同社の競争優位性は「部品の信頼性の基盤となる高信頼性基板を提供してきた歴史」にある。車載分野では故障が許されない環境における品質保証が最大の参入障壁となるため、長年培った信頼が新規参入を困難にしている。特にADAS(先進運転支援システム)向けビルドアップ基板や高精度パターン形成といった高難易度技術に強みを持ち、利益率も高い製品群をラインナップしている。さらに中国無錫工場では大判化に対応した生産体制を整え、量産稼働が想定以上に順調に立ち上がったことでコスト競争力が高まっている点も差別化要因である。
直近の2026年3月期第1四半期決算では、売上高22,779百万円(前年同期比0.4%減)、営業利益160百万円(同78.6%減)で着地した。日系主要顧客向けの販売は堅調であった一方、欧州市場の停滞で外資顧客向け販売が減少したことが響いた。加えて工場稼働率の低下が利益を圧迫し、特にタイ工場では新システム導入に伴う現場の工数調整や新工場立ち上げに伴う人件費増加が影響した。地域別では、日本が売上増もプロダクトミックスの悪化で利益が大幅減、中国は合理化と大判化対応で増益、欧米は販売減少にもかかわらず物流コスト圧縮で増益となるなど、地域ごとに濃淡が見られた。用途別ではパワートレイン系が79億円(前年同期比+7%)と堅調だった一方、走行安全系とボディ快適系はやや減少。ただ、通期計画に対しては計画比較で乖離はないようだ。
通期計画では、売上高96,000百万円(前期比0.5%増)、営業利益4,000百万円(同5.1%増)を見込む。1Q業績にも影響していた欧州需要低迷や新工場立ち上げ負担など短期的要因が重なるためでの計画であり、下期以降のタイ新工場の安定稼働による改善を期待する構えである。中国では無錫工場の大判化が成長ドライバーとして期待されており、利益率の改善余地がある一方で、欧州は補助金撤廃後のEV需要停滞が続いており先行き不透明感が強い。こうした中、日系大手向けのADAS基板案件や北米EV顧客との取引が進んでいることは明るい材料といえる。
市場環境を俯瞰すると、自動車産業は欧州を中心にEV需要が鈍化するなど成長の速度に地域差がある。アメリカでは自動運転タクシーの商用化が始まり、今後数年で先進国を中心に普及が進む可能性が高い。地域によって環境はまちまちではあるが、電動化・ADAS・自動運転化に伴って車1台あたりのECUが増え、プリント配線板の使用量も大幅に増加することになる。さらにECUを統合する必要性からビルドアップ配線板のニーズが拡大するトレンドは変わらない。同社にとっては統合ECU向けビルドアップ基板需要の拡大が最大の追い風であり、車載電子化の進展とともに「必須の存在」としての地位を固めるチャンスとなる。また、半導体検査装置、航空宇宙、医療、通信インフラなど成長領域での案件も広がりつつあり、いずれかの大口受注が成長を押し上げる可能性を秘めている。為替・関税リスクについては現状直接的な影響は小さいものの、米国の通商政策や円高進行は業績を変動させる要因となり得る。
株主還元については配当性向30%を目安に据えている。PBRは0.3倍台と低位にあり、市場からは資本効率改善や成長戦略の実行を通じた企業価値向上が求められている。ただ、ROEは株主資本コストを下回っていることを受けて、同社はROE向上に向けて資産の有効活用と収益性強化が不可欠と認識しているようだ。
総じて、日本シイエムケイは自動車の電子化・安全性向上に不可欠な存在としての地位を固めつつある。短期的には需要低迷や新工場負担による収益変動に晒されているが、中国や北米での顧客基盤拡大、統合ECU向け需要の伸長、新工場の稼働、成長分野の拡販によって中長期的な成長は十分に描ける。今期は将来成長のための投資の時期となるが、技術力と顧客基盤を武器に次の成長ステージを見据えており、同社の今後の動向に注目しておきたい。
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