―コロナ禍でストレス増が起因とも、「ヤクルト1000」爆発的人気が牽引―
「睡眠ビジネス」が花盛りだ。コロナ禍もあって、ストレスが重くのしかかる社会状況で眠れぬ夜に悩む人々が増加している。こうしたなか“睡眠の質の向上”を求めるニーズが一気に睡眠ビジネスを開花させ、食品メーカーをはじめさまざまな業態の企業が続々と参入している。競争激化も囁(ささや)かれる睡眠ビジネスだが、そうしたなかにあっても活躍期待の高まる関連銘柄の動向を探った。
●8割以上が睡眠で悩み抱える
悶々とした相場状況が続くなか、眠れぬ夜を過ごしている投資家も多いだろう。こちらは、前日のNY市場の動向が気にかかっての寝不足ともいえそうだが、睡眠について問題を抱える人が増加している要因の一つとして、新型コロナウイルスの感染拡大により社会状況が一変したことが挙げられている。幸か不幸か、在宅勤務 の拡大によって通勤ラッシュや煩わしい対面での人間関係から解放されることを歓迎する人がいる一方で、人によっては急激に変化する社会に対応することができずストレスが重くのしかかり、不眠症状となる場合も多いようだ。
第一三共ヘルスケア(東京都中央区)は、20~60代の働く男女を対象にした「睡眠に関する調査」結果を7月に公表。これによると、8割以上の人が、睡眠について悩んでいるという。最も多い悩みは「途中で起きてしまう」(41.6%)で、睡眠に関する悩みが生じる原因としては「仕事や人間関係によるストレス」(37.2%)が最も多い。一方、睡眠不足によって「精神的ストレス」を感じている人も多く、睡眠とストレスが互いに悪影響を及ぼしていることがうかがえる、と分析した。
同調査のなかで、日本睡眠学会専門医の中村真樹氏は「最近は在宅勤務から出社勤務に戻り始めたことで睡眠が不規則になり、いわゆる社会的時差ボケ(ソーシャル・ジェットラグ)を起こしている人が一時的に増えた印象がある」と指摘している。
●リードするヤクルト、カネカは攻勢
こうした状況で、「ストレスの緩和」「睡眠の質向上」などを求める人々のニーズを捉えたのがヤクルト本社 <2267> [東証P]の「Yakult(ヤクルト)1000」だ。同製品は同社史上最高密度の「乳酸菌シロタ株」を含む機能性表示食品 だが、SNS上で話題となり品薄状態になるなど爆発的人気となった。会社側では、「増産体制強化を進めている」(広報)としており、品不足解消へ向けての動きを強めている。株価は、8月1日に8550円まで買われ年初来高値を更新したものの上昇一服。8200円付近で頑強展開をみせるなか、ここからの動向には目を配っておきたい。
塩ビ大手でさまざまな分野で活躍領域を広げるカネカ <4118> [東証P]も、8月に機能性表示食品「わたしのチカラQ10ヨーグルト」「わたしのチカラQ10ヨーグルト ドリンクタイプ」を発売。「睡眠の質の向上に役立つ」など3つの機能性表示を取得しており、テレビCMを放映することで一気に同製品の知名度を上げている。23年3月期の営業利益は前期比10.2%増の480億円を予想しており、17期ぶりに過去最高益を更新する見通しだ。株価は、前週末取引終了後の230万株を上限とする自社株買い発表を好感し上放れ、一気に年初来高値を更新している。
●味の素、ファンケルにも注目
そのほか機能性表示食品・睡眠サプリメントでは、「グリナ」の味の素 <2802> [東証P]、「REMWELL(レムウェル)」の小野薬品工業 <4528> [東証P]に加え、睡眠サポートサプリも手掛ける健康食品大手のファンケル <4921> [東証P]などにも注目。森永乳業 <2264> [東証P]も13日からその名もズバリ「睡眠改善」(機能性表示食品・睡眠サポートドリンク)を発売する。このなか味の素は新値街道をひた走り、きょうも高値圏でしっかり。ファンケルも25日移動平均線をサポートラインにじりじりと下値を切り上げる展開で、ここからの動向には注視が必要だ。
●スリープテックで帝人、ARMなど
“不眠大国”といわれる日本だが、睡眠の質をテクノロジーで改善する、いわゆる「SleepTech(スリープテック)」にも関心が高まっている。ハイテクの活用により睡眠ビジネスは活躍領域を一層広げることでその市場規模を拡大するとともに、さまざまな原因で不眠に悩む人々に救いの手を差し伸べている。
