あっちは、伝説のお荷物と呼ばれてきた。
そして10年単位で年月が流れ、隙間を狙って珍獣枠で生き残り、今や売り手市場だ、ざまあみさらせ。お荷物から売り手市場へ、それは、あっちに並外れた図太いメンタルがあったからだと、誠しめやかに囁かれる。1円ハゲ発、10円ハゲ経由、500円ハゲ定着と、ストレスハゲを拡大させてきたのに失礼な話だ。
あっちが生き残れたのは、ありがたい先輩に、必殺技習得を強制されたからだぞ?
毎日、自分がその日一日で幸せだったことを書いて提出しろ。必ず、ああ幸せ、で締めろと言われた。
はぁ? 何やそれ、あっちは小学低学年のガキでっか??? リーダーの頭にはハエでもわいてるんちゃうかと思った。
職場に行けば嫌味と当てこすりの連続、頭にげんこつも毎日で、萎縮して出来ていたことも出来なくなっていた。
胃潰瘍一歩手前、鬱病半歩手前の状態で、どっから幸せを引張れちゅうねん。
書くネタがないから書けないし、ぶっちゃけ書く気も起こらない。
そしたらリーダーに、仕事終わりに聞き取りをされ、その場で1行書かされた。今のを書けって? え? そんなんでいいの??? な、あっちの幸せの数々が下記のとおりだ。
くだらない。実にくだらない。崖から落ちて病院送りで幸せってバカだろう、落ちた時点で不幸だ。
天気がらみが書いてある日は書くことが無かった日か、ド級で嫌なことがあった日だ。こじつけ感がにじみ出る仕上がりだ。
だが、このくだらない一行の積み重ねの破壊力は、超絶ハンパなかった。1年やらされてみろ、その日のネタほしさに、今日の幸せを探している。無意識レベルで幸せにばっか目がいく。
「今日の○○さんの嫌味は、格調高く文学的表現だった。おかげで語彙が増えた。ああ幸せ」なんて記入しだすしまつだ。
いつのまにか、不眠は解消され、ノーテンキ度数は大幅アップ。久しぶりにその時のリーダーに会った。昔話から連絡帳の話になった。
当時のあっちは、いつ誰を刺してもおかしくない危険人物リスト入りしていたそうだ。
おまえは計画して練って行動するタイプだから、何かやらかすときには大きくなる。夜中にイッた目をして、無表情で刃物の手入れをしているのを見た日にゃあ、早く手を打たないと大惨事だと本気で焦ったと真顔でのたまわれたあと、とってつけたように大笑いされた。
・・・よかった犯罪者になる前に止めてもらえてというべきか、失礼ちゃうんかそれというべきか、複雑だ。
コロナ禍で、国全体が息苦しくなっている今日このごろ、あっちは幸せの一行日記を再開している。
ありがたく今日も幸せだ。