■エムアップ<3661>の決算動向
1. 過去の業績推移
過去の業績を振り返ると、売上高は2018年3月期まで伸び悩んできた。主力の(携帯)コンテンツ事業において、フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行や「着うた」を中心とした音楽コンテンツの急激な縮小などが業績の足を引っ張る要因となる中で、ファンクラブサイトを中心とするコアな会員基盤が業績の底支えになってきたが、新規サイトの獲得ペースが鈍化したことが伸び悩みの原因である。ただ、2019年3月期はEMTGの連結効果が業績拡大に大きく貢献。EMTGの完全子会社化により、ファンクラブサイト数や会員基盤が概ね倍増し、「コンテンツ事業」や「EC事業」の底上げにつながったほか、新たに「電子チケット事業」が加わったことが上乗せ要因となっている。
また、損益面では、営業利益率は2015年3月期まで14%前後の高い水準で推移してきた。2016年3月期の営業利益率の低下は、商品在庫一掃に伴う商品評価減及び本社移転、倉庫移管等に伴う一時的な費用などによるものである。また、2018年3月期以降も、新規事業への先行投資(VR事業や電子チケット事業等)やM&A費用などにより利益率は低調に推移してきた。ただ、2020年3月期については、増収による収益の底上げや一時的な費用の解消などにより営業利益率も改善へ向かう見通しである。
財務面では、設備投資等の必要がない事業特性から無借金経営を続けており、財務基盤の安定性を示す自己資本比率は高い水準で推移してきた。2019年3月期に大きく低下したのは、EMTGの連結化に伴う総資産の拡大によるものである。ただ、無借金であることや、流動比率が130.6%の高い水準にあることなどから、同社の財務基盤の安全性に懸念はない。一方、資本効率性を示すROEについては、利益率の低下等により軟調に推移している。なお、2019年3月期は、EMTGの完全子会社化に伴う会計技術的な特殊要因により大幅な最終損失を計上したため、合理的なROEの算定はできない状況となっている。
2. 2020年3月期上期決算の概要
2020年3月期上期の業績は、売上高が前年同期比162.0%増の5,310百万円、営業利益が同129.9%増の339百万円、経常利益が同97.9%増の343百万円、親会社株主に帰属する四半期純利益が189百万円(前年同期は特殊要因※により2,524百万円の損失)と大幅な増収増益となった。通期計画に対しても順調に進捗している。
※EMTGの完全子会社化(現金及び株式交換によるM&A)を実施するにあたって、M&A合意後に同社の株価が急上昇したことにより、会計学上の解釈に従い、合意時点の株価と完全子会社化時点の株価の差額を特別損失として計上した。ただ、企業会計基準に則った理論上の損失であるため、実際に費用が発生したことはなく、現金収支にも全く影響はないことに注意が必要である。
売上高は、EMTGの連結効果(6ヶ月分)が増収に大きく寄与。「コンテンツ事業」や「EC事業」がそれぞれ底上げされたほか、新たに「電子チケット事業」が追加されたことにより業績が大きく拡大した。また、連結効果を除いても、新規サイトの開設や既存サイトの底上げに伴う会員数の伸びなどにより、好調に推移しているようだ。利益面でも、第1四半期における開発費の一括償却(約1億円)による影響のほか、「電子チケット事業」への先行費用、のれん償却費などがコスト要因となったものの、EMTGの連結効果を含め、増収による収益の底上げにより大幅な増益を実現した。
財政状態については、総資産が「現金及び預金」の減少や「のれん」の償却などにより前期末比4.6%減の9,745百万円に縮小。一方、自己資本は同0.4%減の4,309百万円とほぼ横ばいで推移したことから、自己資本比率は44.2%(前期末は42.4%)に若干改善した。なお、流動負債の「未払金」が大きく減少しているのは、支払いサイトを短縮(統一化)したことが理由である。それに伴って一時的に営業キャッシュ・フローがマイナスとなっているが、「現金及び預金」は依然として潤沢であり、財務の安全性に懸念はない。有利子負債残高もゼロの状態が続いている。
主なセグメント別の業績は以下のとおりである。
(1)コンテンツ事業
売上高は前年同期比152.1%増の4,430百万円、セグメント利益は同100.7%増の645百万円と増収増益となった。EMTGの連結効果(6ヶ月分)が業績拡大に大きく寄与。また、連結効果を除いても、アーティスト等の獲得による新規ファンクラブの開設(4サイト)や、会員向けチケットの先行販売、会員限定のイベントの実施などにより、有料会員数が前年同期比10%増加したことに加え、電子チケット及びチケットトレードサービスのファンクラブサイトへの導入やサイトリニューアルなどにより単価上昇を図ったことで、好調に推移している。一方、EMTGについても、新規7サイトの開設やアプリ課金サイトの横展開により、有料会員数は前年同期比10%増加しており、買収後も順調に伸びている。また、利益面でも、EMTGの連結効果を含め、増収による収益の底上げにより大幅な増益を実現。ただ、第1四半期で開発費を一括償却した影響からセグメント利益率は14.6%(前年同期は18.5%)に一旦低下している。
