3. 同社の強み
井関農機<6310>の農業機械の国内シェアは、クボタ<6326>、ヤンマー(株)に次いで第3位と言われている。クボタのシェアは非常に高く、海外でもDeere and Company
同社は海外進出の面でやや出遅れた印象があるが、その分、海外の巨大なマーケットを成長領域として捉え強化している。また、農業ソリューションという世界的な潮流のなかで、大規模農家を中心にニーズが高まっているロボットやICTといった先端分野は、同社が強みを発揮しやすい領域と言うことができる。このような市場における同社の強みは、画期的な農業機械を開発してきた「技術力」、ハード(農業機械)とソフト(営農情報)の両面から顧客を支援できる「営農提案・サポート力」、国内外で様々なパートナーと連携し付加価値を生み出している「連携によるイノベーション」の3つで、それぞれの強みが相互作用することでより大きなシナジーを生んでいる。
(1) 技術力
技術力については、自脱型コンバインや田植機などで業界初や世界初といった製品を、創立以来市場に多数投入してきた実績に裏打ちされている。また、知的財産戦略の一環として特許の取得を積極的に進めていることもあり、特許の分野別公開数や登録数で常に上位にあるという実績も同社の強みを表している。こうした技術力の背景にあるのは、報奨金など発明提案活動を活発化する制度や、若手技術者への伝承や研究開発の成果などを共有する仕組みにある。さらに、他社の開発体制が分業制になっているのに対して、同社にも分業制はあるとはいえ、設計者自らが企画から図面、圃場でのテスト、フィードバックまで関与することで、顧客の声や様々な場面の経験を製品開発に反映しやすい体制になっていることも、高い技術力の理由だと考えられる。
(2) 営農提案・サポート力
営農提案・サポート力では、製品そのものや補修用部品、メンテナンスの優位性に加え、ソフト面でも営農ポータルサイト「Amoni」を使った情報発信や地域に密着した全国販売網を生かした顧客支援などを強みとしている。加えて、離農の裏側で増加傾向にある大規模農家に対する直接販売も強みであり、今般、販売子会社がISEKI Japanとして統一されたことで強みが増すと考えられる。このため、こうした大規模農家の中でも本州以南の農家に対して、北海道で実績のある輸入大型作業機を販売する機会が増えていくことが期待される。
(3) 連携によるイノベーション
自社の技術力に頼るだけでなく、行政や研究機関、大学、ベンチャーを含む様々な企業と連携した研究開発活動を積極的に行っている。自社になかった技術や視点が加わることで、研究開発活動のスピードが速くなり、画期的なイノベーションを生むことにつながっているようだ。こうしたなか、特に環境保全型スマート農業の実現という目標を掲げ、化学肥料の削減に向けて精密施肥技術を搭載した可変施肥農機を開発したり、水稲用自動抑草ロボット「アイガモロボ」の開発・販売で業務提携していたスタートアップ企業である(株)NEWGREEN(旧 有機米デザイン(株))に出資したりしている。なかでも2023年に発売した「アイガモロボ」は、太陽光発電で稼働し、田んぼの中を自律走行して土を巻き上げ、その土が雑草の種子や芽の上に堆積することで雑草の発生を抑制することができる商品で、2年で約500台を販売するなど人気があり、第11回ロボット大賞で「農林水産大臣賞」を受賞した。これがフルモデルチェンジされ、「アイガモロボ2」として2025年3月に発売された。価格が1台27.5万円と従来のほぼ半額のうえ、走破性や稼働の安定性など機能が大幅に向上、圃場の形状を学習するため全体をもれなくカバー、素材や内部構造を見直して軽量・コンパクト化を達成、ジャンボタニシの抑制やメタンの減少も実現した。このため、同社は2025年中に1,000台の販売を予定するなど期待を寄せている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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