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根本から考える(7) - 放射能とリスク

 久しぶりに良い書物を読んだ。ウェード・アリソン著、峰村俊哉訳、徳間書店刊、「放射能と理性」は類まれな科学啓蒙書であり、放射能を恐れて限りなく安全基準を下げないと安心できないという人々の声が日本中に満ち満ちている今、まことに時宜を得た本であると思う。今の日本人はこの本の受け入れる準備ができていると思う。日本人が原発事故で蒙ったダメージ(心理的なものと環境汚染と技術への一時的な不信感)から目を覚まし、立ち上がるために、この本はその道案内をしてくれると信じます。
 ただし、一般向けに書かれた本ではあるけれど、読者に相当の科学知識と冷静で正しい判断とを要求する。ハッキリ言って理解するには相当骨が折れる。翔年は2回通読しましたが、著者の意図するところを大雑把に理解するのがやっとで、細部を完全に理解することは困難だったことを、最初に白状しておきます。

ウェード・アリソン著「放射能と理性」


 著者のメッセージは
「月100ミリシーベルトまで安全基準を引き上げても大丈夫」
というものです。
 その根拠と証拠がデータに裏打ちされた広範な最新の科学的知見で正確に記述されている。そして事故のリスクを低減させるための意思決定は、社会の成員すべてに影響をもたらす。言うまでもないことだが、リスク水準をどう考えるか、どれだけのリスクを許容するべきかが縷々論じられている。著者は
「私たちはリスク・ゼロを求めるべきでない。(中略)人間一人ひとりが感じる恐怖は、絶対的で定量化はできないかもしれないが、どうにかしてコントロールする必要がある。」
と述べている。これは「理性で判断しなさい」ということでしょう。

 「放射能と理性」の目次をピックアップして、何が論じられているかをキーワードで紹介します。

プロローグ
第一章 人々の受け止め方
 錯誤、個人のリスクと知識、個と集団の意見、自信と意思決定、科学と安全

第二章 地球の大気環境
大気の規模と組成、大気の変化、エネルギーと農業
→ 地球規模の視点を離れて、もしくは無視して、原発や放射能のことのみを論じて結論を下してはならないということでしょう。広い視点を持つ著者に敬意を表します。

第三章 原子核の話
 人体から原子核まで、原子と電子、有核原子、原子核が不活発な理由、太陽という核融合炉
→ 放射線とは一体なんなのか? 「移動中のエネルギー」だそうです。その詳細な答えはこの章と次の章にあります。

第四章 電離放射能とは何か
 放射線のスペクトル、放射線によるダメージ、放射線の測定、自然環境での放射線

第五章 安全と損傷のバランス
効果は比例するか、リスクのバランスをとる、人間の防御機能、損傷とストレスの関係、修復のスケジュール、集団線量の意味、安全率を考える、複合的な要因、有益な適応効果、チェルノブイリでの驚き
(チェルノブイリからの報告)
「チェルノブイリ周辺は予想されたような不毛の地ではなかった。高い放射能レベルにもかかわらず、野生の動植物が生き残っており、かえって繁栄している例さえあった。(翔年:人間がいなければ野性の天下だもの、人間の居住は大規模な放射能汚染と同じかそれ以上の悪影響を環境に及ぼしているのかも知れません))
ウクライナ出身で米国で活動するメアリー・マイシオは、チェルノブイリ周辺で長期の取材を行い、現地で見つけた豊かな植物相と動物相について本を執筆した。チェルノブイリを題材にしたBBCのドキュメンタリー番組も、2006年7月にマイシオと同じ結論に達している。」
→ 上は104ページの抜粋です。われわれは、放射線の生命への影響を分析する際に、昔から用いられている前提の多くを、改めて検証し直さなければいけないと確信します。

実験用ラットとチェルノブイリ原発作業員の死亡率(興味のある方は是非拡大してご覧ください)

→ 左の大量被爆時の人間の線量-死亡率曲線は、LNTモデルの直線ではなく、非線形のS字型で示されると読み取るべきだろう。人間を使った厳密な実験を何度も繰り返すことは難しいにしても、原爆実験、不幸な事故、医療による治療のための被曝事例等あらゆるデータを集めて、学者の見解が早く集約されることが望まれる。そして今わが国にも求められているのはこの本の著者のような科学分野で深くてかつ広い知見を持ち勇気ある発言ができるゼネラリストだと思う。

第六章 放射線による急性被曝
 分子にたいする影響、細胞に対する影響、大量被爆時における証拠、生体の修復メカニズム、少量から中程度の被爆、ヒロシマ・ナガサキの生存者、放射線で引き起こされる癌、医療診断用スキャン、核医学、チェルノブイリの被爆者たち、子供の甲状腺癌、チェルノブイリにおけるその他の癌

第七章 放射線による慢性被曝
 線量の分散化、癌治療にみる放射線被爆、分割化による利益、自然環境からの被爆、ラドンと肺癌の関係、放射線作業員と文字盤塗装職人の場合、生物の防護機能の詳細
→  低線量の被爆を生物がこうむった場合、生体がどのようにして防護するのか、その防護システムをかなり突っ込んで論じている。

第八章 原子力を利用する
 原子力エネルギーの解放、爆弾としての原子力、核分裂による発電、軍事利用と平和利用、廃棄物をめぐる問題
→ 例えば1ギガワット級の火力発電所は毎年650万トンの二酸化炭素を排出する。いったん排出されてしまった二酸化炭素は地球規模でやっかいな問題を起こし始めている。危険な毒性の重金属を含む大量の灰は、浅い処分場に埋め立てられ、永久的にその場に残留する。原発からの核廃棄物は量が少ないこと、環境内へ放出されないことが特徴だ。同じエネルギーを生産するとして比較すると、原発が使う燃料は火力発電所の約100万分の一。廃棄物は二酸化炭素と違って、貯蔵することも出来るし、処理して安全に埋めることも出来る。半減期が30年と長いストロンチウム90とセシウム137にしても、100年後には十分の一に、300年後には1000分の一になる。一方、石炭火力の廃棄物に含まれる砒素やカドミウムなどの重金属は、永遠に消えることはない。このようなところにも及ぶ科学の目は信頼するに値しますね。

第九章 放射線と社会
 放射線にたいする理解、多くの人々の懸念、核実験と死の灰、抑止と安全のコスト、放射線の安全を評価する

第十章 持続可能性に向けて
 規制緩和の対象、進化する原子力発電、ウラン資源と政治、廃棄物への戦略、廃炉の工程表、核融合発電の可能性、コストと経済性の両立を目指す、飲料水と食料への寄与、再び教育と理解という原点について

第十一章 総括と結論

エピローグ フクシマ2011


 原子力の平和利用に賛成の方も反対の方も、是非読んでいただきたいと思います。好著であることは間違いありません。


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