同社の競争優位性は、ホルモン製剤領域における圧倒的な経験値と技術蓄積にある。甲状腺領域では国内シェア95%、産婦人科領域では業界首位の売上実績を有し、ブランド浸透度と処方実績は業界内でも群を抜いている。医療用医薬品「レルミナ」や「ドロエチ」などの成長がそれを裏付けており、内因性ホルモンの微量分析技術を活かした検査キットや非侵襲診断ツールへの展開も独自性の高い取り組みといえる。また、アニマルヘルス領域においても、畜産用ホルモン製剤やコンパニオンアニマル向け治療薬など、自社医薬品を起点とした製品展開で高い信頼を確立している。
2025年3月期は売上高64,139百万円(前期比2.1%増)と過去最高を更新した一方で、営業利益は5,331百万円(同18.0%減)と減益で着地した。研究開発費は70億円(同48.7%増)に達し、複数の後期臨床試験が進行したことが利益押し下げの一端となった。主力の医薬品事業では、産婦人科領域の「レルミナ」(105億円、前年比6.3%増)や「ドロエチ」(75億円、同22.5%増)が牽引したが、ジェネリック品に該当する既存製品が薬価改定の影響を受けた。アニマルヘルス事業は飼料添加物や動物用医薬品が堅調、セグメント利益も大きく増加。
2026年3月期の売上高は75,000百万円(前年比16.9%増)、営業利益6,800百万円(同27.5%増)を見込む。収益を牽引するのは、引き続き「レルミナ」や「チラーヂン」、難吸収性抗菌薬「リフキシマ」などの主力製品群であり、加えて、ベトナムのHataphar社の連結効果も織り込まれる。コスト面では、前期に比べ研究開発費が減少(同16億円減)する見込みであり、利益率の改善余地は大きい。中計最終年のミッションとして、産婦人科領域におけるプレゼンスの維持・強化を図るとともに、疾患啓発および情報提供の継続を通じて、先発医薬品を中心とした製品価値の最大化を推進。イオンチャネル創薬を含む自社創薬技術により、パイプラインの拡充と早期ステージアップを図るとともに、シーズの導入を進めることで開発ポートフォリオの一層の強化を目指していく。
市場環境としては、国内医薬品市場は薬価制度の継続的見直しと高齢化の進展による医療費圧縮の流れが続いており、構造的には逆風が強い。ただ、産婦人科領域においては女性活躍政策やライフステージ対応型医療の推進が政策的にも支援されており、同社にとっては追い風での側面もある。婦人科疾患への保険適用の拡大や、診療報酬上の加算項目新設も背景に、今後数年は着実な市場成長が見込まれる。富士経済によると産婦人科市場は2026年には1,000億円規模に拡大する見通しとなっている。
海外においては、ベトナム医薬品市場はCAGR9.4%、フィリピン医薬品市場はCAGR10.2%と、今後も先発・後発医薬品ともに拡大傾向成長が続く予測もある。まずは、ベトナムのHataphar社では、新工場稼働により高品質の医薬品を製造販売することで高収益を目指している。フィリピンではMedChoice社と協業、スペシャリティ領域におけるシナジー創出を狙っている。総じて、東南アジア領域においても高収益体制を確立し、中長期的には東南アジア全域への拡大を目指すようだ。
今期中計の最終年度に当たるため、次期中計の開示が待たれる状況であるが、今期業績見通しは中計の目標予想を上回る想定である。将来的な成長を担保する研究開発面では、重点3領域(内科・産婦人科・泌尿器科)を中心に、自社創製化合物による独自パイプラインを展開。新たな創薬基盤として注力するイオンチャネル創薬では、Veneno社との共同研究による中分子創薬にも取り組んでおり、創薬難易度の高いターゲット領域に挑戦している。また、過去に開発段階だった製品のなかで、6月30日に経口避妊剤「スリンダ錠28」が新発売されたほか、子宮筋腫治療薬「AKP-022」は6月25日に子宮内膜症を対象とした国内第 3 相臨床試験を開始するなど、中期的な成長への布石も着実に進んでいる。
株主還元については、2025年3月期の年間配当金は55円(前期比15円増)となり、配当性向は30.6%。今期2026年3月期も55円配当を継続予定で、連結配当性向30%を目安に安定的な還元姿勢が維持されている。また、政策保有株式についても同社グループの政策保有株式の連結純資産に対する割合は、2銘柄の売却等が寄与し16.7%となった。今後も縮減継続に努めるようだ。成長投資と還元のバランスを保ちつつ、安定的な資本政策が期待されるなか、スペシャリティファーマを基盤とするトータルヘルスケアカンパニーを目指す同社の今後の動向には注目しておきたい。
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