1. 新中期経営計画の概要
ストレージ事業の出店を加速することで利益成長を重視した経営をより強力に推進するために、「中期経営計画23-25」を中断して、新たに「中期経営計画25-27」を発表した。経営目標として、最終年度の2027年12月期に売上高29,400百万円(2024年12月期比19.0%増)、営業利益6,550百万円(同33.5%増)、経常利益6,170百万円(同30.9%増)を掲げた。ストレージ事業の成長及び高稼働により、営業利益率は22.3%(同2.4pp上昇)への改善を計画する。土地権利整備事業、その他運用サービス事業の業績は横ばいにとどめる一方、ストレージ事業を成長ドライバーと位置付けて増収増益を計画する。
国内のストレージ市場は大きな成長余地が見込まれることから、一気に出店を加速して業界シェアの拡大を目指すという意欲的な計画に基づく経営目標であり、今後の進捗状況に注目したい。
2. 新規出店計画
日本のストレージ市場の高い潜在成長性を前提に、中期経営計画達成の鍵となる新規出店計画としては、2027年12月期の新規出店室数を2024年12月期実績の約2倍の21,000室へと出店加速を計画している。内訳としては、自社出店を16,000室に拡大することに加えて、同社が他の事業者から運営・管理を受託するパートナー制度の本格運用による出店数5,000室を計画する。同社では、既に全国のストレージ事業者を対象に新規出店や運営中物件の集客から解約までを一括でサポートする「パートナー制度」の本格運用を開始している。ただ、パートナー出店は相手次第なので、計画期間中は横ばいと慎重に見ている。
収益構造を比べると、自社出店では、賃料・管理費・その他手数料などの売上から、地代・減価償却費・経費を差し引いたものが粗利となる。一方、パートナー出店では、賃料の10%・管理費・その他手数料などの売上から、経費を差し引いたものが粗利となり、売上は小さいが粗利率は高い。そして、初期投資費用なし、損失期間なし、同社の市場シェア率が向上などの利点がある。
また、ストレージ事業では、高い収益性、無人運営(一部有人店舗あり)による低コスト、土地・ビルのフロアを借りて運営(一部保有するケースあり)、土地契約から短期間で運営開始が可能などの特徴があるが、出店のためのマーケティング調査と用地選定が重要であり、一定以上の規模にならないとスケールメリットがでないなど、実質的に参入障壁が高いと言える。
こうしたなか、ビルイントランク型、建築型(ストレージミニ)、コンテナ型の3種類の商品を展開しているのは同社のみである。出店に関する日本全国のデータベース(人口、世帯数、所得層等)の構築、出店エリアの拡大、マンパワーに頼らない営業体制など、環境が整ったことで一気に出店を加速し、先回り出店によって業界シェアを2032年には30%にすることを目指す。すなわち、日本市場で「シェア・質の“圧倒的No.1”」となり、そして世界へ進出するという意欲的な計画を持っている。
3. 差別化戦略
こうした出店加速を可能にするための差別化戦略として、ストレージデータベースの構築によるデータドリブン経営の実現を計画する。ストレージデータベースでは、全国47都道府県における顧客・物件情報の蓄積(過去の解約分も含め数十万件)に基づき、綿密なデータの裏付けにより高精度の新規出店を実現し、人の経験や感覚を排除したデータドリブン経営の実現を目指す。また、集客戦略としては、長期的な収益性を考慮して全国のエリアで最適な商品を展開し、Web広告を中心とした広告戦略の最適化により全体の効率化と単価の引き下げを実現する。さらに、戦略最適化としては、契約・解約・利用期間・賃料設定・キャンペーン・地域データなど様々な視点からの分析を実施し、新規物件出店後には新しいデータを集積しさらなる精度の向上を実現する。以上の戦略によって、新規物件の早期収益化を目指すとともに、既存物件の高稼働率の維持を図ることで、出店加速のフェーズに突入する計画である。
このように、中期経営計画では非常に意欲的な経営目標を掲げているが、国内のストレージ市場は大きな成長余地が見込まれることから、出店計画や差別化戦略を着実に推進することで十分に実現可能であると弊社では見ている。なお、同社は業界のリーディングカンパニーとして、利益追求と同時にESG経営も積極的に推進していることにも注目したい。具体的には、「環境への配慮」としては、ストレージの活用により整理収納のすばらしさを実感してもらい「持ちすぎない」社会の実現、「コンテナ・建物100年活用プロジェクト」の推進、オフィス内の紙の廃棄物削減などを実施する。「社会貢献」では、人材育成制度(エリアリンクメソッドの活用によるパーヘッド利益向上)、多様な働き方の支援、災害時のストレージ活用などを実施する。「ガバナンス」では、6名中2名の独立社外取締役の選任、コンプライアンス委員会の設置、配当性向35%を目標とした安定した株主還元などを実施する。近年、機関投資家を中心にESGに配慮した企業に投資する傾向が強まっていることからも、今後の取り組みに期待したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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