3. ホテル・観光事業
ホテル・観光事業では、「ホテル運営事業」「ホテル開発事業」「地域創生事業」を手掛けている。
「ホテル運営事業」は「心温かい楽しいホテル」をテーマに、地域の文化と歴史を大切にした、上質で心地よいプライベート感のあるホテルを目指している。「HIYORI HOTELS & RESORTS」のブランド展開により、「BUDGET」「ECONOMY」「UPPER MIDDLE」「UPPER」「LUXURY」にクラス分けし、3,109室を運営している(2024年5月現在)。
「ホテル開発事業」は、自社開発によるホテル建設、自社ブランドによる既存ホテルのリニューアルといったホテルの最有効活用を企画・提案している。ホテル開発では、顧客が所有する不動産を同社グループが購入し、ホテル建設・運営を行う事業方式や、既存ホテルを購入し同社グループでリニューアル・運営を行う事業方式がある。その他にも、建物賃貸借開発方式や土地賃貸借開発方式、他社運営によるホテル保有事業がある。ホテル開発のほかに再生では、顧客視点の付加価値の創出により高収益ホテルへの再生を行っている。再生工事は、企画立案、建築デザイン、資材調達、工程進捗、引渡しまで、すべて一括して同社グループが行うことで、細部に拘り、使いやすく清潔感のある高品質な不動産に改修する。ホテルの再生には建物だけではなく運営面での再生も重要である。ホテルに従事するスタッフと併走して再生に向けた取り組みを行っている。
「地域創生事業」は、その地域ならではの魅力や特長をテーマにした事業に取り組んでいる。同事業の背景には、日本が誇る文化・歴史・自然・食事・温泉・おもてなしなどに魅了される訪日外国人旅行者の急増があり、創業者の出身地でもある新潟県・佐渡島より事業を開始した。佐渡島では観光産業を軸に地域創生を進めており、既に100人を超える雇用を創出した。また、ホテル事業の運営を基軸に沖縄県・宮古島にも進出を果たしており、「日本の素晴らしさ」を備える地方に視点を向け、その地方ならではの魅力を生かした地域創生事業に挑戦を続けている。
4. その他事業
その他事業では、「海外開発事業」「建設事業」を手掛けている。
「海外開発事業」は、成長が期待できるベトナムへ進出し、日本の高度な施工技術によるマンション・住宅等を中心とした不動産開発事業を展開している。都市型高層分譲マンション事業では、ベトナム中部に位置するダナン市において高層分譲マンションの開発・販売、運営を行っている。2019年12月には「HIYORI Garden Tower」を竣工し、住居306戸が完売している。また、分譲マンションプロジェクト第2号案件として、2025年3月期上期に「HIYORI Aqua Tower」の着工を予定しており、2026年の秋に竣工予定である。
「建設事業」は、事業用ビルのリニューアル企画や修繕・改修工事、内装仕上工事及び電気通信工事等を行っている。ビル空間や外観・エントランスのリニューアルをプロデュース、入居テナントにとって魅力的で使いやすい空間を創造することによりテナントの満足度を高め、オーナーが保有するビルの競争力や資産価値の向上につなげている。現状分析・コンサルティング・デザインから設計・施工までをワンストップで提供することで、高い品質とコスト効率を実現している。
5. 同社グループの強み
同社グループの強みとして、不動産再生事業における内製化したワンストップサービスの提供力が挙げられる。ビルの仕入れから、再生・活用企画、建設工事、テナント誘致、管理、販売、販売後のビル経営に至るまでを一貫して内製化し、高い付加価値を創出している。この一連のワンストップサービスは、不動産サービス事業の各部門(リーシングマネジメント、ビルメンテナンス、資産コンサルティング、滞納賃料保証、貸会議室)が協業することで実現している。こうした協業を行えているのは、同社グループがフィロソフィ経営を実践するなか、最上位概念であるクレド「利他」の精神が、従業員同士をしっかりと結び付けているためである。
管理会計の手法においては、「アメーバ経営」システムを導入している。これは、グループの事業を5人~10人の小集団(アメーバ)に分類し、アメーバごとに時間当たりの採算の最大化を図るものである(時間当たり採算=売上総利益÷労働時間)。各アメーバにはリーダーが存在し、期初に設定した年間予算・月次予算(売上総利益と時間当たりアメーバ)に対する進捗管理を行う。アメーバ経営による管理会計手法は、市場に直結した部門別採算制度の確立のみならず、全員参加による従業員の採算意識向上や、経営者人財の育成につながるというメリットがある。小集団であることにより意思決定のスピードアップが図られ、環境変化による市場ニーズの変化などにも柔軟な対応が可能なため、効果的な経営手法であると弊社では考える。
6. 事業環境
マクロ的な事業環境としては、世界経済では地政学リスクが懸念されるものの、国際通貨基金(IMF)は2024年の世界経済の実質成長率予測を3.2%に引き上げ、高インフレが続くもソフトランディングの見通しである。また、米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利を6回連続で据え置きとしており、高インフレの収束が進展せず、利下げ開始が後ろ倒しとなっている。日本経済においては、賃金と物価の好循環の実現が期待されている。日銀はゼロ金利政策を解除したが、その後も政策金利を据え置いており、日米金利差から円安が進行、輸入物価の上昇によるインフレが懸念されている。
同社グループを取り巻く事業環境として、都心オフィスビル市場では新規供給量は前期より少なく、オフィス回帰が進んでいる。空室率は低下基調であり、賃料も緩やかに上昇している。一方、金利上昇には注意が必要であるが、当面の金利先高観は強くはなく、不動産への投資意欲は底堅い状況である。ホテル・観光市場では、円安を追い風にインバウンド需要が活況であり、国内の旅行需要も好調に推移している。2024年1~3月の訪日客の旅行消費額は過去最高の1兆7,000億円であり、2024年3月の訪日客は初の300万人超えを記録した。訪日客数に関する政府目標は、2025年にコロナ禍前を超えるとしていたが、前倒しとなる可能性もあると弊社では見ている。
金融引き締め局面における金利動向は、不動産市場全体に大きな影響を与える要素である。金利上昇による資金調達コストの上昇や投資意欲の減退などが懸念されるため、金利動向に敏感に対応し適切なリスク管理を行うことが重要と言える。このような事業環境のなか、同社グループは顧客ニーズに対する高い適応力により、柔軟なビジネス戦略を展開している。金利動向の変化やコロナ禍の影響に適切に対応し、持続可能な事業ポートフォリオの構築をしていると弊社では見ている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 茂木稜司)
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