映画ずきのしんちゃんさんのブログ
新冷戦のリスク
世界はロシア、中国と西側との新冷戦という新たな地政学的なリスクに直面している。ウクライナでの暴動、中国とフィリピン、ベトナムの衝突にもかかわらず、恐怖指数などといわれるVIX指数は低く、市場は、大規模な紛争に発展する可能性をあまり考えていないようだ。マーケットの関係者はどうしても経済から世の中を見る。だから相互依存関係の高くなった今日の世界では、結局どこかで妥協が成立するのではないか、と希望的な観測で考えがちだ。だか、果たしてそうだろうか。
まず考えなければいけないのは、現在の混乱の大元は、アメリカの威信の低下が最大の原因である、ということだ。シリアにせよ、ウクライナにせよ、アメリカに全く存在感がない。アメリカに世界秩序を仕切る力がなくなっていることがいまや明確になっている。イラクアフガニスタンで莫大な犠牲を払って、いったいアメリカにはどれほどの成果が得られたのか。こう考えれば、アメリカが内向きになるのも理解できる。アメリカの国内の、民主党と共和党の深刻な対立も、アメリカ政府の財政を圧迫し、その軍事的外交的なパワーを大きく阻害している。アメリカはいまや世界の警察官の重荷を担う資源と意志を喪失しつつある。
とすれば、ロシアや中国を筆頭に、アメリカにとってかわろうとするプレーヤーがでてくるのは当然だ。下手をすると、アメリカをアジアから締め出して中国に朝貢する国家群からなる新たな中華帝国ができあがる危険すらある。ロシアはロシアで、かつての衛星国家を取り戻そうとするかもしれない。経済の相互依存がすすんでいるから、そうした旧時代の帝国主義的政策や、群雄割拠などはありえない、と思う向きもあろう。しかし現にクリミアでそれはおこり、国際社会はなす術もなく追認している。政治というのは、経済的合理性で動くわけではない。政治家は、プライドや見栄や、選挙での反応をかんがえて、長期的には経済的な利害に反するシナリオでも、実践する。クリミヤの併合や、南シナ海での島の争奪戦は、経済的な合理性ではなかなか説明がつかない。大国の力の誇示という、政治家にとってはるかに重要なものがかかっているから厄介なのだ。
動機はともあれ、ロシアと中国は、再びアメリカと対抗するブロックを再構築しようとしているようにみえる。ロシアと中国の利害は必ずしも一致せず、こうしたブロックは経済的にはペイしないし、長期的には成功しないだろう。だがしばらくは非合理的な幻想がこうした国の政治家の脳髄を支配し、新冷戦が、深刻化してゆく可能性がある。アメリカの政治的軍事的威信が回復しないと、さらに別のならず者国家が徘徊し、ますますアメリカの威信が低下するという負のスパイラルに巻き込まれる危険もある。問題は、それが世界の自由貿易秩序を萎縮させ、覆してしまうことだ。そうなれば、世界経済は重大な下降リスクを負わねばならない。もとよりあからさまな軍事的な対抗策をとれば、事態をエスカレートするだけだ。ロシア中国の挑発にのれば世界は混乱に陥る危険がある。安全保障をめぐる状況がかわりつつあるからこそ、日本も、対立をあおらないように慎重に、しかし抜かりなく対処してゆく必要があろう。ただ新冷戦のリスクは確実に高まっており、マーケットを時々震撼させる事態が起こる可能性は覚悟しておかねばならないのではないだろうか。今流れている中国軍機の異常接近のニュースも、その一端かと思えてならない。