―大規模災害への対応が喫緊の課題に、国を挙げてのプロジェクトで活躍必至の銘柄群―
週末20日の東京株式市場は日経平均株価が111円安と6日続落。前場はおおむねプラス圏で推移したが、後場に入ると力なく下値を探る展開を余儀なくされた。ここ調整色が再び強まり、今週は全体指数が上昇する日がなかった。この日も軟調に推移する米株価指数先物を横目になかなか買い気は盛り上がらず、年末相場特有の「掉尾の一振」を期待するムードはお預け状態となっている。
半導体関連を中心にハイテク株への逆風が依然として止まない状況だ。米国経済が強く、外国為替市場で円安が進んでいるからといって、必ずしもハイテク系に有利という常識的な結論に導かれないのが株式市場の複雑なところで、その答えは株式需給に尽きるといってもよい。既に満腹状態に買い漁ってしまった半導体製造装置関連株などは良い例で、戻り売りの呪縛から逃れるためには、いったん投資家の投げを誘発し御破算にする場面が必要となってくる。
●「防災庁」設置に向け一段と追い風が鮮明に
流れは内需株にある。全体相場が冴えないなかも、目立たないが建設セクターには高値圏で強さを発揮している銘柄が多い。この日は業種別指数でも建設セクターはプラスで引けている。そうした中で今はまだ注目度が低いものの、国土強靱化関連というテーマは決して色褪せることがなく、事実こうしている間にも、 防災・減災を目的としたプロジェクトは国内で着実に進展している。ここはしたたかに、同関連株に視点を合わせるところだ。
国策の名の付くものは数あれど、地震や台風など 大規模災害への備えは、国民の生命を守るという観点で最重要課題の一つに挙げられる。石破茂首相の提唱する「防災省」構想は、自民党総裁選前から株式市場で投資テーマとして賑わいをみせた経緯がある。首都直下地震や南海トラフ地震などの大規模災害への備えは喫緊の課題と言ってよいが、石破政権では当面は第一段階となる「防災庁」設置を2026年度中に目指す方針にある。災害対応を担う内閣府防災部門を防災庁へ移行する方法を検討しており、国会への法案提出に取り組んでいく方向である。専任の大臣ポストを設け、予算の抜本的拡充など意欲的に進める構えだ。民間でもこの国策のシナリオに乗って活躍が期待される企業群が数多く存在する。
●「国土強靱化実施中期計画」の策定が法制化
21年度から25年度までに重点的かつ集中的な取り組みとして掲げられた「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」については、「事業規模が約15兆円で、そのうち4年目の24年度当初予算までに12兆~13兆円に達している」(中堅証券アナリスト)もようである。同対策では風水害や大規模地震などへの対応と、予防保全型のインフラメンテナンスに大別され、24年度の国土強靱化関係予算は4兆330億円(当初予算)で対策前の20年度と比較して5000億円あまり上乗せされている。そうしたなか、昨年6月14日の参院本会議で「国土強靱化基本法」の改正法が可決・成立した。これに伴い「5か年加速化対策」の後継となる「国土強靱化実施中期計画」の策定が法制化されている。「5か年加速化対策」後も安定的に国土強靱化を進めていくことが担保される形となった。
●能登半島地震受け対策のスピードアップに本腰
24年1月には最大震度7が観測された能登半島地震が発生したほか、その後も自然災害が相次いでおり、国土強靱化への取り組みも今後一段と強力かつ迅速に進めていくことが求められる状況にある。風水害や大地震対策においては、豪雨多発に対応して流域治水が重視されている。また、土砂災害では斜面・法面対策工事などへのニーズが高まっている。
一方、予防保全型ではインフラの長寿命化に向けたメンテナンスが課題となっている。インフラの老いを早い段階で見抜き、適切に対処することで長期にわたり安全に活用できる社会基盤を確立する。予防保全に力を入れることは建て替えによる事業費の過度な膨張化を防ぐ意味もあり、政府や東京都が推進する国土強靱化を側面から支える重要なコンセプトとなる。約800兆円規模とされるインフラストックの高齢化に対応し、今後高い確率で発生が想定される首都直下地震や南海トラフ地震など大規模災害への備えを、国を挙げて戦略的に推進していく方向だ。
●大手ゼネコンを筆頭に建設セクターに脚光
株式市場でも国土強靱化のテーマに乗る銘柄は相対的に需給関係がよい。信用取引をフル活用して買い漁るような動きがなく上値が軽いほか、PER、PBR、配当利回りなどの伝統的指標からも割安感が意識される銘柄は少なくない。関連株として具体的には大成建設 <1801> [東証P]、大林組 <1802> [東証P]、清水建設 <1803> [東証P]、鹿島 <1812> [東証P]など大手ゼネコンのほか、五洋建設 <1893> [東証P]、東洋建設 <1890> [東証P]、東亜建設工業 <1885> [東証P]などのマリコン、横河ブリッジホールディングス <5911> [東証P]などの橋梁や日本道路 <1884> [東証P]などの道路株が挙げられる。
更に、セメントをはじめとする建築資材メーカーや建設コンサルティングを手掛ける企業など国土強靱化に携わる企業は多岐にわたる。今回のトップ特集では、こうした銘柄群の中から、業績・投資指標・チャート・株式需給などを織り交ぜて多角的に分析し、上値余地が大きいと思われる6銘柄を選抜した。
●年末年始相場で要注目の国土強靱化6銘柄
◎応用地質 <9755> [東証P]
