3. unerry<5034>の特徴と強み
同社の強みはビッグデータの量・質、高度なAI分析、事業提携による事業拡大とクロスセル、リカーリングによる安定した収益基盤に大別することができる。
(1) 屋外・屋内の人流がわかるリアル行動ビッグデータ
同社は216万ヶ所にある、約120のアプリ(1.5億IDに相当)が登録された「Beacon Bank(R)」を運営することによって、屋外・屋内双方のデータを蓄積・分析することを可能にしている。月間400億件に上る膨大なログを蓄積し、網羅性のあるデータを保有することにより、詳細な分析を行いターゲットに関する精緻な理解と確度の高い推定を行うことが可能となっている。「Beacon Bank(R)」の最大の特徴は同社が日本・米国・中国で特許を取得した技術※1に基づくものであり、模倣困難性が高いことである。また、「Beacon Bank(R)」にはネットワーク効果※2も働いており、競争優位を持続させる大きな要因になっている。また、人流データを蓄積するなかにあっても、プライバシーに配慮している点も特徴だ。欧州のGDPR(一般データ保護規則)に代表されるようにグローバルレベルでプライバシーへの関心が高まっていることは、同社事業にとって追い風になると言うことができるだろう。
※1 スマートフォンアプリがキャッチできるビーコンの数を限定しないこと。
※2 ビーコンとアプリの登録数がプラスの相互作用を発揮すること。登録しているビーコンが多ければより多くのアプリが登録されるようになり、その逆も然りと言える。
(2) AI×豊富なノウハウによるカスタマーサクセス力
リアル行動データを意味付ける独自開発のAI群と社内でのデジタルマーケティングにおける最適事例の共有の仕組み構築により、顧客のROIと売上高を向上させるカスタマーサクセス力を実現している。蓄積したデータをAIで分析する際には、160以上の場所カテゴリの訪問傾向をプロファイリングする「プロファイリングAI(行動DNA)」、徒歩・自動車・電車などの移動手段や日常・非日常を推定する「移動手段・状況推定AI」を活用する。さらに、ビルインや地下店舗を含む日本全国254万POI(地図上の特定のポイントのこと)の来店・来店計測を行う「POI来訪計測AI(&混雑推定)」、次にどの店舗を訪問する可能性があるかを推定してレコメンドする「リアルレコメンドAI」、来店可能性の高い人を自動的にターゲティングする「来店可能性予測AI」を運用している。夜間の滞在場所を居住地、昼間を勤務地とし、出社率推移なども特定可能な「居住地・勤務地AI」により、データを顧客にとって価値ある情報に変換している。また、社内でデジタルマーケティングに関する最適な事例が共有される仕組みの構築も促進している。小売・メーカーでDXやデジタルマーケティングの経験を持つメンバーを採用することによって顧客が直面する課題を的確に把握し、AI分析により顧客の業績向上に貢献している。そのほか、過去の成功事例を社内で共有し、社員の提案力・問題解決力を高める取り組みも実践している。
(3) 事業提携×クロスセルによる成長サイクル
同社はこれまで業界を代表する企業と業務提携・連携を行うことによって、業績を拡大してきた。2017年6月期に小売・外食向けのデータ支援を目的にコカ・コーラウエスト
また、前述のように「分析・可視化サービス」「行動変容サービス」「One to Oneサービス」からなるサービス群がクロスセルを意識した構成になっている点も特徴であろう。これにより、顧客当たりの単価を上昇させ、同社の業績拡大を実現している。さらに、250店舗のスーパーマーケットを構える顧客の事例においては、「分析・可視化サービス」を月額15万円で利用したところから始まり、最終的には「分析・可視化サービス」「行動変容サービス」「One to Oneサービス」をフルラインナップで利用し、月額1,200万円まで顧客単価が伸びた例もあると言う。
(4) リカーリングを生み出す収益モデル
「分析・可視化サービス」と「One to Oneサービス」は1年契約が基本である。また、「行動変容サービス」に関しても顧客の店舗数増加に伴って収益が拡大するモデルを採用しているため、継続かつ安定的に売上が増加しやすい収益構造となっている。同社のサービスを使用することによって目に見える形で効果が出ることから、顧客が離反する誘因が働きにくい点も安定収益に寄与している。実際、2023年6月期のリカーリング顧客数は78社であり、2022年6月期の49社から大きく増加した。売上高に占めるリカーリング売上高比率は90.0%(2022年6月期86.3%)と高い数値となっている。
なお、同社の業績は季節要因によって変動することに注意が必要だ。主要顧客である小売業の繁忙期が12~3月であるため、売上高が第3四半期(1~3月)に偏重する傾向がある。一方で、事業にかかる費用は通年で発生するため、売上高の相対的に小さい第1四半期と第2四半期は利益の伸びが低下する傾向がある。しかし、年間を通じた利益成長につながるサービスなどの施策に取り組んでおり、第3四半期偏重の傾向は改善に向かっている。
(5) 経験豊富な経営陣
同社代表取締役CEOの内山英俊(うちやまひでとし)氏は米ミシガン大学大学院でコンピューターサイエンスの修士号を取得したスペシャリストである。大学院卒業後もグローバル戦略コンサルティングファームであるプライスウォーターハウスクーパース(以下、PwC)、A.T.カーニーなどで活躍してきた経歴を持っている。そのほかの経営陣に関しても、PwCをはじめとして(株)経営共創基盤、アクセンチュア(株)などで活躍した人財が揃っている。AI・コンピューターサイエンス分野のスペシャリストである内山氏をはじめとした層の厚い経営陣が肩をならべている点も同社の強みの1つである。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
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