には同社として5隻目となるSOxスクラバー搭載船(VLCC)が竣工した。また2023年7月には、同社の石炭専用船「YODOHIME」(2016年2月竣工)に、石炭専用船としては世界で初めて風力推進補助装置ローターセイルを搭載することを決定(搭載は2024年7〜9月頃の予定)した。
2022年2月にはEquinor ASA社向けに同社初のLPG二元燃料主機関搭載VLGC「CALLUNA GAS」が竣工した。上甲板にLPGタンクを搭載し、貨物とは別に燃料用LPGを積載することで、規制適合燃料油だけでなくLPGを燃料として使用することが可能になる。SOx規制に対応していることに加え、新造船のCO2排出規制であるEEDI(Energy Efficiency Design Index)規制についても、2022年以降の建造契約船から適用されるフェーズ3に先行対応している。また、本船は主機関ならびに発電機関にNOx排出量を抑制するシステムを搭載することで、NOx排出規制にも対応するなど環境負荷が小さくなっている。さらに2023年3月には同社として2隻目となるLPG二元燃料主機関搭載VLGC「OCEANUS AURORA」が竣工し、同年5月にBorealis AG社との長期用船契約に投入した。本船は同社にとってクリーンエネルギーとして注目されているアンモニアを貨物として積載可能な初めてのVLGCとなる。
2024年2月には三井物産<8031>向けの新造アンモニア運搬船が竣工した。米国ABSによるアンモニア燃料船化の基礎認証を受けて設計・建造された世界初のアンモニア運搬船である。LPG燃料に対応するだけでなく、ゼロエミッション燃料として注目されるアンモニア燃料への切り替えに対応できる環境負荷低減型船舶である。本船は「時代の要請に先駆けて着手し、革新的な挑戦を続けることで持続可能な社会の実現に献身的に取り組んでいく」といった思いを込めて「GAS INNOVATOR(ガスイノベーター)」と命名された。2024年3月には(株)日本政策投資銀行と(一財)日本海事協会が共同運用するZero-Emission Accelerating Ship Financeに基づく評価が実施され、日本政策投資銀行が同社に対して融資を実施した。
なお2023年1月には、A-Eの5段階で毎年の燃費実績を評価・格付けし、一定の評価を下回った船に改善計画の提出と主管庁による認証を義務付けることで、継続的な省エネ運航を促進させることを目的としたCII規制(Carbon Intensity Indicator規制、燃費実績の格付)が施行された。同社は、これらの環境規制に対応すべく、2022年に新設した技術部やサステナビリティ推進部を中心に、次世代燃料船の竣工に加え、海外スタートアップとの協業など、環境対応を加速させている。
また、2024年1月よりEU排出量取引制度(EU-ETS)の海運セクターへの適用が開始された。同制度は、2030年までに1990年比で少なくとも55%のGHG削減を目指した気候変動政策パッケージ(Fit for 55)の一環で、海運業は適用対象外とされていたが、2023年4月の欧州議会・EU理事会にて最終採択により、適用対象となった。EU-ETSは、事業者や施設ごとに排出量の上限を割り当て、過不足分の排出枠(GHGを排出する権利)を売買する「キャップ・アンド・トレード方式」が採用されている。海運に対する排出枠は有償となり、排出量に応じて排出枠を市場などで購入する必要が出てくる。
2024年6月にはBorealis AG社向けLPG 二元燃料主機搭載Ice Class(耐氷船)の長期定期用船契約を締結した。本船はVLGCとして最大船型であり、輸送貨物1トンあたりの燃料消費量を削減するだけでなく、燃料としてのLPGは従来の重油に比べ、二酸化炭素(CO2)、粒子状物質(PM)、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)の排出量を削減することが可能であり、軸発電機モーターを搭載し、陸上電力供給システムの導入も検討するなど、更なる環境負荷低減を目指す。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)
<HH>
3. 環境配慮型の最新鋭・次世代燃料船
2020年1月から国際海事機関(IMO)の船舶燃料硫黄分の規制(SOx規制)強化が適用開始となった。船舶燃料に含まれる硫黄分濃度を従来の「3.5%以下」から「0.5%以下」とする国際規制の強化である。対応選択肢としては、低硫黄燃料油(規制適合燃料油)の使用、またはSOxスクラバー(船舶の排出ガス中のSOxを除去する脱硫装置)の設置がある。
この規制強化のマイナス影響としては、規制適合燃料油対応仕様に変更するための船用品・修繕費の増加や、従来の舶用燃料油と規制適合燃料油との価格差などのコストアップ要因がある。プラス影響としては、規制適合燃料油の輸送需要の発生や、規制強化に対応できない船が淘汰されることによる需給バランスの改善などで、プロダクトタンカーやケミカルタンカーの市況上昇につながる効果が期待される。
