―トヨタ大復権、テスラと入れ替わり“電動化戦略”で新たなる上昇相場を主導へ―
地球温暖化防止という命題を基点に「脱炭素」という一大テーマが世界の産業構造を変えようとしている。グリーン革命に向け開かれた扉、言い換えれば歴史的パラダイムシフトの中で、400兆円規模ともいわれる超巨大市場を形成する自動車産業もかつてない変革の時を迎えている。
脱炭素に向けた最強のシナリオは、グローバル規模でガソリン車が電気自動車(EV)に変わっていくことだ。一朝一夕にそれが実現に向かうことはあり得ないが、400兆円レベルの巨大市場において徐々にではあっても不可逆的なEVシフトが進むことは、極めて大きな経済的変化をもたらす。新たな需要の創出とそれをバックボーンとしたグループの再編そして合従連衡。投資テーマの観点に立てば、そこには紛れもなく次世代のグロース株がひしめくことになる。
●信頼のトヨタ「電動化戦略」で復権へ
トヨタ自動車 <7203> が東京市場で久しぶりに輝きを増している。時価総額32兆円は国内市場では一頭地を抜く存在で、時価総額2位のソフトバンクグループ <9984> と3位のソニーグループ <6758> を合計しても同社には遠く及ばない。いわば日本の製造業の盟主だが、株式市場ではバリュー株の象徴で安定感はあっても、短期で株価を大きく切り上げていくような、グロース株ならではのダイナミズムは持ち合わせていなかった。しかし、ここ1ヵ月ほどの値運びはこれまでとは様相の違う強烈な上昇波を形成し、既に上場来高値圏をまい進している。特に今週の動きは圧巻で商いを膨らませ上げ幅も拡大、初の1万円大台乗せを指呼の間に捉えた。
今のトヨタ株上昇の背景にあるのは、国内外での自動車販売好調による22年3月期業績の上振れ期待が一つ。同社の4月のグローバル販売台数はグループ合計で前年同月比倍増となり過去最高を記録している。そしてもう一つは、同社の「脱炭素」に対応した柔軟かつ前向きな姿勢、そしてEVをはじめハイブリッド車(HV)や燃料電池車(FCV)などの「電動化戦略」だ。信頼されるクルマをひたすら作り続けてきたトヨタの、EV時代に向けた“本気”が機関投資家の実需買いを誘っている。皮肉にも米EV大手のテスラ
●「テスラ買い‐トヨタ売り」の巻き戻し始まる
株式需給面では「テスラ買い‐トヨタ売り」のロング・ショートを仕掛けていたヘッジファンドのポジション解消に伴い、巻き戻しによる買い需要が発生しているもようだ。更に「国内年金資金のリバランスに絡む“トヨタ買い”も物色人気を後方支援する形で継続的に流入している」(国内証券アナリスト)という。需給的にも歯車は順回転を始めた。いずれにせよ、トヨタ復権の流れは株式市場でも強く意識されている。
電動化戦略についてトヨタは5月12日に2030年を目標年とした計画を発表、HVを含む電動車の販売を800万台としたが、これは従来計画から大幅に強化された内容となっている。そして、同社はカーボンニュートラルにも全面協力姿勢を打ち出している。日本政府は30年度までに温室効果ガスの排出量を13年度比で46%削減し、その先には50年までに排出量を実質ゼロにするという目標を掲げているが、同社は会社としてこの命題に100%コミットする意向を示している。EVの動力源である2次電池の生産設備拡充にも積極的で、22年3月期のEV用電池向け投資額を前期比倍増となる1600億円に引き上げた。
●トヨタに続く日本勢、鮮明化するEV未来図
もちろん世界的なEVシフトに対応して、入念に“下準備”を行っているのはトヨタだけではなく、他の大手メーカーも同様だ。本田技研工業 <7267> は40年にすべての自動車を二酸化炭素を排出しないEVやFCVにする方針で布石を打っている。また、日産自動車 <7201> はもともとEVへの取り組みに関しては他社よりも重点を置いた経営戦略をしいてきたが、ここにきて電池投資に注力の意向を示し、中国系大手メーカーと連携して国内や英国でEV用電池の新工場建設に2000億円超の大型投資を行うと報じられた。この民間の動きを政府も国策として後押ししている。EVを普及させるうえでは充電インフラの拡充は不可欠のテーマであるが、菅政権ではEVやHV向けの急速充電器について、30年をメドに現在の4倍水準である3万基まで増やす計画にある。
海外では米ゼネラル・モーターズ
現在、世界的にEVシフトが加速しているといわれるが、実際のところ新車販売に占めるEVの割合は前年実績ベースでわずか3%程度に過ぎない。しかし、それだけにEV市場の伸びしろは大きいともいえる。恩恵を受ける産業の裾野は広く、株式市場でも関連銘柄は現実買いのプロセスに入りつつある。今回の特集では、EV周辺業界に押し寄せる新たな潮流に乗って、次のステージで株価を大きく開花させる可能性が高い有望株を6銘柄厳選した。
●ここから波に乗るEV関連注目の6銘柄はこれだ
【ジェイテクトはトヨタの電動化戦略で脚光】
