花の一里塚~市場見通しサマリー
2016年2月1日時点での主要市場見通し
基本シナリオと見通し数値について
1月は、世界市場が波乱に見舞われたが、悪い材料ばかりを騒いだ、株価や外貨相場(対円)の売られ過ぎであったと判断している。現在は、その売られ過ぎの水準から正常な水準への、回帰過程にあると考えている。
一旦株価や外貨相場が適正水準を回復した後のシナリオは、1月号と全く変わりがない。世界の経済等の実績は、全般的に昨年より今年は緩やかに持ち直そうが、国ごと、産業ごと、企業ごとの格差が大きい。
日米共通に、雇用の改善などに支えられて、緩やかな景気回復基調は損なわれていない。ただし米国は、ドル高が重石となって製造業が冴えず、それが設備投資の抑制を引き起こしている。日本は、為替面では米国と逆にかつてと比べての円安にもかかわらず、複合的な要因で、輸出数量が減退している。
欧州は、一段と悪化するような状況にはなく、これまでの金融緩和の効果もあって、少しずつ底入れ持ち直しの動きをみせると見込まれる。新興諸国も、全般には2015年に比べ、実質経済成長率が持ち直すだろう。ただし、インドなど比較的堅調な経済成長が期待できる諸国と、ブラジル、ロシア、中国など状況が悪い諸国に分かれる。
こうしたなか、通常であれば、株価の上昇基調が見込まれるところだ。しかし日本の株価は、7月の参議院選挙までは概ね上昇基調をたどろうが、その後は2017年の消費増税への懸念も前倒しで織り込むと想定され、株価上昇の勢いを失おう。
米国など他主要国の株価は、年末まで持ち直し基調が持続すると想定していたが、1月に余りにも市場が悲観に振れたために、かえって年央近辺に楽観に振れ過ぎる恐れが生じているように見込まれる。特に米景気に対する楽観が強まると、米長期金利の上昇が懸念される。
長期金利の上昇は、短期金利以上に経済や市場への影響力が大きいため、米国株価についても、年央髙・年末安シナリオを想定する。
米ドル・円相場については、米国は米ドル高の悪影響を警戒している。一方の日本でも、中小・中堅企業中心に円安による輸入物価上昇に対して懸念が寄せられている。このため、米ドルの対円での上値余地は最大129円辺りまでに限られよう。まだ日米景気格差・金利格差が大きいため、若干の米ドル高・円安の余地があると見込むが、2016年後半は、125円を中心としたボックス圏内での推移を予想する。米ドル円相場の7~8年前後のサイクルでも、2016年央までに米ドル円相場が一旦高値をつけることがありそうだ。
具体的な予想レンジの修正については、2016年6月までのレンジについて、足元の相場状況を踏まえ、日経平均株価について、下限だけを若干下方修正した。逆に米ドルについては、大幅な円高は一巡したと考え、下限だけを上方修正した。
また、日銀のゼロ金利導入を受けて、国内債券市場が、景気や他国市場などの状況とは全く無関係に、日銀により強制的に金利水準を抑え込まれると考え、2016年前半・後半ともに、予想レンジを大幅に下方修正した。
2016年6月までの予想レンジについて、下記の修正を行なった(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 18000~23000 ⇒ 17500~23000
10年国債利回り(%) 0.25~1.0 ⇒ 0.0~0.4
米ドル(対円) 115~130 ⇒ 117~130
ユーロ(対円) 127~145 ⇒ 変更なし
豪ドル(対円) 85~105 ⇒ 変更なし
2016年12月までの予想レンジについて、下記の修正を行なった(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 20000~23000 ⇒ 変更なし
10年国債利回り(%) 0.3~1.0 ⇒ 0.0~0.5
米ドル(対円) 120~130 ⇒ 変更なし
ユーロ(対円) 130~150 ⇒ 変更なし
豪ドル(対円) 90~110 ⇒ 変更なし
シナリオの背景
・1月の世界的な株価や外貨相場(対円)の下振れは、売られ過ぎであった。
(図表1)
・たとえば国内株価について、予想PER(※1)をみると(図表1)、安倍政権発足後のレンジは13~16倍であったが、そのレンジ下限を一時大きく割り込んだ。
※1 ファクトセット調べ。予想対象の決算期は、向こう4四半期の予想値の合計。たとえば、2016年2月1日時点の予想EPS(一株当たり利益)は、3月本決算期企業の場合、足元の日を含めた2016年1~3月四半期と、それを含めて4四半期、すなわち4~6月期、7~9月期、10~12月期の、アナリストによる予想利益平均値の合計(2016年1~12月)。
・また、今年1月のPERの最低水準は、2014年10月や2015年10月の水準も下抜けている。このため、企業収益に比べ、株価が売られ過ぎの状況に陥ったと言える。
