9日の米株式市場でダウ平均は56.88ドル安(-0.16%)と小幅続落。地銀セクターの売りが再開したほか、消費者物価指数(CPI)の発表を目前に控える中、金利が上昇したことも重しとなった。ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁の講演内容を受けて地銀株が回復すると連れて相場は下げ幅を縮小したが、バイデン大統領と議会指導者との会合を控えて債務上限問題への懸念がくすぶる中、マイナス圏で終了した。ナスダック総合指数は-0.63%と3日ぶり反落。米国株安を引き継いで日経平均は53円安からスタート。前日に大幅に上昇した反動が意識される中、今晩の米4月CPIの発表を前にした持ち高調整の売りが優勢となり、寄り付き後もじり安基調が続いた。ただ、日経平均は29000円を優に上回った水準での推移が続いた。
個別では、米半導体株の下落を受けて東エレク<8035>、レーザーテック<6920>が大きく下落。キーエンス<6861>、信越化<4063>など値がさ株も軟調で、村田製<6981>、イビデン<4062>のハイテクの一角も冴えない。今期営業減益見通しが失望されたレノバ<9519>が急落しているほか、今期の大幅減益見通しを発表した三菱自<7211>、業績予想を下方修正したNTN<6472>、前期下振れ着地や市場予想を下回る今期計画が嫌気されたセイコーG<8050>なども大きく下落。減益および減配計画を発表したメディカルシス<4350>、理想科学工業<6413>、第1四半期大幅減益となったポピンズ<7358>なども大幅安となっている。
一方、JFE<5411>、日本製鉄<5401>の鉄鋼が大幅続伸し、自社株買いや中期経営計画の発表を材料に日本冶金工業<5480>が急伸。今期の増益・増配見通しが評価された山田コンサル<4792>がストップ高まで買われ、同様の要因からトーモク<3946>も急伸。
高水準の自社株買いが好感された丸井G<8252>、株主還元の基本方針変更を発表したスクロール<8005>なども急伸し、ニチレイ<2871>は配当基準の変更などが評価された。ほか、JMDC<4483>、ラウンドワン<4680>、横河電機<6841>、シグマクシス<6088>、デジタルアーツ<2326>なども決算内容が好感されて大幅高となっている。
セクターではゴム製品、医薬品、電気機器が下落率上位に並んだ一方、鉄鋼、卸売、鉱業が上昇率上位に並んだ。東証プライム市場の値下がり銘柄は全体の72%、対して値上がり銘柄は24%となっている。
本日の東京市場は今晩の米4月消費者物価指数(CPI)の発表を前にやや弱含んでいるが、前日からの動きを踏まえると非常に底堅いといえる。8日の米株式市場は主要株価指数がまちまちで動意に乏しかったにもかかわらず、前日9日の東京市場は大幅高となり、東証株価指数(TOPIX)は年初来高値を更新、日経平均も29000円を優に回復した。9日の米株式市場はフィラデルフィア半導体株指数(SOX)が-1.87%と大きく下落し、ナスダック指数も0.6%超と下落したが、夜間取引の日経225先物は大幅高となった前日日中取引の終値比でほぼ横ばいで一時は上昇に転じる場面もあるなど、奇妙なまでの強さが見られた。
背景としては、種々の要因にもとづく日本株の相対的優位性が挙げられそうだ。すでに多方面でも指摘されているが、東京証券取引所による株価純資産倍率(PBR)1倍割れ企業への改善要請や著名投資家ウォーレン・バフェット氏による日本株への追加投資の意向表明を契機に日本株に着目する投資家が増えてきたと考えられている。そして、実際、今まさに佳境を迎えている1-3月期決算において、多くの日本企業から増配や自社株買いの決定、新たな資本政策に関する基本方針の発表など、株主還元を強化する動きが相次いでいる。
バフェット氏の保有で注目されている商社株については、前日の場中に決算を発表した伊藤忠<8001>と住友商事<8053>は、株主還元が好感される形で高値圏にある株価がさらに急伸した。また、前日引け後に決算を発表した三菱商事<8058>は増配だけでなく、3000億円を上限とする大規模な自社株買いも発表し、こちらも高いハードルを超えて本日も株価は大幅高となっている。
また、前日はJFEホールディングス<5411>、川崎汽船<9107>といった鉄鋼、海運セクターの代表格が急伸したことで、バリュー(割安)株への買いも再び人気化した。世界と比較して周回遅れで始まった国内の経済再開の動きでリオープン(経済再開)・インバウンド関連銘柄が買われてきた中、景気後退懸念による金利の先高観後退で内需系グロース(成長)株も強含み、そして、これらに再び脚光を浴びたバリュー株の上昇も加わることで、前日は日本株の株高地合いを裏付ける条件がそろったといえる。
しかし、ここから先は短期的にもやや注意を要する局面に入ってくると考える。前日に東証が発表した投資部門別売買動向によると、海外投資家は4月に日本株を現物で2兆1000億円強買い越した。月間で5年半ぶりの大きさであり、3月の2兆2500億円程の売り越しをほぼ解消した。米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻以降にさらに高まっていた景気後退懸念の中でも先物でなく現物でこれだけの買い越し幅が見られたのは、恐らく上述したような日本株を巡る独自要因が寄与しているところが大きいのだろう。ただ、裏を返せば3月の売り越し幅を解消したことで買い戻し余地はなくなったともいえる。
また、今回の決算シーズンで国内企業から株主還元の強化などが相次いだことが足元の日本株の相対的な強さにつながっていると思われるが、今週でその決算発表も一巡する。このため、来週以降はこれまでの株高地合いに寄与してきた要因が一旦とはいえ、一つ剥落することになる。
さらに、今週末は5月限オプション取引の特別清算指数(SQ)算出日に当たる。足元ではSQに向けて売り方の買い戻しに拍車がかかっていると思われる。また、日経平均の29500円や30000円を権利行使価格とするコール(買う権利)オプションの建玉がそれなりに積み上がっている。このため、コールオプションの売り手によるデルタヘッジに伴う先物買いが先物価格を上昇させ、これが裁定業者の裁定買い(割高な先物を売り、割安な現物を買う)を誘発すれば、一段高が演出される。足元の日本株の想定超の強さはこうした需給要因が効いている可能性があろう。そうだとすれば、今週末のSQを通過すれば、また一つ日本株の株高地合いに寄与してきた要因が一つ剥落することになる。
今晩の米4月CPI、明晩の米4月卸売物価指数(PPI)が予想を下回って米株式市場が上昇すれば、週末に向けて日本株の一段高はあり得るだろう。また、本日は注目のトヨタ自動車<7203>の決算が予定されているが、日本株を代表する同社株が株価の下落トレンド転換につながるような決算を発表すれば、こうした流れにも弾みがつこう。
ただ、これらの材料を見極める必要があるとはいえ、上述したように、今週末をもって日本株の相対的な強さはいったん小休止となる可能性があるため、この点には留意しておきたい。
(仲村幸浩)
<AK>
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