―規制強化見据え動き活発化、CO2削減切り札に―
温室効果ガス(GHG)を排出しない究極のエコシップ「ゼロエミッション船」を巡る取り組みが活発化してきた。背景には平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度以内に抑えることなどを掲げたパリ協定が2016年に発効され、世界的に脱炭素化の機運が高まっていることがある。トラックなどに比べて環境にやさしい輸送手段とされる海運だが、それでも国際海運のCO2排出量は年間8億トン近くに上り、海上輸送が国際物流の大部分を担っていることを考えれば環境への影響は見逃せない。国土交通省は世界に先駆けてゼロエミッション船の商業運航を実現したい考えで、関連銘柄に商機が広がりそうだ。
●28年にもエコシップ商業運航へ
気候変動問題への対応が世界的に喫緊の課題となっていることを受け、今後も輸送量の増大が見込まれる国際海運分野でも環境保全の意識が高まっている。国際海事機関(IMO)は16年10月に船舶燃料に含まれる硫黄酸化物(SOx)を従来の3.5%以下から0.5%以下に引き下げることを義務付けたSOx規制を採択し、20年1月から本格運用がスタート。また、IMOは18年4月にGHG削減戦略を策定しており、30年までに単位輸送量当たりのGHG排出量を08年に比べ40%削減するほか、50年までに50%削減、最終的には今世紀中のできるだけ早い段階で排出ゼロを国際的な目標として掲げた。
こうしたなか、世界有数の海事大国である日本では18年に国交省をはじめ、業界団体や大学、公的機関などを構成メンバーとする「国際海運GHGゼロエミッション・プロジェクト」が発足。将来の船が目指すべき方向性やその実現のための議論を重ね、20年3月にゼロエミッションに向けたロードマップをとりまとめた。これによれば世界に先駆けて28年にもゼロエミッション船の実船投入を開始する計画で、その燃料としてLNG(液化天然ガス)と風力、 水素、 アンモニアを有力候補に挙げている。
●ゼロエミ船実現を主導する郵船
日本郵船 <9101> と川崎重工業 <7012> 、ENEOSホールディングス <5020> 、東芝 <6502> [東証2]傘下の東芝エネルギーシステムズ、日本海事協会(東京都千代田区)はこのほど、高出力燃料電池(FC)搭載船の実用化に向けた実証事業を開始した。商業利用可能なサイズのFC搭載船の開発、及び水素燃料の供給を伴う実証運航は日本初の取り組みで、事業は25年2月まで行う予定。具体的には、中型観光船の船型にした150トンクラス相当(旅客定員100人程度)の高出力FC搭載船舶を開発し、24年には水素燃料の供給を伴うFC搭載船の実証運航を目指すとしている。
また、郵船は8月にIHI <7013> グループのIHI原動機、日本海事協会と世界初のアンモニア燃料タグボートの共同研究開発契約を締結。3社は15年に竣工した日本初のLNG燃料船である「魁(さきがけ)」の共同開発メンバーで、「魁」の開発・建造・運航で培った知見を活用し、20年度は船体・機関・燃料供給システムを含む技術開発、運航手法の開発といったテーマに取り組む。
●商船三井はコンソーシアム設立
直近では、サノヤスホールディングス <7022> グループのサノヤス造船、日立造船 <7004> 、商船三井 <9104> 、日揮ホールディングス <1963> 子会社の日揮グローバル、日本製鉄 <5401> 、ジェイ エフ イー ホールディングス <5411> 傘下のJFEスチール、ジャパン マリンユナイテッド(横浜市)などが参加する「CCR研究会 船舶カーボンリサイクル ワーキンググループ(WG)」が始動。このWGでは国内の製鉄所から排出されるCO2を分離・回収・液化し、液化したCO2を船舶で水素の供給地に海上輸送、CO2と水素から合成メタンを生成、合成メタンを液化して船舶燃料とすることを想定している。
このほか、6月には商船三井グループの商船三井テクノトレードと東京海上ホールディングス <8766> 傘下の東京海上日動火災保険、ヤンマーマリンインターナショナルアジア(大分県国東市)、アクアネット広島(広島市)の4社が、GHG排出ゼロの船舶実現を目指して協業すると発表。出光興産 <5019> と三菱商事 <8058> 、商船三井、東京海上日動火災保険、東京電力ホールディングス <9501> 子会社の東京電力エナジーパートナー、エクセノヤマミズ(東京都千代田区)、旭タンカー(東京都千代田区)の7社は5月、ゼロエミッション電気推進船の開発・実現・普及に向けた取り組みを推進する「e5(イーファイブ)コンソーシアム」を設立した。
●木村化、沢藤電、エネクスにも注目
ロードマップでは代替燃料移行のメインシナリオとして、「LNG→カーボンリサイクルメタン移行」と「水素・アンモニア燃料拡大」を想定しているが、特に注目したいのがアンモニア燃料だ。成分中に水素を多く含むアンモニアは、室温かつ10気圧程度の条件で容易に液体となることから貯蔵や運搬がしやすいといったメリットがあるほか、肥料や化学原料として広く利用され既に輸送インフラが整っており、いままでの技術が活用できることも大きな利点。国内では既にトヨタ自動車 <7203> 子会社のトヨタエナジーソリューションズなどがアンモニア100%燃焼によるガスタービン発電に成功していることもあり、アンモニア燃料の利用が期待される。
アンモニア燃料の船舶開発を具体化するにはアンモニア燃料の舶用サプライチェーンの構築が重要となるが、伊藤忠商事 <8001> と伊藤忠エネクス <8133> は6月にVOPAKターミナル・シンガポール社とサプライチェーンの構築に関する共同研究を行うことで合意したと発表。この共同開発は、伊藤忠とエネクスが並行して進めているアンモニアを主燃料とする主機関を搭載する船舶の開発や供給設備などを含めた統合型プロジェクトの一環として位置付けられている。
また、プラズマを用いた水素製造装置「プラズマメンブレンリアクター」の技術開発を行い、アンモニアを原料にして水素を製造することで、CO2フリーの水素社会の実現に取り組んでいる澤藤電機 <6901> の今後の動向にも注目したい。同社は19年に木村化工機 <6378> や岐阜大学と低濃度アンモニア水から高純度水素を製造し、燃料電池で発電することに成功している。
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