南蛮煙管(ナンバンキセル)=思い草

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南蛮煙管(ナンバンキセル)=思い草

 昨日久しぶりに奈良へ行って、春日大社の「万葉植物園」を散策し、「山辺の道」を歩いた。万葉植物園は万葉集に詠われている植物が約300種植栽してあるという。(別名がついているのを整理すると160種とか)
 たまたま園のススキの根元にさいていた「思い草」(南蛮煙管)の生態が面白かったので、ここに記録しておきたい。

南蛮煙管=思い草


 まず名前がユニークだ。万葉集には「思い草」の名前で詠われているのが南蛮煙管と考えられている。南蛮渡来の煙管の形にそっくりな形態なのでこの名がついたらしい。またこの植物は葉緑素を持たない故に、尾花とかサトウキビの根に絡み付いて生きる宿根草なのだから、古歌の情景ともよくマッチしているので間違いないと思われる。

道のへの 尾花が下の 思ひ草 今更さらに 何をか思はむ  万葉集(読み人しらず)
(意訳:道端の尾花(をばな)の元に咲いている思ひ草のように、いまさら、何を思い悩んだりしましょう。あなたのことだけ想っています)

くれはつる尾花がもとの思ひ草はかなの野辺の露のよすがや    藤原俊成女
(意訳:すっかり暮れ果てた野辺の、尾花のもとに咲いている思い草は、はかない露が身を寄せるよすがであるよ)と自分の物思いを「思い草」の情景に託している。

臥しわびぬ我がふるさとをおもひ草をばながもとの夢もつたへよ    下冷泉政為
(意訳:思い草を屈んで見ながら故郷を偲んでいます。思い草よ。昔の楽しかった夢も思い出させておくれ)


 この草花、名前がいいのでいい俳句がありますね。

思ひ草思ひしをれて紅さして    戸塚黒猫子
※さる女性の見解では女は元気がなくなると濃い化粧をする傾向があるそうな

異草(コトク゛サ)にまぎれてかなし思ひ草    富安風生


※煙管のカルチャーショック
1 日本人は当時の紅毛人(スペイン人やポルトガル人)のキセルの形に驚いていたからこそ、花にまで「南蛮煙管」なんていう大仰な名前をつけたのだろう。
2 タバコがヨーロッパに持ち込まれた頃、主人の口から煙が出ているのに驚いて、忠僕が頭から水を浴びせた(笑)という逸話が残っている。
3 余談ながら、沖縄では思い草は嫌われているそうな。砂糖黍(サトウキビ)の根にとりついて成長を妨げるから。
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