帝人 <3401> [東証P]は、5月に子会社の帝人フロンティアなどが睡眠サービス「スリープ コンシェルジュ」を宿泊施設向けにスタートしたと発表。これは、わずか一晩といった短期間の使用でも、睡眠時の体動情報を解析して睡眠評価(睡眠の質の解析など)が行える新たなサービスだ。今後、ホテルなどの宿泊施設へ提案を進め、採用拡大を図っていく方針だ。同社の23年3月期の営業利益は前期比13.1%増の500億円を計画。株価は、8月26日に直近高値となる1497円まで買われた後は若干調整したが、この踊り場を経て再び上値指向に。1月につけた年初来高値1502円も射程に入った。
メンタリティマネジメントが主力のアドバンテッジリスクマネジメント <8769> [東証P]は睡眠問題解消アプリ「アドバンテッジ スリープ」を提供している。これは、人事労務担当者向けの管理機能を付与したBtoBtoE向けのサービス。従業員の睡眠問題対策をサポートすることで、企業の生産性向上に貢献するというものだ。7月には、三菱重工業 <7011> [東証P]のグループ会社約50社にストレスチェックサービス「アドバンテッジ タフネス」を提供したと発表。また、同グループ約50社のうち20社には、人事労務関連データを集約するデータマネジメントプラットフォーム「アドバンテッジ ウェルビーイング DXP」も提供した。株価は上値の重い展開が続くが、業容拡大に期待感も。
そのほかでは、健康・美容機器を手がけるMTG <7806> [東証G]は、スリープテックによるトータルソリューションブランド「NEWPEACE」から不眠症を緩和できる医療機器「NEWPEACE Medical Sheet(ニューピース メディカルシート)」を昨年7月に発売した。
また、スリープテック分野に参入する動きも活発化している。装着型ロボットスーツ「HAL」を開発展開するCYBERDYNE <7779> [東証G]は昨年8月に、スマートフォンアプリ「熟睡アラーム」を開発・運営するC2(東京都文京区)を子会社化している。ポーラ・オルビスホールディングス <4927> [東証P]傘下のポーラは今年2月、ソニーネットワークコミュニケーションズ(東京都品川区)とヘルステックサービスを提供する「SOULA(ソウラ)」を設立し、企業・団体向けヘルスケアサービスサポートアプリ「SOULA pie」を展開。睡眠領域については開発予定とするが、同領域でのニーズが高まるなか期待感も募る。
●攻勢強める大御所パラベッド
もちろん睡眠には欠かせないベッドもスリープテックの塊ともいえるだけに忘れてはならない存在だ。
睡眠領域において、まさに大御所ともいえるパラマウントベッドホールディングス <7817> [東証P]だが、今月1日に睡眠状態を把握し“眠りの自動運転”を行う電動ベッド「Active Sleep BED(アクティブ スリープ ベッド)」の専用アプリ向けに「睡眠改善プログラム」を開発したと発表。同プログラムは、睡眠状態からユーザー別の課題に合わせたアドバイスを提示し、改善のための行動変容を促すことで健康管理をサポートするという。また、昨年7月にはNTT西日本(大阪市都島区)と共同出資で、睡眠データを活用したオンラインヘルスケアサービスを提供する「NTT PARAVITA(NTTパラヴィータ)」を設立しており、オンラインの予防・健康管理サービス市場の拡大が予想されるなか積極展開を図る構えだ。23年3月期は営業利益段階で前期比1.3%増の125億円と微増を計画するが、連続で最高利益を更新する見込みだ。株価は、8月17日につけた年初来高値2711円をにらむ。
●ゴルドウイン、アシックスも積極展開
ここ、スポーツ関連分野からも睡眠市場への積極参入が目立っている。ゴールドウイン <8111> [東証P]は、同社が展開する「NEUTRALWORKS.(ニュートラルワークス.)」から、睡眠時の快適さをサポートするオリジナルマットレス「ENNN / MATTRESS(エヌ / マットレス)」をはじめ、羽毛布団やカバー類などブランド初となる寝具を8月31日から受注販売を順次スタートした。また、アシックス <7936> [東証P]は今月1日、眠りのためのエクササイズ「B!sleep(ビースリープ)」を開発したと発表。17日から都市型低酸素環境下トレーニング施設「ASICS Sports Complex(アシックススポーツコンプレックス)」で本格的に展開する。
株探ニュース
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