同社の対応としては、規制適合燃料油使用をはじめとする環境規制対応コストを荷主に求め、COA(数量輸送契約)等の契約に反映すべく交渉を行っている。さらに規制適合燃料油使用にとどまらず、海運業における環境負荷軽減や競争力強化に向けた取り組みとして、環境配慮型の最新鋭・次世代燃料船を積極投入している。
2019年12月には同社初の二元燃料主機関搭載メタノール船(規制適合燃料油だけでなく、従来の重油と比較して硫黄酸化物SOxや窒素酸化物NOxの大幅削減も期待されるメタノールを推進燃料とすることが可能)が竣工した。2020年3月には同社初のSOxスクラバー搭載船(VLCC)が竣工した。その後の新造船においてもSOxスクラバー、海洋生態系保護のためのバラスト水処理装置、船尾フィン及びフィン付き舵(Rudder-Fin)などを装備した最新鋭船へのシフトを推進している。2021年1月には同社として5隻目となるSOxスクラバー搭載船(VLCC)が竣工した。また2023年7月には、同社の石炭専用船「YODOHIME」(2016年2月竣工)に、石炭専用船としては世界で初めて風力推進補助装置ローターセイルを搭載することを決定(搭載は2024年7〜9月頃の予定)した。
2022年2月にはEquinor ASA社向けに同社初のLPG二元燃料主機関搭載VLGC「CALLUNA GAS」が竣工した。上甲板にLPGタンクを搭載し、貨物とは別に燃料用LPGを積載することで、規制適合燃料油だけでなくLPGを燃料として使用することが可能になる。SOx規制に対応していることに加え、新造船のCO2排出規制であるEEDI(Energy Efficiency Design Index)規制についても、2022年以降の建造契約船から適用されるフェーズ3に先行対応している。また、本船は主機関ならびに発電機関にNOx排出量を抑制するシステムを搭載することで、NOx排出規制にも対応するなど環境負荷が小さくなっている。さらに2023年3月には同社として2隻目となるLPG二元燃料主機関搭載VLGC「OCEANUS AURORA」が竣工し、同年5月にBorealis AG社との長期用船契約に投入した。本船は同社にとってクリーンエネルギーとして注目されているアンモニアを貨物として積載可能な初めてのVLGCとなる。
2024年2月には三井物産<8031>向けの新造アンモニア運搬船が竣工した。米国ABSによるアンモニア燃料船化の基礎認証を受けて設計・建造された世界初のアンモニア運搬船である。LPG燃料に対応するだけでなく、ゼロエミッション燃料として注目されるアンモニア燃料への切り替えに対応できる環境負荷低減型船舶である。本船は「時代の要請に先駆けて着手し、革新的な挑戦を続けることで持続可能な社会の実現に献身的に取り組んでいく」といった思いを込めて「GAS INNOVATOR(ガスイノベーター)」と命名された。2024年3月には(株)日本政策投資銀行と(一財)日本海事協会が共同運用するZero-Emission Accelerating Ship Financeに基づく評価が実施され、日本政策投資銀行が同社に対して融資を実施した。
なお2023年1月には、A-Eの5段階で毎年の燃費実績を評価・格付けし、一定の評価を下回った船に改善計画の提出と主管庁による認証を義務付けることで、継続的な省エネ運航を促進させることを目的としたCII規制(Carbon Intensity Indicator規制、燃費実績の格付)が施行された。同社は、これらの環境規制に対応すべく、2022年に新設した技術部やサステナビリティ推進部を中心に、次世代燃料船の竣工に加え、海外スタートアップとの協業など、環境対応を加速させている。
また、2024年1月よりEU排出量取引制度(EU-ETS)の海運セクターへの適用が開始された。同制度は、2030年までに1990年比で少なくとも55%のGHG削減を目指した気候変動政策パッケージ(Fit for 55)の一環で、海運業は適用対象外とされていたが、2023年4月の欧州議会・EU理事会にて最終採択により、適用対象となった。EU-ETSは、事業者や施設ごとに排出量の上限を割り当て、過不足分の排出枠(GHGを排出する権利)を売買する「キャップ・アンド・トレード方式」が採用されている。海運に対する排出枠は有償となり、排出量に応じて排出枠を市場などで購入する必要が出てくる。
2024年6月にはBorealis AG社向けLPG 二元燃料主機搭載Ice Class(耐氷船)の長期定期用船契約を締結した。本船はVLGCとして最大船型であり、輸送貨物1トンあたりの燃料消費量を削減するだけでなく、燃料としてのLPGは従来の重油に比べ、二酸化炭素(CO2)、粒子状物質(PM)、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)の排出量を削減することが可能であり、軸発電機モーターを搭載し、陸上電力供給システムの導入も検討するなど、更なる環境負荷低減を目指す。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)
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