応用地質は地質調査の最大手で建設コンサルティング業務も手掛ける。防災・インフラ分野を主要テリトリーに被災箇所の調査や復旧、防災計画の立案、社会インフラの点検といった事業を幅広く展開する。能登半島地震では災害復旧に大きく貢献しているほか、同地震発生を契機に地震被害想定調査の需要が高まり、受注獲得が進んでいる。国土強靱化に関するキーカンパニーの一社だが、洋上風力発電でも海底探査などで大型案件が舞い込んでいる。23年12月期の2ケタ増収増益に続き、24年12月期も売上高が前期比11%増の730億円、営業利益も同23%増の35億円と高水準の伸びが見込まれている。売上高は連続で過去最高更新となる。株価は10月1日に戻り高値2797円と3000円目前まで水準を切り上げた後、調整局面に入っていたが、直近にきて5日・25日移動平均線のゴールデンクロスを示現するとともに2400円近辺のもみ合いから上放れる動きをみせている。
◎ショーボンドホールディングス <1414> [東証P]
ショーボンドはコンクリート補修・補強の業界トップで社会基盤構造のメンテナンス専業企業として高い信頼を積み重ねている。橋梁、トンネルなどの道路構造物をはじめ港湾や鉄道、上下水道、建築など多岐にわたる分野で活躍する。NEXCOなど高速道路会社向けで高水準の案件を確保しているほか、国土交通省や地方自治体を有力顧客としている。工事受注高が急増しており、これは今期以降の収益に漸次反映されていくことになる。また良好な財務体質が評価される一方、ROEが14%台と高いことも魅力のひとつだ。25年6月期は営業利益が206億円予想と初の200億円大台に乗せる見通しで、連続ピーク利益更新が見込まれている。株価はソーサーボトム形成から浮上気配を漂わせているが、5000円台前半は拾い場と判断される。信用買い残が少ないことも株式需給の観点からポジティブ。上値は軽く、中期的には1月につけた上場来高値6929円の奪回を視野に置く。
◎アジア航測 <9233> [東証S]
アジア航は測量土木の大手で、航空機による空間情報の測量で強みを発揮し、情報の収集・解析からコンサルティングまで一貫した技術サービスを行う。飛行機のほかドローンを使った3D空間情報サービスも展開。官公庁向け案件で豊富な実績があることも特長で、官公庁関連売上高は全体の7割以上を占めている。デジタルトランスフォーメーション(DX)支援では、生成AIを活用した文書作成ツールの開発により業務効率化への取り組みを進捗させている。売上高は24年9月期まで11期連続で増収を達成、営業利益も19年9月期以降、前期まで6期連続増益で年平均成長率は20%を超える。25年9月期売上高は前期比2%増の411億円、営業利益が同2%増の29億円と小幅ながら増収増益を見込むが、豊富な受注残高を背景に上振れも視野。PER10倍前後で4%前後の高配当利回りも魅力。8月につけた年初来高値1200円奪回からの戻り足加速が見込まれる。
◎ミライト・ワン <1417> [東証P]
ミライトワンはNTTグループ向けを主力とする通信工事大手だが、情報通信インフラの構築以外でも展開強化を図っており、22年にゼネコン大手で西武グループに属していた西武建設をM&Aで傘下に収め土木分野など業務エリアを拡張している。データセンター関連需要の獲得が進むほか、激甚化する自然災害に対する国土強靱化の推進を背景に、道路や上下水道など多分野のインフラを対象とした地域インフラ群再生戦略マネジメントを進捗させている。25年3月期営業利益は前期比51%増の270億円を見込むなど急回復トレンドに突入する。PERやPBRに割安感があるほか、今期年間配当は前期実績に10円上乗せの75円を見込み、配当利回りは3%を超える。株価は12月に入り下値切り上げ波動を明示しており、年初来高値圏で強調展開を示しているが、信用買い残なども気にならず株式需給は良好だ。早晩、21年9月の上場来高値2403円を払拭し青空圏突入へ。
◎ライト工業 <1926> [東証P]
ライトは特殊土木分野で高実績を誇り、斜面・法面保護対策工事や地盤改良工事などで優位性をもつほか、NEXCOなど高速道路関連の需要をターゲットに補修・補強工事でも実力を発揮する。斜面・法面保護では落石や地滑りなどの抑止、地盤改良では橋梁などのインフラ整備に際しての地盤強化で受注獲得が進む。機械化吹付工法などオートメーション化にも取り組んでいる。業績面では24年3月期は増収ながら人件費や業務合理化へのコスト負担で営業減益を余儀なくされたが、25年3月期は大型案件の寄与で前期比22%増の137億円予想と大きく切り返す見通し。22年3月期に記録した営業最高利益を3期ぶりに上回る公算が大きい。14年3月期以降毎期増配を実施していることはポイントで、今期は前期比5円増配となる75円を計画する。株価は10月10日の年初来高値2330円のクリアから、1990年につけた最高値2709円(修正後株価)を目指す。
◎前田工繊 <7821> [東証P]
前田工繊は土木資材の製造販売で業界大手に位置するが、特に河川・道路補強などに使う耐震や耐荷重に優れた高機能繊維などで実績が高い。盛土補強や河川護岸材、斜面防災製品などで高いシェアを獲得しているほか、コンクリート構造物の補強材料などを使った独自工法にも定評がある。業績も拡大一途で24年6月期はトップライン、営業利益ともに連続で過去最高を更新。25年6月期も売上高が前期比8%増の600億円、営業利益は同4%増の112億円と、いずれもピーク更新が続く見通し。なお、第1四半期(7~9月)時点で営業利益は前年同期比34%増と大幅な伸びを確保している。遊具の企画・製造会社を子会社化したことで業容拡大効果も見込まれる。株主還元にも前向きで継続的に増配を実施。今期年間配当は22円(分割修正後で前期実績は21円)を計画する。株価は既に動意含みだが、21年12月の上場来高値更新から2000円台を地相場とする展開が期待できる。
株探ニュース
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