1. 中期経営計画(2023年3月期~2025年3月期)
加藤製作所<6390>は、コロナ禍に伴う需要の大幅減少やグローバルサプライチェーンの混乱など急激な事業環境の変化に対応し、2022年3月に中期経営計画(2023年3月期~2025年3月期)を策定した。テーマには「スリムで骨太体質への変革」、基本方針には収益改善・強化(コア事業への経営リソース集中及び抜本的改革)、財務体質の改善(在庫を中心とした運転資本の適正化及び資金効率向上)、将来の基盤構築(開発機種のコア事業への集中)を掲げた。次なる飛躍に向けた徹底的な変革と位置付けて、コスト構造を根本から見直し、強靭な利益体質へ生まれ変わるための抜本的対策を織り込んだ。
主要財務目標値には最終年度2025年3月期の売上高664億円、売上原価率83.2%、営業利益率4.7%などを掲げている。営業利益の改善要因としては、原料費の増加を見込むものの、構造改革に伴い計上した一過性費用が剥落するほか、収益性重視戦略(営業施策、商品施策、製造施策、人事施策、その他施策)による収益性改善を計画している。具体的には、営業施策では販売価格アップ、販売台数拡大、国内販売拠点の統廃合など、商品施策としては既存製品の徹底的なコストダウン、新製品群の市場投入など、製造施策としては生産コストの抜本的な見直し、生産の平準化など、人事施策とその他施策としては外部出向、各種固定費の削減やアフターサービス事業の強化などを推進している。
こうした収益性重視戦略の推進により、計画1年目の2023年3月期には構造改革に伴う一時的費用の剥落も寄与して営業黒字転換を達成した。計画2年目の2024年3月期は、主要部品供給制約が継続したことに加え、中国事業の低迷が長期化したため、売上高と営業利益は当初計画値に届かなかったものの、売上原価率の改善が進展して大幅営業増益を達成した。そして計画最終年度となる2025年3月期の営業利益は当初計画値に届かないものの、主要部品供給制約の解消や売上原価率改善の進展により大幅営業増益の見込みとしている。さらに、新製品投入によって拡販が加速すること、収益性重視戦略による売価・原価改善効果が一段と進展することに加え、中国に代わる新たな主要市場としてインド及びその周辺国を含めた商圏の拡大を推進する方針を打ち出したことなどを勘案すれば、中期経営計画の進捗はおおむね順調と弊社では考えている。
なお、2023年3月31日時点でプライム市場の上場維持基準のうち「流通株式時価総額」が基準に適合していなかったが、中期経営計画で掲げた戦略の着実な遂行によって業績が回復基調となったことに加え、株主還元の充実やIRの強化を含めた各種取組を推進し、2024年3月31日時点において「流通株式時価総額」を含めて、プライム市場の上場維持基準のすべてに適合した。また2024年5月には「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」をリリースし、資本効率の改善を重要な経営課題の1つに据え、今後策定を予定している2026年3月期を初年度とする次期中期経営計画において、関連指標に係る具体的な中期目標を開示し、計画達成に向けた各種施策を推進するとした。今後も成長戦略の着実な実行による業績拡大、株主還元の充実やIRの強化の継続などにより、企業価値の向上に取り組む方針だ。
株主還元の強化方針
2. 株主還元策
株主還元については、メーカーとして体質強化を図るため必要な内部留保を行いつつ、株主に対して安定的な配当を行うことを基本方針としている。そして中期経営計画を着実に推進し、収益性の改善・強化と財務体質の改善により、従来の安定配当に加えて、さらなる株主還元の充実を目指すとしている。この基本方針に基づいて2024年3月期の配当は前期比35.0円増配の65.0円(第2四半期末20.0円、期末45.0円)とした。なお2024年3月期の配当性向については、特別利益(固定資産売却益)計上や法人税等調整額(利益)計上という一過性要因で親会社株主に帰属する当期純利益が大幅に押し上げられているため表面的には18%にとどまったが、この一過性要因の影響を排除するため経常利益ベースで算出すると配当性向(参考値)は30%程度になる。また2025年3月期については、中国事業の見直しに伴い親会社株主に帰属する当期純利益予想を未定としたため、配当予想も未定としている。2024年3月期と同様に特別損益の一過性要因で親会社株主に帰属する当期純利益が大きく変動し、表面的な配当性向も大きく変動する可能性がある。ただし同社では、株主還元を継続的に強化する方針であるため、2025年3月期も一過性要因を除く経常利益ベースでの配当性向(参考値)として30%程度を確保したいとしている。さらに今後は業績拡大に伴って株主還元が一段と強化されることが期待できるだろうと弊社では考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)
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