1. 業界動向と市場シェア
(1) 業界動向
レジャーの多様化や規制強化など環境変化を背景に、パチンコホール業界はここ数年、縮小傾向が続いてきた。特に2020年以降はコロナ禍という逆風も吹き、感染防止対策として店舗の一時休業を強いられたこともあり、市場規模(貸玉料)は前年比27.0%減の14.6兆円と大きく落ち込んだ。2021年は営業日数が回復したことで前年比横ばい水準と下げ止まった格好となったが、パチンコホールの経営は厳しい状況が続いており、2022年末のホール軒数は7,665軒(前年末比9.4%減)と減少ペースに拍車が掛かっている。業界団体である全日本遊技事業協同組合連合会の組合加盟店舗は6,857店舗となっており、1年間で764店舗が閉店している。ホール軒数の減少に伴い、遊技機の設置台数について見ても、2022年末時点でパチンコ遊技機が219万台(前年比6.3%減)、パチスロ遊技機が132万台(同10.1%減)と減少傾向が続いており、市場の縮小が進むなかで遊技機メーカーの競争もさらに激しくなり、今後は淘汰が進むものと予想される。実際、2023年3月に老舗メーカーである(株)西陣が廃業を発表した。
こうしたなか業界の活性化につながる取り組みとして、スマート遊技機の導入が2022年11月より始まった。当初はスマスロから導入が始まり、ゲーム性が向上したこともあって人気機種が生まれ客足も戻り始めるなど、ホール経営にやや明るさが見え始めた状況となっている。ただ、一方で閉店する店舗数は前年と同じペースで続いている。スマスロの導入には付属する専用ユニット(単価20万円)なども必要で、資金力のない中小のホールはスマスロを導入できず、結果的に閉店に追い込まれ、大手企業による寡占化が進む状況となっている。
こうした環境のなか、同社は2023年度の業界全体の出荷台数について、パチンコ遊技機は100万台(前年度比4.8%減)、パチスロ遊技機は70万台(同12.2%増)になると見ている。スマスロの導入によって稼働力が上がったパチスロ遊技機については、メーカー各社が積極的にスマスロの導入を計画していることから増加に転じる見通しだ、一方、パチンコ遊技機についてはスマートパチンコ(以下、スマパチ)と従来機種との間でスペックに大きな違いがないこと、また半導体不足の影響も一部で若干残っていることもあり、2023年度はスマスロに注力するメーカーが多いことも減少要因になると見ている。パチンコ、パチスロ合わせると170万台(同1.6%増)と若干ながら2年ぶりに増加に転じる見通しだ。
(2) スマート遊技機(スマートパチンコ/スマートパチスロ)について
スマート遊技機と従来の遊技機との大きな違いは、スマパチについては玉が封入され循環式となったこと、スマスロはメダルレスとなったことが挙げられる。ともに遊技に必要な物理的な玉やメダルの貸出がなく、電子情報を元に遊技ができるため、感染防止対策になるほかプレイがしやすくなり不正防止対策にもなるなどメリットが多い。
また、ホール運営側は初期導入コストが掛かるものの、出玉やメダルの持ち運びや計数管理など店舗スタッフの業務が減少することで人件費の抑制につながり、また補給装置が不要となるため省スペース化が図れるほか、店舗レイアウトも自由度が増すといったメリットがある。初期投資は掛かるが、ローコストオペレーションが可能となるため、スマート遊技機専門店舗も出始めており、今後増えていく可能性がある。
メーカー側にとっては、スマート遊技機で魅力的な新機種を開発しシェアを拡大できる好機となる。今回のスマート遊技機の導入にあたって、ゲーム性が高く集客力向上が期待できるような遊技機の開発を可能とするため、規則の範囲内で業界内のレギュレーション変更が行われた。スマパチでは大当たり確率が従来の320分の1から350分の1になることでスペック設計の幅が広がり、大当たりチャンス機能が拡充されるなど多様性のある遊技機開発が可能となった。現状はヒット機種が出ていないものの、スペック変更のメリットを生かした機種が出てくれば人気機種としてシェアを拡大できる可能性がある。一方、スマスロについては、有利区間の最大遊技数※1が撤廃され、どの段階からも大当たりが期待できるようになったほか、出玉性能も従来は大当たり開始からの増加2,400枚が上限であったが、差枚で2,400枚が上限となり※2、これらを生かした機種がヒットしている。スマート遊技機の導入で魅力的な新機種を開発できるチャンスが広がったことになり、独創的な機種開発に定評のある同社にとってはシェア拡大の好機となる。
※1 有利区間の最大遊技数は、現行の6.5号機までは有利区間の上限が連続4,000ゲームとなっており、最大遊技数に到達した場合に初期化され非有利区間(通常区間)に戻る。
※2 その日の台の収支がマイナス1,000枚だった場合、上限は3,400枚となる計算で、今まで以上に多くのメダルを獲得できるようになる(差枚方式については現行の6.5号機から採用)。
業界の健全化を進めることも今回のスマート遊技機導入の目的となっており、のめり込み対策や不正防止対策として、各遊技機の出玉情報等を新たに設置された第三者機関の「遊技機情報センター」で一元管理するようにした。業界の健全化が進むことで、客層の広がりにも期待が持てるようになる。スマート遊技機の出荷台数については、業界全体で2023年3月期下期は15万台程度が見込まれていたが、半導体不足の影響等により8万台強にとどまったものと見られる。2024年3月期は半導体不足もほぼ解消されている状況にあることから、スマスロについては大きく伸長するものと予想される。全体としては今後2~4年で大半がスマート遊技機に置き換わるものと予想される。業界にとっては1992年のプリペイドカード機導入以来の大変革となるだけに、今後の動向が注目される。
(3) 市場シェアの動向
同社の販売シェアは人気機種の販売時期によって変動があるものの、パチンコ遊技機はおおむね5~9%で安定して推移しており(2023年3月期は6.4%)、年間5~8機種のペースで新機種を開発、販売してきた。2021年3月期以降は「Pとある」シリーズが2タイトル続けて2万台を超えるなど、「アニメ」ジャンルでの主力機種としてブランドを確立したと言える。従来得意としてきた「ホラー」や「時代劇」「萌え」に加えて「アニメ」ジャンルでそれぞれ主力タイトルを投入し、市場シェアの拡大を目指していく。
一方、パチスロ遊技機はパチンコ遊技機で販売実績のあるタイトルを中心に年間2~3機種のペースで新機種を投入することを基本方針としている。2023年3月期の市場シェアは新規に4タイトルを投入したこともあり3.7%とここ数年ではもっとも高い水準となっている。
同社では商品戦略として、ユーザーの年齢層別にターゲットを合わせたジャンルを強化し、主力タイトルの開発・育成を図っていくことで、ラインナップの拡充を図り、パチンコ・パチスロ遊技機の双方で販売シェア拡大を図る方針だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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