(2)EC事業
売上高は前年同期比11.7%増の289百万円、セグメント利益は同242.0%増の126百万円と増収増益となった。前年同期における一時的な要因※の剥落があったものの、EMTGの連結効果(6ヶ月分)に加え、アーティストのオフィシャル通販サイトの開設やファンクラブ限定の先行販売などにより2ケタの増収を確保。特に、ライブやイベント会場でのスムーズな物販を可能とするサービス(事前販売及び会場受取サービス等)の開始により足元でも大きく伸びているようだ。利益面でも大幅な増益を実現しており、今後のさらなる収益貢献が期待できる。
※前年同期は、同社が企画・制作から販売までをトータルプロデュースしたhide 20th Memorial Project [hide 1998~ Last Words~](DVDボックス)が一時的な業績の上乗せ要因となった。
(3)電子チケット事業
売上高は535百万円、セグメント損失は93百万円となった。EMTGの完全子会社化により2018年10月より参入した事業であるため、期初からの6ヶ月分が上乗せ要因となった。買収前となる前年同期と比較すると、電子チケットの取り扱いは前年同期比140%増の約111万枚、チケットトレード成立枚数が同168%増の約4.7万枚とそれぞれ順調に伸びている。特に、チケット不正転売禁止法の施行(2019年6月14日)を受けてチケットトレードが順調に推移し、公式2次流通で業界最大規模となっている。また、イープラスとの提携(詳細は後述)や会員向けプレミアムサービス※の開始などでも成果を残したと言える。一方、利益面では、2次流通市場の拡大や周辺サービスの開発など、将来を見据えた先行投資段階にあることから、セグメント損失となっている(ただし、想定内)。
※会員向けの月額課金サービスであり、手数料の割引などのほか、出品優先取引、抽選の際の当選確率がアップする特典などが用意されている。したがって、チケットトレードを効果的に利用したいファンにとって、インセンティブが働く内容となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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1. 過去の業績推移
過去の業績を振り返ると、売上高は2018年3月期まで伸び悩んできた。主力の(携帯)コンテンツ事業において、フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行や「着うた」を中心とした音楽コンテンツの急激な縮小などが業績の足を引っ張る要因となる中で、ファンクラブサイトを中心とするコアな会員基盤が業績の底支えになってきたが、新規サイトの獲得ペースが鈍化したことが伸び悩みの原因である。ただ、2019年3月期はEMTGの連結効果が業績拡大に大きく貢献。EMTGの完全子会社化により、ファンクラブサイト数や会員基盤が概ね倍増し、「コンテンツ事業」や「EC事業」の底上げにつながったほか、新たに「電子チケット事業」が加わったことが上乗せ要因となっている。
また、損益面では、営業利益率は2015年3月期まで14%前後の高い水準で推移してきた。2016年3月期の営業利益率の低下は、商品在庫一掃に伴う商品評価減及び本社移転、倉庫移管等に伴う一時的な費用などによるものである。また、2018年3月期以降も、新規事業への先行投資(VR事業や電子チケット事業等)やM&A費用などにより利益率は低調に推移してきた。ただ、2020年3月期については、増収による収益の底上げや一時的な費用の解消などにより営業利益率も改善へ向かう見通しである。
財務面では、設備投資等の必要がない事業特性から無借金経営を続けており、財務基盤の安定性を示す自己資本比率は高い水準で推移してきた。2019年3月期に大きく低下したのは、EMTGの連結化に伴う総資産の拡大によるものである。ただ、無借金であることや、流動比率が130.6%の高い水準にあることなどから、同社の財務基盤の安全性に懸念はない。一方、資本効率性を示すROEについては、利益率の低下等により軟調に推移している。なお、2019年3月期は、EMTGの完全子会社化に伴う会計技術的な特殊要因により大幅な最終損失を計上したため、合理的なROEの算定はできない状況となっている。
2. 2020年3月期上期決算の概要
2020年3月期上期の業績は、売上高が前年同期比162.0%増の5,310百万円、営業利益が同129.9%増の339百万円、経常利益が同97.9%増の343百万円、親会社株主に帰属する四半期純利益が189百万円(前年同期は特殊要因※により2,524百万円の損失)と大幅な増収増益となった。通期計画に対しても順調に進捗している。
