2. プロジェクトZ〜次の100年に向け、「変革」の土台を整える〜
プロジェクトZによる抜本的構造改革は、強靭な企業体質への変革を目的とした「生産最適化」、「開発最適化」、「国内営業深化」の3つのテーマからなる各種施策に、人員構成の最適化や経費削減などを加えた聖域なき取り組みだ。成長戦略については、海外市場、国内市場、それぞれの市場で選択と集中による経営資源の効率的かつ効果的な活用を推し進め、成長を加速させていく。これらの抜本的構造改革と成長戦略を推進することにより、2027年12月期までに2023年12月期比で75億円以上の営業利益積み上げを図る。
1) 抜本的構造改革
1-1) 生産最適化
生産の効率化と平準化による生産性の向上を目的として、製品組み立て拠点の集約と生産機種の再配置を実行する。具体的には、(株)井関松山製造所と(株)井関熊本製造所を経営統合した上で、井関松山製造所にこれまで井関熊本製造所で生産していたコンバイン、井関新潟製造所で生産していた田植機の生産を移管する計画だ。なお、経営統合後の新社名は(株)ISEKI M&Dであり、井関熊本製造所での生産は2026年12月期中に終了する見込みである。そのほか、油圧機器の生産は、井関松山製造所から井関新潟製造所に移管する計画である。また、国内製造拠点の集約と同時に海外生産拠点の増強も併せて行う方針であり、従来松山製造所で生産していた中小型トラクタなどを始めとする海外向け製品の生産をPT.ISEKIインドネシアに移管していく。これら製造拠点の集約と海外生産拠点の増強を2030年までに完了する計画で、国内製造会社の経営統合に関しては2024年7月に実行した。これに伴う建屋の新設や生産設備の新設・更新などに対しては、2030年までに総額460億円を投資していく。積極投資によって生産性の向上を実現するだけに留まらず、固定資産や在庫の圧縮による資産効率の向上も実現していく方針だ。
1-2) 開発最適化
成長率と市場規模の2軸で開発機種と型式の選択と集中を推進することにより、開発の効率化と製品利益率の改善を実現していく。具体的には、開発する機種・型式を30%以上削減していくほか、グローバル共通設計の導入促進によって収益性と生産性を向上させていく方針だ。加えて、効率化によって捻出された余剰リソースを大型・先端・畑作・環境などの成長分野へと重点的にシフトさせていく。機種・型式の集約に関しては、2024年12月期第2四半期終了時点で一部対象の選定は完了しており、今後は、さらに対象の選定を加速させながら、実行フェーズへと移行していく計画だ。また、開発最適化を行いながらも市場への供給責任は果たしていく方針である。安定した市場供給を維持しながら農業の省力化に貢献することを目的に、中山間地や小規模区画向け国内小型農業機械製品を相互にOEM供給するアライアンスをヤンマーアグリ(株)と締結した。なお、生産最適化と開発最適化を実行することによる営業利益増益効果として、2027年12期までに約35億円(2023年比)を見込んでいる。
1-3) 国内営業深化
資源集約による経営効率の向上や各広域販売会社が持つノウハウの共有強化などを目的に、国内広域販売会社6社の経営統合を行う。(株)ヰセキ北海道、(株)ヰセキ東北、(株)ヰセキ関東甲信越、(株)ヰセキ関西中部、(株)ヰセキ中四国、(株)ヰセキ九州の国内販売会社6社に加えて、三重ヰセキ販売(株)(統合に向けて協議中)の合併を実施したうえで、存続会社であるヰセキ関西中部の名称を(株)ISEKI Japanに2025年1月から変更する計画だ。国内販売会社の統合による資源の集約で経営効率を向上させ、在庫拠点の最適化や物流体制の見直しも図り、コストを削減していく。また、新会社であるISEKI Japanと井関農機の営業本部を統合し、更なる業務の効率化を図るとともに、農業の大規模化に対応するための専門部署として「大規模企画室」を新設することも計画している。広域販売会社各社が持つ商品・地域に関するノウハウと、井関農機が持つ先端・環境に関するノウハウを融合させることによって提案力を強化し、新規顧客の獲得を加速させていく。これらの販売会社統合とそれに伴うコストの削減などにより、2027年12月期までに15億円程度(2023年比)の営業利益を創出することを見込んでいる。
1-4) 人員構成の最適化と経費削減
プロジェクトZが目指す成長と強靭な企業体質への変革を短期間で実現するために、間接部門のスリム化や希望退職の募集などによる人員構成の最適化と、エンゲージメント向上や成長分野への人材配置など人的資本投資を同時並行で推進していく。人的資本への投資に関しては、成長分野へと人材を配置転換していくことや市場競争力を高めるために教育と研修を充実させていくことなどを計画している。また、経費の削減に関しては、徹底した運営経費削減を貫徹することに加えて、組織と業務の統合により業務効率化を図り、無駄なコストを削減していく。経費削減の徹底により、2027年12月期までに10億円程度(2023年比)の営業利益創出を見込んでいる。なお、人員構成の最適化と人的資本投資の拡充によって10億円程度(2023年比)の営業利益創出効果を見込んでいるが、これは生産最適化、開発最適化、国内営業深化、それぞれの増益効果の内数として計上されている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
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