東北大学・東京大学・メニコン コンタクトレンズの基盤技術に関する共同研究を開始 新しい素材設計と流通資材のリサイクルで、業界に変革を
国立大学法人東北大学
国立大学法人東京大学物性研究所
株式会社メニコン
左:株式会社メニコン 伊藤恵利 中:東北大学 岡部朋永 右:東京大学 原田慈久
国立大学法人東北大学(宮城県仙台市、総長 大野英男、以下 東北大学)と国立大学法人東京大学(東京都文京区、総長 藤井輝夫、以下 東京大学)と株式会社メニコン(愛知県名古屋市、代表執行役社長COO 川浦康嗣、以下 メニコン)は、2024年4月に、「次世代コンタクトレンズ及びコンタクトレンズの流通・製造に関する基盤技術構築」に関する共同研究を開始いたします。
東北大学及び東京大学の持つ研究力、メニコンの持つコンタクトレンズに関する技術を融合し、新しいコンタクトレンズ素材の設計及びその流通・製造に使用されるプラスチック資材のリサイクルに関し、業界変革を図る基盤技術の構築を目指します。
研究の背景
東北大学は2023年1月、グリーン未来創造機構・グリーンクロステック研究センター(注1)を開設しており、科学・工学とデータサイエンス・IT をはじめとする先進テクノロジーの融合による実学研究により、グリーン分野に関連する社会課題・ビジネス課題の解決をゴールとした産学共創イノベーション拠点の形成を目指しています。
同じく、東京大学は、物性研究所およびシンクロトロン放射光連携研究機構がNanoTerasu(注2)に拠点を構え、学術が産学協創を主導し、学の融合を触媒する循環型の学理構築を志向した研究を推進しています。
メニコンは、大型放射光施設(注3)やあいちシンクロトロン光センター(注4)等のX線源、大型陽子加速器施設(注5)等の中性子源といったさまざまな量子ビームを活用し、コンタクトレンズ素材の構造機能相関の解明に取り組み、その成果を活かした材料設計を目指しています。
東北大学青葉山新キャンパス内には、東北大学、東京大学の物性研究所およびシンクロトロン放射光連携研究機構が共に拠点を構えるNanoTerasuが、2024年4月に稼働を迎えます。
また、2024年4月1日に、メニコンと東北大学は、東北大学青葉山キャンパスに、『メニコン×東北大学 みる未来のための共創研究所(注6)』を開設致します。
今回の取り組み
東北大学及び東京大学の持つ深い知と研究力、メニコンの持つコンタクトレンズに関する経験と技術を融合し、本共同研究、さらにNanoTerasu及び共創研究所をハブとする、新しいコンタクトレンズ素材の設計及びその流通・製造に使用されるプラスチック資材のリサイクルに関し、業界変革を図る基盤技術の構築を目指します。
メニコンは、学術と連携し量子ビーム施設を活用したコンタクトレンズ素材の構造機能相関に関する研究から、ものづくりの現場に科学の眼による真実の探求の必要性を感じてきました。従来施設に加え、コアリション(注7)加入を前提とするNanoTerasuの利用は、整備される突出したビームライン群の魅力に加え、産学連携を推進するシステムに期待するものです。
コンタクトレンズの素材に対し、テンダーX線(注8)領域の分光を用いることで、表面の微細な変化を捉えられることにいち早く気づき、 コンタクトレンズとしての性能発現メカニズムに関する理解を深めてきました。今回、コンタクトレンズ素材を含む『ポリマー素材』の計測に優れた性能が期待されるNanoTerasuには、特に輝度の高い(明るい)軟X線が使用できることに特徴があります。この軟X線という光を用いることで、コンタクトレンズの大きな課題の一つであるレンズと水の相関、すなわちレンズ装着の快適性に関する深い理解が期待されます。
さらに、これまでの分析による探求だけでなく、量子ビームの相補利用による精細な実態計測を、デジタルトランスフォーメーションを活用した計算科学と融合させることで、計測と計算のデジタルツイン構築を進め、これを両輪とする精緻な素材設計を目指します。
また、ソフトコンタクトレンズの流通に使用されるプラスチック容器は、年間約4万トンと試算されますが、この容器に代表されるコンタクトレンズ用プラスチック資材は、そもそも医療機器に使用するため厳しいチェックを受け、純度の高い原料を使用しております。
加えて環境省が管轄するBRIDGE(注9)における研究から、コンタクトレンズ用プラスチック資材は製造に伴う熱・光・圧力による品質劣化が極めて小さいリサイクルプラスチックであることが確認出来ております。したがって、これら資材の効率的な資源化は、昨今求められているCO2削減への期待値の高い水平リサイクル資材として期待されます。
BRIDGEを通じたSIPサーキュラーエコノミー課題との連携を図り、これらコンタクトレンズ製造・流通過程で使用されるプラスチックに関し、水平リサイクル技術の確立を目指します。また同時に、市場に流通するコンタクトレンズ容器のサーキュラーエコノミー活動の普及推進を通じ、社会全体での環境配慮型コンタクトレンズ流通の構築を目指します。