・足元では、企業収益の先行きに対する疑念が強く、アナリストによる利益予想はいずれ下方修正されるという観測が根強い。したがって、予想PER自体、信頼に足らないという声もある。だが、仮に現在のEPS予想値が最終的に1割下方修正されるとすれば、1/22に終わる週の「正しい」PERは、12.3÷0.9=13.7倍となり、そうした利益予想の下方修正を前提としても全く割高ではない。
・ちなみに、1月の株価下振れ時は、企業業績見通しの下方修正の背景としては、1)中国等新興国の景気悪化(原油価格下落による産油国の景気悪化を含む)と、2)一時に比べての円高が、要因として挙げられていた。足元では1)は特に変化はないが、2)は米ドル円相場が再度120円超えとなって、薄れている。
・EPS予想値が変わらないままで、PER=13倍の日経平均(※2)は17538円、14.5倍は19561円、16倍は21585円となる。すなわち、レンジの中間値の14.5倍で2万円近辺となるので、その株価水準が、1月の「売られ過ぎ騒ぎ」が一巡した後の「正常な」株価位置だとしてもおかしくはない。
・企業業績懐疑派に百歩譲って、やはり予想EPSが1割下方修正されるという前提を置けば、PER=13倍の日経平均は15784円、14.5倍は17605円、16倍は19427円。2月初の日経平均(2/1(月)の終値は17865円)は全く割高ではないし、2万円の水準は割安ではなくなるが、近年のレンジから見て著しく買われ過ぎとも全く言えない。
・米ドル円相場については、日本に近い中国において、景気悪化や株価下落に対する懸念が強まっても、「リスク回避のための円高」として円が買われたのは、やはりやり過ぎであったと言える。欧米でリスクが発生し、欧米から日本への資金逃避が起こることで、米ドル安・円高、ユーロ安・円高になることは、全く不思議ではない。しかし中国(あるいは北朝鮮の核実験など)のリスクで、遠く離れた欧米から日本にリスク回避のための資金逃避が起こる、というのは、全く的外れだ。この点で、円が買われ過ぎであったと言える。
・また、シカゴ先物市場における円の売り残・買い残の動向をみると(図表2)、安倍政権始まって以来初めての円の買い残超(グラフはマイナス)となっている。この点でも、円買いが行き過ぎており、むしろその先、円の売り戻しが進むことが示唆されていたと言える。
・1/29(金)に、日銀がマイナス金利の導入を発表し、そこから内外株高・外貨高(対円)が進んだが、その本質は、マイナス金利の導入が、実体経済などに対して大変効果がある、ということではなく、述べたような株価や外貨の売られ過ぎが剥落に向かったことだ、と考える。
※2 日経平均株価とTOPIXが同率変動するという仮定を置いている。
(図表2)
・というのは、マイナス金利の仕組みは、日銀が量的緩和のため国債を民間銀行から買い取り、その代金を各行が日銀に設けている当座預金に振り込むわけだが、当座預金に資金を放置しても、その資金をおろして銀行の手元に現金として置いておいても、マイナス0.1%の金利が課せられる、というものだ。したがって、銀行が当座預金や現金として置いておくことができず、その資金を融資や証券投資へ回す(たとえば、国債を買って金利が下がる、外貨建て資産を買って円安になる、あるいは株式やREIT等への投資が行なわれる)のではないか、という狙いがあるわけだ。
・しかし融資が伸びないのは借り手となる家計や企業の資金需要が乏しいためで、銀行側がいくら貸そうと思っても簡単に融資が増えるわけではない。リスク資産への投資も銀行は慎重であると見込まれ、結局マイナス金利を支払う分だけ銀行の収益が圧迫される展開も否定できない。また、運用難の資金が国債に流入し、国債利回りが低下してそれにつれて貸出金利が押し下げられれば、銀行の稼ぎが圧迫される。
・こうした動きは、個別行格差(融資先を見つける力や運用力の差)を顕著にしながら、銀行収益全般を圧迫する恐れがあり、マイナス金利が経済にプラスに働くかどうかは「実験」だと考えている。
(図表3)
(図表4)
・さて、内外株価や外貨相場が適正水準に復帰した後だが、年央にかけては株高・外貨高気味なものの、年後半は株安・外貨安気味で推移する、というシナリオを変えていない。
・まず米ドル円相場については、米国経済が、米ドル高による輸出下押し圧力を受けて、製造業の不振が目立ち始めている(図表3)。輸出の減退は、米ドル高だけではなく、新興諸国の景気悪化もあるが、輸出減退→生産の減少→設備投資抑制→設備関連製造業の不振、という経路でも製造業に重石となっている。米国では非製造業が比較的堅調なため、米ドル高に対しての米国の姿勢は強硬なものではないが、米政府として米ドル高を歓迎しない姿勢がにじみ出てこよう。
・また、円相場が変動相場制に移行して以降の米ドル円相場(図表4、月中平均値)をみると、ピーク(米ドル高・円安の頂点、グラフで見たピーク)の間の期間は、7~8年を中心として、そこからやや長短はみだしたこともある、という間隔だ。
