3. 成長戦略
新中期経営計画「move.2027」における事業戦略、資本・財務戦略、非財務戦略の詳細は次のとおりである。
(1) 事業戦略
新晃工業<6458>はバリューチェーンを生かし、成長領域の拡大と既存事業の深耕を図る方針である。このため、AHU単体の販売から空調工事・保守を含めたトータルな提案を強化するなど、グループが連携した一体型提案によってデータセンターなど成長分野の拡大を進める。また、デジタル化によってグループの連携を促進することで、ターゲット市場の深耕に向けた組織の拡充やインパクト営業の強化を図る。これにより、国内市場で多彩なニーズに応えることでAHU領域における揺るぎないNo.1ポジションを確立する一方、空調機メーカーから「医療施設クリーンルーム設計施工」などを加えた空調総合企業へと進化する方針である。また、SSA(品質・性能適正化特別活動)を基盤に、No.1の開発体制を追求してカーボンニュートラルに貢献するとともに、次世代生産体制を強化して生産プロセスにイノベーションを起こす考えである。
中でも、No.1の開発体制の追求では、熱交換効率を向上させた新型コイルや、製造時のCO2排出量と運用時の消費電力削減が両立する新型プラグファン、コンパクトな新型AHUなどを開発する一方、環境や物流にやさしい空調機の新コンセプト「Green AHU」を実現するなど、企業成長と社会貢献の2軸でNo.1を追求していく計画である。ところで、SIMAプロジェクトの新たな展開として「新設計システム」と「SINKOダイレクト」をリリースしたが、「新設計システム」では、現場ごとの要望を初期段階から3D画像化し、設計者による構造理解の促進と自動設計の範囲拡大により精度とスピード向上を両立、受注設計から生産設計の展開図・加工機データまでの一貫したデータ連携を実現した。これを標準型AHUから順次拡張し、現場ごとの設計仕様ニーズに迅速に対応していく体制を構築する計画である。「SINKOダイレクト」では、一般のECサイトのような手軽さで同社が独自に構築したデータベースから空調機を検索し、価格から詳細情報、問い合わせまでをWeb上で完結できるサービスの提供を開始した。データは現在既に10,000件以上あるが、今後、定期的にアップデートする予定である。
(2) 資本・財務戦略
資本・財務戦略では、資本コスト経営により、ROEを向上させ株主資本コストを低減させることで企業価値の向上を目指す。そのため、株主還元の強化や負債の活用などにより、大胆な負債・資本構成の見直しを実施する。また、営業キャッシュ・フローと手元流動性を主として戦略投資に振り向けることで、持続的な利益成長につなげる。なお、株主還元の強化については、配当性向50%(DOE3.5%を下限)を目標にしつつ、2025年3月期から2029年3月期の5年間で100億円、5,000千株を上限に自己株式の取得を行う予定である。
戦略投資としては、成長領域や新規事業、既存事業の基盤強化に、「move.2027」の3年間で計135億円を計画している。成長領域や新規事業への投資は、M&A投資枠として30億円、成長投資枠として18億円の計48億円以上を国内市場向けに確保しており、データセンター向けやヒートポンプAHUの開発・販売の強化、M&Aなどによる新たな成長領域の確保、再生可能エネルギー向け蓄エネシステムや水素製造工程におけるハイスペック冷却システムなどの新規市場開拓に振り向ける。一方、既存事業の基盤強化への投資は、生産能力増強に65億円、SIMA開発に9億円、設備投資に8億円他の87億円以上を予定している。SSAを基盤に、カーボンニュートラルに貢献する基幹部品の開発や市場別に訴求力のある製品の開発など開発体制の強化、及び工場の運営最適化や生産設備・能力拡充、DXによる品質向上と生産効率向上の両立など生産体制の強化に振り向けていく考えである。
中でも、神奈川工場の生産能力増強と空調機総合実験棟への投資が大きな目玉である。生産能力増強の取り組みでは、「move.2027」のみならず長期的な視点に立って、購入済みの工場隣接地(現 北工場)の大幅リニューアルと設備投資を行い、既存の製造エリア(南工場)の整備と合わせ、生産能力の増強を計画している。同時に、SSAを基盤とした生産プロセスイノベーションと連動し、工場の最適化運営を推進する予定である。2024年6月に既に稼働を開始した空調機総合実験棟は、JIS/JRA規格に準拠した最新計測設備を完備しており、より高度な空調試験ができる施設である。既存の研究開発施設「SINKO TECHNICAL CENTER」とともに、データセンターや個別空調などの成長領域を支えるため、空調機の研究開発や品質管理の高度化・効率化を目指している。
(3) 非財務戦略
非財務戦略では、ESGに関わる様々なテーマに取り組み、コーポレートサスティナビリティにつなげる考えである。E(環境)では、環境負荷低減への貢献を通じて脱炭素推進による気候変動に対応する一方、予測される気候変動への対応やTCFD※シナリオ分析を通じて事業機会を拡大していく。こうした対応は企業としての未来への責任であり、同社ならではの技術・製品によって、2050年までにCO2排出量実質ゼロを実現する計画である。S(社会)では、人的資本経営と誰もが幸せになれる環境づくりを目指す。経営幹部育成による戦略立案能力向上や、DXによるアイデア創出と実現力向上などに挑戦する人財の育成に加え、多様性を生かせる、安全で生き生きとした職場づくりを進める。同社は人的資本を重要な資産と位置付けており、人財への投資で社員の品格と企業の価値を高め、地域社会と共生し、誰もが幸せになれる環境づくりに取り組む計画である。G(ガバナンス)では、多様性のある取締役会を構成するとともに、統合報告書の発行や中期経営計画の英訳などを通じて株主らとの建設的な対話を促進し、コーポレート・ガバナンスの実効性強化を目指す。
※TCFD:気候関連財務情報開示タスクフォース。気候変動に関連するリスクと機会の開示を促進する国際的なイニシアチブ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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