4. 同社の強み
同社は、1) 「Salesforce」における卓越した技術力・競争力、2) 少人数・短納期プロジェクト、3) 地方での社員育成システム、4) 育成支援制度、5) 優秀な人材の獲得などの強みを持ち、大企業にはできない小回りが利く体制づくりを行っている。
同社のITエンジニアは「Salesforce」のシステム開発の全工程に精通しているため、ITの専門部署がない企業や新規ビジネスを立ち上げて間もない企業、予算規模が小さい企業に対して強みを発揮することができる。大企業であるAccenture(アクセンチュア)
(1) 「Salesforce」における卓越した技術力・競争力
同社は、「Salesforce」パートナーのビジネス拡大を支援することで2008年からのSalesforceの方針である「エコシステム※の拡大」に寄与している。同社は、Salesforceの認知度が低かった時期から「Salesforce」に携わっているため、「Salesforce」に関しては長い経験と技術力を保持している。そのため、セールスフォース・ジャパンやテラスカイから顧客を紹介してもらうこともあり、技術的に高度な案件を直接受注するケースが多い。加えて、地方に本拠地を置くことで首都圏に比べて人件費を抑えることができ、価格競争力にも強みを発揮している。
※ 企業同士が協業・連携してそれぞれの製品・サービスを補完し合う仕組みのこと。
Salesforceは成長戦略の1つとして、チャットツールのSlack Technologies、データ分析ソリューションのTableau Software、API総合ソリューションのMuleSoftなど数多くの企業を買収しており、CRM以外にも広い分野でのクラウドサービスを提供している。同社は、「Salesforce」のほかさらに幅広く製品を取り扱えるよう、技術力の強化や、既存顧客への新たな提案に取り組む。
(2) 少人数・短納期プロジェクト
同社はシステム開発の全工程を一気通貫で請け負うことのできるITエンジニアを育成しており、小規模プロジェクトにおいて複合的な役割を担うことで、全体像を把握し業務を進める力を養っている。
(3) 地方での社員育成システム
同社は、早い段階から顧客とのコンサルティング・要件定義・設計といった上流工程の業務に関わることを社員に推奨している。具体的には新入社員が担当のITエンジニアと一緒にWeb会議に参加するなど、直接顧客からの要望を聞く経験を繰り返すことでコミュニケーション能力やプランニング能力の習得を図っている。こうした社員育成システムにより、札幌を本拠地としながらも、リモートワークを駆使して日本全国の中小企業と直接取引を行う能力を身に付けている。
(4) 育成支援制度
同社は、スキルと技術力の両面から評価する人事評価制度及び社員自身の意思で学習を促す自己啓発支援制度を運用している。自己啓発支援制度は、「Salesforce」の認定資格試験を全額会社負担で受験できる「Salesforce認定資格取得支援制度」と、1人当たり年間最大60時間まで残業時間を利用して自習できる「もっとアライブ」という独自の制度から成り立っている。
同社のSalesforce認定資格保有者数は、2022年12月期から2023年12月期にかけて増加している。特に、Platformデベロッパー資格保有者が18人から26人に、Platformアプリケーションビルダー資格保有者が26人から33人に増加した。また、Dataアーキテクト資格保有者も4人から8人に倍増している。これらは、同社の技術力と専門性の強化を示している。一方で、Sales Cloudコンサルタント資格保有者は8人から7人に減少したが、全体的にはSalesforce認定資格の取得が順調に進んでいることがうかがえる。新たにMarketing Cloud Account Engagementスペシャリスト資格も1人が取得し、サービスの幅も広がっている。加えて、同社社員が、2024年度の「Salesforce MVP」に選出された。「Salesforce MVP」は、コミュニティ活動を通じて他者の成功を支援するエキスパートに対する表彰である。同社員は、「Salesforce Women in Tech Group」の運営メンバーとして、女性のためのコミュニティ活動に尽力し、その活性化に貢献している。
「もっとアライブ」では社員の学習意欲をあげるため、要約されたビジネス書を読めるサービス「flier」のライセンスを全社員に提供しており、同制度の総利用時間数は前期比2.8%増の810.5時間(前期は788.5時間)となった。そして、DXを推進する人材である「ビジネスデザイナー」の育成も積極的に推進している。
同社は、ビジネスパーソンとしてのスキルも重視しており、独自の45項目のコンピテンシー(個人の能力や行動における特性)で人事評価を行っている。社員はコンピテンシーの項目に基づき自分自身の評価を行い、3ヶ月に1回行われる上長との面談を経て、コンピテンシーに基づいた目標を設定する。こうしたプロセスのもと同社独自の評価基準による昇給を年1回行っている。また1ヶ月に1回はグループごとに社長との直接面談の時間を設けており、社員とコミュニケーションを図ることで社員の定着率アップに努めている。
(5) 優秀な人材の獲得
同社の本拠地である札幌は、IT企業やエンジニアが多くかつて「サッポロバレー」と呼ばれ、首都圏よりも人材獲得競争が少ない地域であることから優秀な人材を獲得できる機会が多い。札幌市には北海道大学をはじめとする教育機関が数多く存在し、地元での就職を希望する学生が多いものの、産業や大企業が少ないことからIT分野に関わる理系の学生が思うように地元で就職できない。一方で札幌市は様々なITビジネス支援に取り組んでおり、AI関連人材の育成を目的とした「SAPPORO AI LAB」を設立するなどITビジネスに適した環境が備わっている。こうした札幌市におけるITエンジニア採用のポテンシャルに同社は着目しており、同社代表が北海道大学出身であるメリットを生かし、積極的に地元の優秀な学生を採用している。2024年4月には同大学出身者が5名増加し、2024年5月15日時点で、同大学出身者は全社員の27%を占めている。
ワークライフバランスの面から見ても札幌に本社があるのは有利で、自然と都市圏がほどよい距離にあり、生活と仕事をうまく切り分けられる豊かな地域性が、人材の定着にもつながる。同社は男性社員の育児休業・育児時短勤務取得実績があり、2017年11月には札幌市ワーク・ライフ・バランス認証のステップ3「先進取組企業」を取得している。2023年12月末時点で、同社の従業員総数に占めるエンジニア比率は87.0%で、男性労働者の育児休業取得率は100.0%に達している。離職率は6.3%で、2022年4月1日以降の退職者は3人、新卒・第二新卒社員の退職者は1人である。従業員総数に占める女性比率は25.9%、管理職に占める女性の割合は12.5%であり、労働者の男女賃金差は全労働者で84.2%、正規雇用で85.8%、パート・有期労働者で53.4%となっている。
2024年5月までに中途エンジニア2名、新卒・第二新卒9名が入社しており、中途エンジニアはリファーラル採用である。リファーラル活動の効果が現れており、今後もこの活動を強化するほか、知名度向上に努める。2024年12月期のエンジニア採用目標は19名で、すでに11名が入社している。2024年12月期は採用と育成に注力し、エンジニアの人材確保を図る。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 中山博詞)
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