共創研究所及びNanoTerasuを活用し、この容器に代表されるプラスチックの資源化に関する研究を推進します。
【共同研究概要】
1. 名称:「次世代コンタクトレンズ及びコンタクトレンズの流通・製造に関する基盤技術構築」
2. 研究代表者:
東北大学 岡部朋永
(東北大学大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻 教授、グリーン未来創造機構 グリーンクロステック研究センター センター長)
東京大学 原田慈久
(東京大学物性研究所 教授、附属極限コヒーレント光科学研究センター 軌道放射物性研究施設 施設長、東京大学 シンクロトロン放射光連携研究機構 機構長、東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 客員教授)
株式会社メニコン 伊藤恵利
(メニコンフューチャーデバイスラボラトリー 所長、東北大学 特任教授)
3. 契約期間:2024年4月1日~2027年3月31日
注1. グリーンクロステック研究センター https://www.ggi.tohoku.ac.jp/greenxtech/
科学・工学とデータサイエンス・ITをはじめとする先進テクノロジーの融合による実学研究により、グリーン分野に関連する社会課題・ビジネス課題の解決をゴールとした産学共創イノベーション拠点。
注2. NanoTerasu https://nanoterasu.jp/
正式名称「3GeV高輝度放射光施設」。東北大学青葉山新キャンパスに整備中の放射光施設。加速器が作り出す極めて明るい放射光を物質に当て、ナノメートルスケールの超微細な世界を可視化する。軽元素から構成されるポリマーなどのナノ構造の可視化が期待される。
注3. 大型放射光施設(SPring-8) http://www.spring8.or.jp/ja/
兵庫県播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことであり、SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
注4. あいちシンクロトロン光センター https://www.aichisr.jp/
ナノレベルの先端・計測分析施設として企業や大学等の利用よる産業振興寄与を目的として2013年3月22日に供用開始し、公益財団法人科学技術交流財団が運営管理する放射光施設。
注5. 大型陽子加速器施設(Japan Proton Accelerator Research Complex) https://j-parc.jp/c/
物質中の原子・分子の構造から物質・生命の起源を探る研究や、素粒子や原子核の研究から宇宙の始まりの謎を解く研究を進める研究施設。特に、物質・生命科学実験施設(MLF)では、大強度パルス中性子・ミュオンを用いて、学理解明から産業応用に至る様々な分野における最先端の研究・開発が行われている。
注6. 共創研究所 https://www.rpip.tohoku.ac.jp/jp/information/kyoso_kenkyu/
東北大学の運用するシステムであり、大学内に企業との連携拠点を設けるとともに、大学の教員・知見・設備等に対する部局横断的なアクセスを可能とすることで、共同研究の企画・推進、人材育成、および大学発ベンチャーとの連携をはじめとする多様な連携活動を促進する制度。
東北大学 産学連携機構 WEBサイト(共創研究所) https://www.rpip.tohoku.ac.jp/jp/information/kyoso_kenkyu/
注7. コアリション https://www.phosic.or.jp/member.html
NanoTerasuへの参画にあたり、加入金を負担して、施設利用権と学術メンバーから実験やデータ分析などの支援を受けられる仕組み。
注8. テンダーX線
明確な定義はないが、軟X線と硬X線の間である2-5 keV程度の光子エネルギーを有するX線。
注9. BRIDGE https://www8.cao.go.jp/cstp/bridge/index.html
科学技術・イノベーション政策の方針に基づき、内閣府設置の総合科学技術・イノベーション会議が各省庁の研究開発等の施策のイノベーション化につなげるための「重点課題」を設定し、研究開発だけでなく社会課題解決等に向けた取組を推進するプログラム。SIP3期「サーキュラーエコノミーシステムの構築」に関しては、成果のASEAN地域等へ早期の展開を念頭においた イノベーション・エコシステム形成事業である。
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