2. 重点戦略と共通戦略への取り組み
(1) DX実現による顧客価値の追求
「事業変革パートナー」としてのビジネス拡大を目指し、成長期待の大きいデジタル領域で、顧客の事業変革を共に実現することをビジネス化する。顧客企業におけるDXへの動きが進むなか、ソリューションや技術の提供のみならず、変革をともに推進・実現するパートナーとしての役割が求められていることから、これまで取り組んできたIoT・AIサービスをはじめとしたデジタル技術をより一層強化・深化させるとともに、対応領域の拡大を図り、DX実現による顧客価値の共創に取り組む計画だ。
(2) 選択と集中による収益力強化
収益性の高い分野へのリソース集中により、事業基盤を強化する考えだ。ITサービスに対する顧客ニーズは多様化・高度化し、業務効率化を目的としたIT活用だけでなく、企業競争力を高めるための戦略的IT投資へと変化している。このような事業環境の変化に的確に対応し、事業基盤をより一層確固たるものにするため、これまで培ってきた技術・ノウハウをさらに拡充・発展させ同社の強みを伸ばしていく。さらに、成長が期待される分野や収益性の高い分野へリソースを集中し、次への成長に向けた新たな安定的な収益基盤の確立に取り組む計画である。
「DX実現による顧客価値の追求」と「選択と集中による収益力強化」の2つの重点戦略に関わる事例としては、第1に2023年6月にサービス提供を開始したマルチコードスキャンプラットフォーム「CodeSync(コードシンク)」がある。これは、アナログデータの読み取り、データ変換、業務アプリケーション連携をワンストップで提供するプラットフォームである。人手不足問題が深刻化しているなかで、紙を用いた検品作業や目視による商品の数量・状態チェックなど、工数や手間のかかるアナログ業務の効率化を支援するものだ。製造業や物流業向けに、画像認識技術を生かした商材である。
第2に、2023年10月に「NSW-MaaSプラットフォーム」にソニーネットワークコミュニケーションズ(株)が提供するIoTネットワークサービス「ELTRESTM※IoTネットワークサービス」を連携させたサービス提供を開始している。このサービスは、オンボード型の車載専用ELTRES通信端末と各種センサー(アルコールチェッカー、タイヤ空気圧センサー等)の連携でデータを取得し、シームレスで安定した通信により、一括してスムーズな業務モニタリングが可能になるものだ。モビリティ機器や利用者といった移動体の位置情報を利用し、車両の運行管理、人物の移動軌跡、場所特定などの各種業務・サービスのDXを支援するクラウド型ソリューションである。ELTRESを自動車に取り付けることで、安全運転・低燃費運転を可能にする。
※「ELTRESTM」は様々なIoTのシーンに活用できるLPWA(Low Power Wide Area)のソニーオリジナルの無線通信規格である。
第3に、2023年10月には(株)Scalarとメインフレームのモダナイゼーションに向けたCOBOL(コボル言語)アプリケーションの効率的なマイグレーションソリューションを共同検証・開発することで合意した。伝統的なメインフレーム環境からのモダナイゼーションを支援するもので、短期間かつ低コストで、安心安全なメインフレームモダナイゼーションを実現するために、複数異種のデータベースに対応する汎用的なトランザクションマネージャーのScalarDBを使用して、既存のCOBOL資産を生かしたデータ整合性の確認を共同検証する。これにより顧客のDX実現を図る計画だ。
(3) 将来成長に向けた戦略的投資
新しいソリューション・サービス創出のための技術習得・先行投資を行う。新しいソリューション・サービス創出に向けた新技術習得やナレッジ蓄積、並びに新たな価値創造に挑戦し続ける活力ある人材の確保・育成、将来の事業拡大や事業基盤強化のためのM&Aや他社とのアライアンスなど、積極的な戦略投資を行う計画だ。人材の確保については、国内のエンジニア不足に対応するため、2023年3月期より東南アジアを中心とする外国人人材の確保を計画している。半導体事業の対応力強化のために、ODC(海外の企業・法人にシステム・ソフトウェアの開発業務を委託すること)を2022年8月からベトナムのパートナー企業と運用を開始しており、既に実績が上がりつつある。
「DX実現による顧客価値の追求」と「将来成長に向けた戦略的投資」の2つの重点戦略に関わる事例として、第1に製造業特化型入出庫在庫管理システム「ORBIS-VI製造工場」のリリースがある。生産管理システム・ERPの在庫管理機能を補完する製造業特化型の倉庫システムであり、工程ごとの在庫状況管理が可能で明確なトレーサビリティを実現、庫内ロケーション情報を見える化し製品の管理業務を可視化、生産管理システム「Factory-ONE 電脳工場 MF」とのシームレスな連携などが可能になる。製造業での長年の経験をもとに業務改善効果を目指している。
第2に、音声認識による100%ハンズフリーを実現する産業用スマートグラス「RealWear」に日本マイクロソフト(株)が提供するAzure OpenAI Serviceを搭載した、対話型作業支援ソリューションのトライアルを2023年9月より開始した。RealWearは現場作業者と遠隔地とのコミュニケーションや、音声操作での資料の確認などが可能なスマートグラスであり、製造現場やフィールドサポートにおける遠隔支援において、多くの顧客に利用されている。これに新たに生成AIを搭載することで、音声認識により100%ハンズフリーで対話型のAIサービスであるChatGPTを利用可能になり、企業独自の情報をあらかじめAIに学習させることができ、Azure OpenAI Serviceの利用でセキュリティ面の不安を解消できることになる。
また、RealWearは、2023年8月には栃木県産業技術センターに導入された。遠隔の共同研究者等と、評価方法や解析結果をリアルタイムで共有でき、効率的・効果的な設備利用ができる機器として導入が決定した。マルチマテリアル化技術による試作開発や解析評価を支援する予定だ。さらに、2023年9月には、RealWear, Inc.への戦略的投資を行い、新たなパートナーシップを締結した。RealWearは同社のDXビジネスとも親和性が高く、スマートグラスを活用したさらなるソリューション展開が期待されるため、パートナーシップをより強固にするための投資であり、さらに付加価値の高いソリューション開発が期待される。
(4) 共通戦略への取り組み
「パートナー・アライアンス戦略」では、戦略的パートナー拡充や国内・海外BP活用を掲げるが、海外拠点・活用事例の拡大を目指すことで半導体事業の対応力強化を推進している。また、海外リソース活用の推進として、ベトナムのパートナーによるODC(海外の企業にシステム・ソフトウェアの開発業務を委託すること)の拡大や、同社グループの在日・現地を含めて海外人員採用を実施している。さらに、「人材戦略」では、国内での採用活動の強化を掲げる。新卒・中途にかかわらず、採用活動を強化する方針で、前中期経営計画終了時の2022年3月末と比較して、2023年9月末時点で採用人数は約1.3倍に増加している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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