―新型コロナ感染防止ニーズに伴う「食の安全」への関心、訪れた新たな評価ステージ―
今年6月、改正食品衛生法が施行された。18年6月に成立した際には15年ぶりの大改正となったことで話題を呼んだ改正法だが、その後、注目されることは少なかった。それが施行とともにここ最近、注目されている。背景にあるのは、新型コロナウイルスの感染拡大だ。
改正法によって、来年6月までに外食なども含めた全ての食品関連事業者に、一般衛生管理に加えて、食品安全衛生の世界的な基準であるHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の実施が求められるようになる。1年間の経過措置期間はあるものの、今後、義務化に伴うビジネスの増加が見込まれている。新型コロナ感染防止ニーズに伴う「食の安全」への関心の高まりもあり、関連銘柄には注目が必要だろう。
●HACCP導入義務化へ
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)は、欧米など先進国を中心に義務化が進められている衛生管理の手法だ。従来は製造する環境を清潔にすることで安全な食品が製造できるとの考えのもと、製造環境の整備や衛生確保が行われ、製造された食品の安全性の確認は、主に最終製品の抜き取り検査により担保されていた。
これに対してHACCPでは、原料の入荷から製造・出荷までの全ての工程であらかじめ危害を予測し、それを防止するための重要管理点を特定。そのポイントを継続的に監視・記録し、異常が認められたらすぐに対策をとることで、不良製品の出荷を防ぐ。
日本でも食品安全を取り巻く環境の変化や食へのニーズの多様化、食のグローバル化の進展などを背景にHACCPを導入する企業が増加しており、2000年に3.3%だった食品製造業におけるHACCP導入率は17年には33.6%に上昇。調査基準が異なるため単純比較はできないものの、18年には導入済み及び導入途中の割合が34.5%となったが、まだ普及の余地は大きいといえる。
●食品製造業者だけではない対象企業
改正食品衛生法によるHACCP義務化は、食品製造業者や加工業者だけではなく、食品の製造・加工・調理・販売を行う全事業が対象となる。そのため、ホテルや学校、介護施設など調理を行う全ての現場が義務化の対象となっており、更に大手だけではなく、レストランや居酒屋などの小規模事業者も対象となる。これらの現場では、まだ導入していないところが多く、今後導入が進められることになろう。
HACCPの体制構築は、そのままコロナ対策にもなることから、食品関連事業者はコロナ禍をきっかけに導入を前倒しで進める可能性もある。安全衛生に関連する企業だけではなく、導入を支援する企業などのビジネスチャンスにつながりそうだ。
●衛生管理をサポートする銘柄に注目
関連銘柄としてまず挙げられるのは、業務用洗剤大手のニイタカ <4465> だ。同社では、HACCPの基礎となるのは各店舗・現場の条件に応じた最適の衛生管理システムを構築することと位置づけ、衛生管理推進サポートシステム「NICE SYSTEM」を提供。独自のノウハウをもとに、最適な洗剤・除菌剤の選択・提供から、作業効率改善のノウハウ提供、専門スタッフによる実践的な現場指導、講習などによる衛生教育、システム導入後の定期点検など、さまざまな面から衛生管理の推進をサポートしている。
ダスキン <4665> は、食品関連事業者向けにHACCPの導入支援サービスを行っているが、今回の義務化を控えてサービス提供体制を強化した。大手ではHACCP導入が進む一方、中小規模の事業者の対応が遅れていることに対応する。足もとはコロナ禍による飲食店の休業などで苦戦しているもようだが、今後の需要増が期待できる。
ビー・エム・エル <4694> は、臨床検査大手だが、子会社を通じて食品衛生検査も手掛けており、特にノロウイルス検査では国内トップクラス。HACCPに関しても認証取得のためのコンサルティングやシステム診断、妥当性評価などのサービスを提供している。
このほか、衛生検査器材を手掛けるアテクト <4241> [JQ]や、研究用科学機器から工場、病院・介護用品などが揃うWEBショップ「AXEL」で、HACCP対応関連の商品を販売するアズワン <7476> なども注目したい。
●HACCP導入を支援する銘柄も
こうした衛生関連事業を手掛けてきた企業以外にも、HACCP導入を支援する企業は多い。
インターネットイニシアティブ <3774> は6月15日、食品工場や小売店など向けに、冷蔵、冷凍庫や倉庫内の温度を自動監視・管理するIoTソリューション「IIJ LoRaWANソリューション for HACCP温度管理」を7月15日に発売すると発表した。センサーで計測した温度データを収集し、遠隔からスマートフォンやパソコンなどで確認でき、HACCP対応で重要な温度管理のシステムを簡単かつ低コストで導入できるようにした。
サトーホールディングス <6287> 傘下のサトーは昨年、イオンリテール(千葉市美浜区)と共同で、HACCP対応向けにIoTを活用したクラウドシステムを開発した。イオンリテールが運営する各店舗における食品調理加工工程や商品管理にかかる衛生情報の効率的な記録と一元管理を実現したのが特徴で、省力化にも貢献しているという。
ユーピーアール <7065> [東証2]は、パレットなど物流機器のレンタル・販売が主な事業だが、HACCP義務化に向けて、管理運用の雑務を一手に引き受けるIoTパッケージ「HACCPパッケージ」を提供している。冷凍庫や冷蔵庫を遠隔監視し自動でデータを記録・保存するもので、タブレットやスマートフォンからタップするだけで帳票もできるという。
このほかにも、バックオフィスのコンサルティングサービスが主力だが、ISOコンサルティングの延長線上でHACCP導入コンサルを行っているエフアンドエム <4771> [JQ]や、今年2月にHACCP運用をサポートする「食品衛生記録用ハンズフリー対話入力アプリ」カスタマープレビュー版の提供を開始したアドバンスト・メディア <3773> [東証M]なども関連銘柄として注目したい。
株探ニュース
関連銘柄
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