※EMTGの完全子会社化(現金及び株式交換によるM&A)を実施するにあたって、M&A合意後に同社の株価が急上昇したことにより、会計学上の解釈に従い、合意時点の株価と完全子会社化時点の株価の差額を特別損失として計上した。ただ、企業会計基準に則った理論上の損失であるため、実際に費用が発生したことはなく、現金収支にも全く影響はないことに注意が必要である。
売上高は、EMTGの連結効果(6ヶ月分)が増収に大きく寄与。「コンテンツ事業」や「EC事業」がそれぞれ底上げされたほか、新たに「電子チケット事業」が追加されたことにより業績が大きく拡大した。また、連結効果を除いても、新規サイトの開設や既存サイトの底上げに伴う会員数の伸びなどにより、好調に推移しているようだ。利益面でも、第1四半期における開発費の一括償却(約1億円)による影響のほか、「電子チケット事業」への先行費用、のれん償却費などがコスト要因となったものの、EMTGの連結効果を含め、増収による収益の底上げにより大幅な増益を実現した。
財政状態については、総資産が「現金及び預金」の減少や「のれん」の償却などにより前期末比4.6%減の9,745百万円に縮小。一方、自己資本は同0.4%減の4,309百万円とほぼ横ばいで推移したことから、自己資本比率は44.2%(前期末は42.4%)に若干改善した。なお、流動負債の「未払金」が大きく減少しているのは、支払いサイトを短縮(統一化)したことが理由である。それに伴って一時的に営業キャッシュ・フローがマイナスとなっているが、「現金及び預金」は依然として潤沢であり、財務の安全性に懸念はない。有利子負債残高もゼロの状態が続いている。
主なセグメント別の業績は以下のとおりである。
(1)コンテンツ事業
売上高は前年同期比152.1%増の4,430百万円、セグメント利益は同100.7%増の645百万円と増収増益となった。EMTGの連結効果(6ヶ月分)が業績拡大に大きく寄与。また、連結効果を除いても、アーティスト等の獲得による新規ファンクラブの開設(4サイト)や、会員向けチケットの先行販売、会員限定のイベントの実施などにより、有料会員数が前年同期比10%増加したことに加え、電子チケット及びチケットトレードサービスのファンクラブサイトへの導入やサイトリニューアルなどにより単価上昇を図ったことで、好調に推移している。一方、EMTGについても、新規7サイトの開設やアプリ課金サイトの横展開により、有料会員数は前年同期比10%増加しており、買収後も順調に伸びている。また、利益面でも、EMTGの連結効果を含め、増収による収益の底上げにより大幅な増益を実現。ただ、第1四半期で開発費を一括償却した影響からセグメント利益率は14.6%(前年同期は18.5%)に一旦低下している。
(2)EC事業
売上高は前年同期比11.7%増の289百万円、セグメント利益は同242.0%増の126百万円と増収増益となった。前年同期における一時的な要因※の剥落があったものの、EMTGの連結効果(6ヶ月分)に加え、アーティストのオフィシャル通販サイトの開設やファンクラブ限定の先行販売などにより2ケタの増収を確保。特に、ライブやイベント会場でのスムーズな物販を可能とするサービス(事前販売及び会場受取サービス等)の開始により足元でも大きく伸びているようだ。利益面でも大幅な増益を実現しており、今後のさらなる収益貢献が期待できる。
※前年同期は、同社が企画・制作から販売までをトータルプロデュースしたhide 20th Memorial Project [hide 1998~ Last Words~](DVDボックス)が一時的な業績の上乗せ要因となった。
(3)電子チケット事業
売上高は535百万円、セグメント損失は93百万円となった。EMTGの完全子会社化により2018年10月より参入した事業であるため、期初からの6ヶ月分が上乗せ要因となった。買収前となる前年同期と比較すると、電子チケットの取り扱いは前年同期比140%増の約111万枚、チケットトレード成立枚数が同168%増の約4.7万枚とそれぞれ順調に伸びている。特に、チケット不正転売禁止法の施行(2019年6月14日)を受けてチケットトレードが順調に推移し、公式2次流通で業界最大規模となっている。また、イープラスとの提携(詳細は後述)や会員向けプレミアムサービス※の開始などでも成果を残したと言える。一方、利益面では、2次流通市場の拡大や周辺サービスの開発など、将来を見据えた先行投資段階にあることから、セグメント損失となっている(ただし、想定内)。
※会員向けの月額課金サービスであり、手数料の割引などのほか、出品優先取引、抽選の際の当選確率がアップする特典などが用意されている。したがって、チケットトレードを効果的に利用したいファンにとって、インセンティブが働く内容となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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