・現時点では、直近では2015年6月(123.79円)が米ドル高・円安のピークとなっており、その前のピークとの間が7年11か月となっている。すると一つの可能性としては、今後数年間は、月中平均が123.79円を超えることができない、という展開だ。
・しかし、足元の日米の景気格差、金利格差を考えると、今年もう少し円安・米ドル高が進む余地があると見込んでいる。それでも、仮に今年6月辺りに、123.79円を超えてピークをつける(たとえば6月の平均値が125円になる)形で直近ピークを更新すると、前のピークとの間が8年11か月となり、その一つ前の間隔と並び、最長タイ記録となる。こうした展開の場合、さらに今年後半や来年以降にピーク更新を続ける、というのは難しいように思われ、2016年は年前半円安、年後半円高、という展開(とは言ってもそれほど大きくは円高に振れ戻らないとは考えるが)は、あってもおかしくない。
・日本の株価が、年央高・年末安になる可能性は、前号の当レポートでも述べた。すなわち、参院選(選挙前は政府が経済政策に前向きな姿勢を見せるが、選挙後はその姿勢が薄らぐ)、消費増税(2017年4月から税率が引き上げられるという前提で、それを株価が早めに織り込みに行く)といった要因だ。
・加えて、米国長期金利の上昇が、年央辺りから進む可能性がある点が、気がかりだ。
・1月は、昨年12月の米連銀による利上げで、世界の株式市場から資金が米国に一斉に引き上げるかのような説が横行し、世界市場の波乱要因となったが、これは行き過ぎだ。
0%の短期金利であれば投資家が世界の株式にどんどん投資し、0.25%になったとたんにどんどん引き上げる、というのは、極めて考えにくい。
・また、短期金利が今年大幅に上がることは想定しがたい。政策金利であるFF金利と製造業の景況感を比較すると(図表5)、過去は製造業の景況感が改善している局面(図中の矢印)で、最初の利上げが行われている。
(図表5)
(図表6)
・しかし今回は、製造業の業況感が悪化する局面での最初の利上げだ。繰り返しになるが、非製造業の好調さがあるため、利上げ自体が理不尽とは言えまい。しかし製造業の不振が広がるなかで、今年の利上げは極めて限定的となろう(年1~2回と予想)。
・こうした先行きの短期金利の上昇が限られている環境では、1月のような「利上げ騒ぎ」は騒ぎの域を出ない。
・ところが、長期金利は、企業の景況感と比べて、現在下に離れたままの状況だ(図表6)。足元の世界株価の売られ過ぎが解消され、原油価格下落も一巡すると、米国市場を含めた各市場が楽観に包まれることはありうる。1月の市場波乱が悲観に振れ過ぎていたように、年央辺りに楽観に振れ過ぎる展開が現れることは否定できない。
・その時、「米国景気は強く、それが米国株価の堅調さとなって表れているのだ、とすれば、長期金利も上がってもおかしくない」となれば、米長期金利が上昇して行くこととなろう。その際に、ゆっくり上がってくれればよいのだが、上げが急速なものとなる展開がありうるだろう。短期金利は一気に1%幅上がることはありえまいが、長期金利が短期間に1%上昇するようなことは、ありえなくはない。
・経済に与える影響は、短期金利より長期金利の方が格段に大きい。家計の住宅ローンや企業の借り入れ金利は、短期より長期に連動する。また投資の面でも、年金等は短期ではなく長期債の運用と株式投資を比較することが多く、長期金利が跳ね上がった方が、株式投資の意欲が減退すると考えられる(※3)。
・こうした点から、年央に世界市場が楽観に包まれることがあれば、それが米長期金利上昇を招き、年後半に世界の株価が波乱に再度見舞われる、という展開を懸念しているわけだ(とは言っても、今年1月の安値を割り込んでいくとは考えていない)。
以上、シナリオの背景。
このあと、前月号(2016年1月号)見通しのレビュー。
※3 年金等がアセットアロケーション上の観点で、長期金利上昇によって保有債券の価格が全般的に下落したことから、株式売り・債券買いのリバランスを行なう、という面もある。
前月号見通し(2016/1/4時点)のレビュー
①日経平均株価
・1月の日経平均株価は、予想以上の下振れとなった。ただし、実態悪によるものではなく売られ過ぎだと考える。実際の日経平均株価も、レンジ内に戻ろうとの動きをみせた。早晩18000円を超えると予想するが、戻り切れなかった分だけ、レンジ下限を下方修正する。
②国内長期金利
・国内長期金利は、株価下落や円高もあって、低下気味で進んでいたが、日銀のゼロ金利導入でさらに下振れした。人為的な相場が続くと考え、予想を全面的に下方修正する。
③外国為替相場
・1月は、各外貨相場が対円で下振れしたが、米ドルは予想レンジ内で底打ちした。ユーロは若干、豪ドルはやや大きく、予想レンジを割り込んだものの、予想レンジ内に戻って1月を終えている。
・今後も年央に向けては、外貨相場は対円で回復基調を持続すると考えている。
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