―大規模自然災害が頻発化、活躍領域拡大で高まる再評価機運―
地球温暖化の影響が、日本列島にも大規模自然災害の頻発化を招いている。7月には神奈川県、静岡県を中心に大雨となり、熱海市では土石流災害が発生するなど甚大な被害となった。近年、大規模な自然災害が増加しており、 防災・減災計画の抜本的な対策が求められている。こうしたなか、国や自治体と協力して防災・減災事業を推し進め、さまざまな社会インフラを支える「建設コンサルティング」の役割に注目が集まっている。本格的な台風シーズン突入を前にして、活躍領域を広げる同関連株を点検した。
●防災・減災に向けて取り組み加速
大雨や洪水などによる自然災害が激甚化しており、多くの被害が発生している。水害だけではない。2011年の東日本大震災をはじめ、日本列島は幾度となく大規模地震の被害に見舞われてきた。想定を超える大型台風、そして更なる巨大地震の発生が予測されるなか、防災・減災に向けての取り組みが加速している。
社会生活に大きな影響を及ぼしたという点で記憶に新しいのは、19年9月9日早朝、関東に上陸した台風15号による被害だ。これにより千葉県や神奈川県を中心とした大規模停電が発生し、電気や水道の供給がストップしたことで大きな混乱を招いた。広範囲に及ぶ倒木が電線や電柱を倒壊させるなど壊滅的な状況に追いやり、復旧を遅らせることになったことから、防災対策としての電線地中化に改めて注目が集まった。都市の脆弱性が露呈するなか、株式市場では 国土強靱化を支える建設コンサル関連株にスポットライトが当たり、多くの銘柄が動意した経緯がある。
●コロナ禍にあっても業績堅調
もちろん、防災・減災に関わるものだけが建設コンサルの業務ではない。本来はインフラなど社会資本の整備を進めるうえで、調査・計画そして設計といった分野において事業者を支援することが主な業務だ。その活躍領域は年々拡大しており、いまや社会基盤を支える大きな存在へと変貌している。都市計画に加え、最近では老朽インフラの維持や予防保全、再生可能エネルギー事業への展開など、株式市場でも関心が高い分野での活躍が目立っている。
また、建設コンサルは国が推進する国土強靱化を背景に、コロナ禍にあっても業績が堅調な銘柄が多いのも大きなポイントだ。21年度からスタートした防災・減災、国土強靱化のための5ヵ年計画は、事業規模約15兆円と巨額で、激甚化する風水害や巨大地震などへの対策、予防保全に向けたインフラ老朽化対策の加速などを柱とするが、これらの取り組みについても建設コンサルが事業を支えている。菅義偉首相による“国土強靱化”ともいえそうだが、次期衆議院選挙を控え慌ただしく政局が動き出すなか、改めて脚光を浴びる可能性もありそうだ。
●業績は「下期偏重」
ある建設コンサル企業に業界の現状を聞くと、「かつて想像できなかった分野にまで事業が広がった。当社においては、予防保全に絡む業務がここ増加している。また、地震や豪雨などによる災害が発生すると、安全や予防などの面において(予算の)見直しが入ることになり、建設コンサル業界としては受注が増加するのは事実だ」と言葉を選びながら話す。
建設コンサル業界の業績が「下期偏重」であることについては、「行政や官公庁に絡む仕事が多いため、年度末が一つの節目になってくる。一般的な話として、継続的な予算以外は、どうやって予算を消化するかが重要になるため下期偏重になる傾向は当然強くなる」と答える。
●オオバは11期連続増益へ
建設コンサル大手のオオバ <9765> の業績が堅調に推移している。7月8日に発表した21年5月期の連結営業利益は前の期比16.6%増の13億3400万円で着地。22年も前期比4.9%増の14億円を計画しており、11期連続増益となる見通しだ。国土強靱化への対応など公共投資が堅調だったことに加え、国土交通省、防衛省などの需要が伸びている。同社は、18年に東電タウンプランニングと「無電柱化推進事業等を中心とする建設コンサルタント業務の共同事業展開」について、業務提携基本合意書を締結。以降、オオバが強みとする区画整理や再開発などと、東電タウンプランニングの得意分野である電線共同溝など配電設備の地中化技術を提案している。景観に加え、防災としての電線地中化が推進されるなか目を配っておきたい。
●長大、通期計画上回る
長大 <9624> にも注目。株価は昨年3月につけた665円を底に、一貫して上昇基調を継続。今年の6月2日には2022円まで買われたが、現在は上昇一服で1850円を挟みもみ合う。同社は今月10日、21年9月期第3四半期累計決算を発表。連結営業利益は前年同期比21.2%増の33億2300万円に伸び、通期計画の24億4000万円(前期比22.5%減)を超過した。また、同社は道路や橋梁を主力とし、環境・新エネルギー分野にも展開するが、4月にはエアモビリティ(東京都新宿区)との資本・業務提携による「空飛ぶクルマ」事業への参画を発表。新規分野にも果敢に攻勢を掛けている点も見逃せない。
●応用地質、上期で通期進捗率8割に
地質調査業最大手で建設コンサルも手掛ける応用地質 <9755> からも目が離せない。同社は11日、21年12月期上期の決算を発表し、営業利益が前年同期比32.2%増の22億3900万円で着地。通期計画(28億円)に対する進捗率が約8割となった。国内での洋上風力発電関連業務が伸びたほか、福島環境再生支援事業などの大型案件や森林環境分野の受注が好調だったことなどが利益の押し上げに貢献した。株価は、4月15日に1381円まで買われ年初来高値をつけた後は、1300円を挟み上下にもみ合う展開が続くが、直近では20日に1244円まで売られたあと上値指向。1300円を回復したことで、もみ合い離脱へと進むか注目の場面が続きそうだ。
●じわり上値指向のアジア航測
アジア航測 <9233> [東証2]は航空測量大手で、情報システムと建設コンサルを展開している。国土強靱化関連業務及び再生可能エネルギー関連業務の売り上げが堅調に推移。21年9月期第3四半期累計の連結営業利益は、前年同期比13.7%増の25億5500万円と通期計画23億4000万円(前期比12.8%増)を既に上回っている。豪雨災害が相次ぐなか、同社の3Dモデリング技術を駆使したハザードマップは今後も需要獲得が進むことが予想される。株価は7月に入り大勢2段上げで4ケタ大台乗せを達成。その後800円台半ばまで調整したものの、ここにきてじわり上値指向を見せている。PERは9倍台、堅調な業績を背景にここからの展開に注目が集まる。
●いであ、日本工営にも活躍期待
いであ <9768> は社会インフラ整備と建設環境分野においてトップクラスのコンサルティングを提供している。21年12月期上期の連結営業利益は前年同期比11%増の31億4700万円に伸び、通期計画の21億7000万円(前期比微増)を大幅に超過。株価は1850円近辺でもみ合うが煮詰まり感も漂う。建設コンサル最大手の日本工営 <1954> は、コロナ禍にあっても世界規模での活躍領域拡大の手を緩めない。主力事業のコンサルタント国内事業は好調な受注環境に加え生産性が向上、都市空間事業では英国での事業が順調に進捗しており、22年6月期の連結営業利益は前期比8%増の77億円を計画している。株価は3000~3100円近辺のボックス圏で一進一退の展開。
株探ニュース
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