ジェイテクト <6473> は5月に入り動きを一変させ急速に下値を切り上げている。直近は1100円台のもみ合いを放れ、1248円まで上値を伸ばし、3月中旬の年初来高値を更新した。大型株に属するが足は軽く、大勢2段上げの様相をみせておりマークが怠れない。光洋精工と豊田工機の合併によって発足した会社で、ベアリングのほか、電動パワステなどの自動車部品や工作機械を手掛ける。トヨタの電動化戦略と同社は密接であり、中期的な業容拡大期待が大きい。トヨタの電池生産設備を同社が製造している関係もあって全固体電池 量産化への道程もトヨタと共に歩む状況にある。22年3月期業績は売上収益1兆4000億円と2ケタ伸長を見込み、税引き前利益は前期比倍増となる325億円を計画する。
【三桜工は収益様変わり、全固体電池に実力】
三櫻工業 <6584> は1100円ラインを軸とするもみ合いから上放れる動きにあり、ここは追撃買いで面白そうだ。19年10月には2050円の高値に駆け上がった経緯がある。当面は3月につけた年初来高値1472円を目指す展開が期待できそうだ。同社は自動車用チューブを製造し独立系ながら国内で40%前後の高い商品シェアを誇る。トヨタが注力姿勢を示す全固体電池分野にも早い段階から参入しており、出資先の米ソリッドパワーは既に全固体電池の開発・出荷の実績がある。足もとの業績も回復色が鮮明だ。22年3月期営業利益は73億円予想で前期比倍増となる見通し。経営構造改革による利益採算の改善が顕著で収益体質は様変わりしており、一段の上乗せも視野に入る。
【関電化はEV向けリチウム電池材料に高実績】
関東電化工業 <4047> は5日移動平均線を絡め目先上値追い鮮明だが、中期スタンスでも目が離せない。4ケタ大台を地相場に一段と上げ足を強める可能性がある。独自フッ素系や塩素系技術で半導体特殊ガスの需要獲得を進める一方、2次電池材料でも強みを発揮する。同社はリチウムイオン電池に不可欠な電解質「六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)」の製造で世界首位級の実力を持つ。スマートフォンなどの情報端末やEVバッテリー向けで高い実績を誇るが、足もとEV向けの伸びが想定以上で収益に貢献している。22年3月期営業利益は前期比24%増の70億円を計画。しかし同社は保守的な数字を出す傾向が強く、前期も期中に営業利益予想を大幅増額したうえ、そこから更に上振れて着地した。
【日本セラミックはEV向け電流センサーで商機】
日本セラミック <6929> はここ戻り足を強めており要注目だ。4月28日に2551円で年初来安値をつけたが、5月相場でガラリと波動が変わった。5月10日にマドを開けて買われ、その後はやや荒い値動きとなったものの仕切り直し、下値切り上げトレンドを形成中。赤外線センサーのニッチトップで国内シェア9割を誇る。EV向けでは、電流を検知して最適なモーター制御を補助する電流センサーを製造しており、中国メーカーからの引き合いが旺盛だ。21年12月期営業利益は前期比16%増の33億円を見込むが、1~3月期に前年同期比62%増の9億1200万円に達しており、上方修正される公算が大きい。なお、中期経営計画では25年度に営業利益50億円を掲げる。
【三井ハイテクはEV向けモーターコアに期待】
三井ハイテック <6966> は4月初旬に上場来高値5340円をつけた後調整局面にあったが、目先売り一巡から切り返しが期待できる。4300円台を横に走る75日移動平均線超えが本格戻り相場の号砲となりそうだ。ICリードフレーム大手で精密金型でも高い商品競争力を有する。高技術力を武器にEV向け駆動モーターにも積極展開。同社の主要顧客はトヨタである。自動車用モーターコアでは年間約160万個の生産実績を誇っており、世界的にEVシフトが加速するなか、海外では中国メーカー中心に高水準の需要を取り込むことが予想される。22年1月期業績は営業利益段階で前期比24%増の47億円を見込むが、会社側計画は保守的との見方が強く上乗せも期待できる。
【HIOKIは電子測定器がEV特需を獲得】
日置電機 <6866> の5000円台前半のもみ合いは買いで対処したい。4月20日に上場来高値5750円まで駆け上がったあと調整を入れているが、売り圧力は限定的で信用買い残も枯れた状態にあり戻りに転じれば足は速い。電子測定器メーカーだが、30年までの長期経営ビジョンでEVなど電動化分野に傾注する方針を打ち出している。電子測定器はEVモーター向けで高水準の需要を獲得しているが、EV先進国の米国及び中国での展開力で優位性を持っている。21年12月期業績予想については第1四半期(1-3月)段階で通期予想を上方修正した。営業利益は従来予想の30億円から47億5000万円(前期比92%増)に、更に年間配当も70円から110円に大幅増額し注目された。
株探ニュース
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