1. 中期経営計画の概要
NSW<9739>は、現在、2022年4月から2025年3月の3ヶ年を対象とする中期経営計画を推進中である。計画の前提となる事業環境について同社は、新型コロナウイルス感染症拡大を契機としてデジタル化や事業変革の必要性が高まったことから、国内IT市場は着実に成長すると見込んでいる。なかでもDXは、企業規模では大企業のみならず中堅・中小企業まで、業種では製造業だけでなくサービス業・農業等も含め幅広い分野で加速し、今後も市場成長をけん引すると予想し、同社のビジネスもDXを中心にさらなる成長が期待できる事業環境であると見込んでいる。併せて、気候変動や地政学リスク等の不確実性の高まる社会に対応するため、サステナビリティ等社会課題への貢献も重要なテーマとした。
中期経営計画では、「デジタル変革による社会と企業の持続的成長の両立~技術と知によりお客様とビジネスを共創するSIerへの進化~」を基本方針に、「顧客にDX技術を提供するパートナー」から「企業変革をともに推進するパートナー」へと事業領域を拡大し、事業の成長と変革を加速するとともに、持続可能な社会の実現に向けて取り組む計画だ。この基本方針を実現するために、顧客のビジネス変革、アライアンスパートナー、デジタル技術などに、同社が有するデバイス・組込み開発、クラウド・インフラ技術、業種・業務知識などのナレッジを組み合わせて、「DX FIRST」と「共創」(企業が様々なステークホルダーと協働して、ともに新たな価値を創造すること)をコンセプトとして掲げて推進している。
中期経営計画達成に向けた具体的な重点戦略としては、「DX実現による顧客価値の追求」「選択と集中による収益力強化」「将来成長に向けた戦略的投資」を、また重点戦略推進の基盤となる共通戦略として「人材戦略」「パートナー・アライアンス戦略」「デジタル戦略」を掲げている。
2. 重点戦略と共通戦略への取り組み
(1) DX実現による顧客価値の追求
「事業変革パートナー」としてのビジネス拡大を目指し、成長期待の大きいデジタル領域で、顧客の事業変革をともに実現することをビジネス化する。顧客企業におけるDXへの動きが進むなか、ソリューションや技術の提供のみならず、変革をともに推進・実現するパートナーとしての役割が求められていることから、これまで取り組んできたIoT・AIサービスをはじめとしたデジタル技術をより一層強化・深化させるとともに、対応領域の拡大を図り、DX実現による顧客価値の共創に取り組む計画だ。
(2) 選択と集中による収益力強化
収益性の高い分野へのリソース集中により、事業基盤を強化する考えだ。ITサービスに対する顧客ニーズは多様化・高度化し、業務効率化を目的としたIT活用だけでなく、企業競争力を高めるための戦略的IT投資へと変化している。このような事業環境の変化に的確に対応し、事業基盤をより一層確固たるものにするため、これまで培ってきた技術・ノウハウをさらに拡充・発展させ同社の強みを伸ばしていく。さらに、成長が期待される分野や収益性の高い分野へリソースを集中し、次への成長に向けた新たな安定的な収益基盤の確立に取り組む計画である。
(3) 将来成長に向けた戦略的投資
新しいソリューション・サービス創出のための技術習得・先行投資を行う。新しいソリューション・サービス創出に向けた新技術習得やナレッジ蓄積、並びに新たな価値創造に挑戦し続ける活力ある人材の確保・育成、将来の事業拡大や事業基盤強化のためのM&Aや他社とのアライアンスなど、積極的な戦略投資を行う計画だ。人材の確保については、国内のエンジニア不足に対応するため、東南アジアを中心とする外国人人材の確保を実施している。また、半導体事業の対応力強化のために、ベトナムのパートナー企業にODC(海外の企業・法人にシステム・ソフトウェアの開発業務を委託すること)を開始しており、既に実績が上がりつつある。
(4) 共通戦略への取り組み
「パートナー・アライアンス戦略」では、戦略的パートナー拡充や国内・海外BP活用を掲げるが、海外拠点・活用事例の拡大を図ることで半導体事業の対応力強化を推進し、海外リソース活用の推進では、ベトナムのパートナーによるODCの拡大や、同社グループの在日・現地を含めて海外人員採用を実施している。さらに、「人材戦略」では、国内での採用活動の強化を掲げる。新卒・中途にかかわらず、採用活動を強化する方針で、前 中期経営計画終了時の2022年3月末と比較して、2023年9月末時点で採用人数は約1.3倍に増加している。
以上の重点戦略のなかで、前期の主な活動実績及び今後の注力施策は以下のとおりである。
第1に、スマート製品への取り組みがある。総合フードサービス機器メーカーであるホシザキ<6465>が提供開始した新サービス「ホシザキ コネクトWi-Fi」に、同社が開発したAzure Sphere搭載のIoTボードが採用された。これにより、顧客のマイコンから情報を取得し、Wi-Fi経由でクラウドにデータを送信する。IoTエッジに必要な機能が全て搭載されているMicrosoftのAzure Sphereを活用することで、セキュアな環境を低コストで実現することが可能である。Azure Sphere搭載のIoTボードは、製造業などの様々な製品をIoT化する際に使用する。同社では2013年からIoTプラットフォームを提供しており、近年ではMicrosoft Azureを活用した環境構築が増えている。Azure Sphereを搭載したIoTボードの活用により、デバイスからクラウドまでセキュリティが担保されたIoTプラットフォームの提供が可能である。Azure Sphereを搭載するメリットとしては、1) 低価格で多数の製品をIoT化可能、2) OTA(無線通信)により常に最新プログラムを適用、3) 汎用性が高く、様々な製品に対応、などが挙げられる。同社では、今後も各種クラウドサービスの機能的な活用促進、ベンダーアライアンスのさらなる強化と併せたスマートプロダクト事業の推進、製販一体による案件獲得・顧客へ寄り添ったサービスの提供などに取り組む計画だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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