花の一里塚~市場見通しサマリー
2015年11月2日時点での主要市場見通し
基本シナリオと見通し数値について
前号までで掲げていた、長期楽観シナリオを堅持する。ただ、一気呵成の株価上昇などを予想するということではなく、緩やかな世界経済の持ち直しを背景に、二進一退的な世界市場の好転を見込んでいる。
特に足元は、中国景気の悪化が日米等他国の景気や企業収益に大きな悪影響を与えるという懸念を、相当市場が織り込んだため、むしろ「それよりはましだった」というデータを受けて、市場が明るい反応を見せる例が目立つ。
個別企業の株価や個別国の株価・通貨相場の格差が拡大する、という見解も変わらない。
具体的な予想レンジの修正については、国内長期金利は、足元の低迷を受けて、やや下方修正した。その他の資産に関しては、2015年12月までの予想について、予想期間末(2015年12月)までの期間が短くなったことを受けて、必要なものについては予想レンジを狭めた。
具体的に、2015年12月までの予想レンジについて、下記の修正を行なった(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 17500~21500 ⇒ 18000~21000
10年国債利回り(%) 0.3~1.0 ⇒ 0.25~0.9
米ドル(対円) 115~127 ⇒ 変更なし
ユーロ(対円) 130~150 ⇒ 130~145
豪ドル(対円) 83~100 ⇒ 変更なし
2016年6月までの予想レンジについては、全く修正はない。
シナリオの背景
前号(10月号)のシナリオから、世界経済・市場に対する見方に全く変わりがないため、ざっと投資環境を点検したい。
日米両国については、景気について「中だるみ」あるいは「踊り場」の色合いが濃くなったことは事実だ。
米国では、雇用統計の非農業部門雇用者数前月比が、8月、9月と20万人を下回る増加にとどまり、景気の先行きに対する警戒感を強めている。雇用者所得の代用変数として注目している、週当たり総賃金(非農業部門雇用者数×週当たり労働時間×時間当たり賃金)も、これまで順調な増加を示していたが、8月から9月にかけて減少した(図表1)。
ただし総賃金の9月の減少は小幅にとどまっており、他の経済指標も内需中心に堅調に推移している。外需関連指標には、中国等他国経済の減速や米ドル高が影を落としている(鉱工業生産の減少やISM製造業指数の悪化など)が、米国経済全体の緩やかな回復シナリオが覆るほどではない。
こうした外需中心の懸念は、既に株式市場では先行して織り込まれていた。現在は7~9月期の決算発表がかなり峠を越したところだが、事前にはS&P500種採用企業の税引後利益は、前年比で4%程度の減少になるとの観測が有力だった。しかし現時点では、(まだ決算発表が全て終わったわけではないが)1%前後の減益にとどまるとの見方が有力になっている。
こうした「懸念したほど悪くなかった」という決算内容(最近ではアップルが典型例)を受けて、米株価が持ち直し、それが米ドルの強材料となる展開がしばしば生じている。
(図表1)
日本でも、中だるみ色は強い。失業率はかなり低下してきた(図表2、失業率は逆軸なので、失業率が低下するほどグラフは上に向かう)ものの、所定外労働時間(残業や休日出勤の時間)は前年比で減少しており、雇用のひっ迫感が強まっていない。
消費者心理は、2014年4月の消費増税による悪化から概ね改善傾向にあるとは言えるが、このところ足踏み状態となっている(図表3)。
輸出数量も、円相場が円安水準で推移し続けているにもかかわらず、前年比で減少を続けている。企業の設備投資意欲も盛り上がらず、結果として企業の生産が抑制されているため、11月16日に発表予定の7~9月期の実質経済成長率(前期比ベース)は、4~6月期に続いて、2期連続のマイナスの可能性が囁かれている(※1)。
※1 景気不振に対応するため、政府がこのGDP発表日の前後に、補正予算案を具体化する可能性は高いと考える。ただし財政面で制約があるため、総規模が抑制されるうえ、いわゆる「真水」(純粋な財政支出)はさらに絞り込まれよう。さらに予算は国会の承認が必要であるため、補正予算の執行には、早くて次の国会(来年1月4日召集と見込まれる通常国会)を待たなければならない。
(図表2)
(図表3)
しかし国内株式市場においては、こうした日本経済の状況や中国経済悪化の影響による、業績懸念を、やはり先行して織り込んでいたと推察される。このため、足元進んでいる4~9月期の決算発表で、特に外需系企業(安川電機、オークマ、村田製作所など)について、想定に比べて業績内容が堅調であるとして、株価が上昇する展開が目立った。
(図表4)
実際の中国経済については、悪化が続いていると考える。財新による製造業業況感指数(旧HSBC業況感指数、中国国家統計局の発表数値とは別)をみると、10月分はやや持ち直したものの、悪化傾向を脱したとの確信は得難い(図表4)。
ただ、述べたように、日米等主要国の株式市場は、いたずらに中国景気悪化におびえるのではなく、実際の経済データや企業収益実績でその度合いを確かめながら、手探りで明るい方向を目指し始めたように思われる。
こうした点から、よほど想定外のことが生じない限りは、投資先となる企業や国を厳しく選別しながらも、世界の投資資金は、慎重に少しずつリスクを取って投資を拡大していくものと期待される。
以上、シナリオの背景。
このあと、前月号(2015年10月号)見通しのレビュー。
前月号見通し(2015/10/2時点)のレビュー
・10月の日経平均株価は、予想通り、レンジの下限から上限に向かう動きをみせた。年末までの時間が少なくなってきたため、今月は予想レンジを絞り込むものの、今後も一進一退ではあろうが、少しずつ市況は明るさを増してくると予想している。
②国内長期金利
・国内長期金利は、予想レンジ下限に絡んだ動きを続けている。内外景気の中だるみ、米国の利上げの遅れなどから、まだ低水準で推移すると見込み、予想を下方修正する。
③外国為替相場
・10月は、3通貨とも予想レンジ内での推移となった。ただし、米ドルが主にレンジの中央で推移したのに対し、ユーロや豪ドルは下限に近い推移であった。
・特に豪ドルについては、中国経済悪化の影響や国際商品市況の低迷など、豪ドルの弱材料をかなり織り込んで現水準にあることから、今後はむしろ上値余地が大きいと考える。
・今後の予想レンジは、ユーロの予想上限を小幅修正するにとどめる。
◆関連サイト
馬渕治好氏が代表を務める事務所 ブーケ・ド・フルーレット
馬渕氏の詳細レポートがいよいよ販売開始!お申し込みはコチラ!
最新人気記事
新着ニュース
新着ニュース一覧-
今日 15:35
-
-
今日 15:33
-
今日 15:32