皮脂中の不飽和脂肪酸を選択的に除去する洗浄技術を確立

花王株式会社（社長・長谷部佳宏）スキンケア研究所は、必要な皮脂は残しながら、肌悩みの原因となる皮脂中の不飽和脂肪酸*1 を選択的に除去する新しい洗浄技術を開発しました。
今回の研究成果は、第75回コロイドおよび界面化学討論会（2024年9月17～20日・宮城県）、第2回日本化粧品技術者会学術大会（2024年11月18～20日・兵庫県）、第48回人間-生活環境系シンポジウム（2024年12月7～8日・茨城県）にて発表し、コロイド学会では若手口頭講演賞を受賞、日本化粧品技術者会学術大会では口頭発表部門においてTOP3に選出されました。
*1　遊離脂肪酸の1種であり、二重結合を含む8Z-オクタデセン酸やオレイン酸など
背景
体の肌では、背中上部はべたつきやニキビが気になり、脚や腕は乾燥するといったように、さまざまな悩みが同時に起こっています。皮脂は、過剰になるとべたつきを引き起こしますが、肌を乾燥や外部刺激から守る役割を担います。そのため、一律に皮脂を除去するのではなく、必要な皮脂は残しながら洗える技術が必要と考えました。
皮脂中の不飽和脂肪酸が体の肌悩みを引き起こすことを確認
皮脂に含まれる不飽和脂肪酸は、肌バリア機能に悪影響を及ぼすことが知られています。そこで花王は、20～45歳の日本人女性33名を対象に調査*2 を行い、背中においても、皮脂に占める不飽和脂肪酸の量が多いと肌バリア機能が低下することを確認しました。肌バリア機能が低いと、肌あれやニキビが発生しやすくなるため、不飽和脂肪酸を取り除くことが肌悩みの改善につながると考えられます。
*2　2023年12月に実施
不飽和脂肪酸を選択的に取り除く洗浄技術の開発
皮脂量が多い背中に合わせて不飽和脂肪酸を含む皮脂を取り除くと、その他の皮脂量が少ない部位では、皮脂の不足による乾燥を引き起こす恐れがあります。そこで花王は、肌の保湿などに必要な皮脂は残しつつ、肌バリア機能の低下を引き起こす不飽和脂肪酸を選択的に取り除く、新たな洗浄技術を検討しました。皮脂などの油性の汚れを落とすには、一般的に界面活性剤が用いられるため、不飽和脂肪酸に対する洗浄効果が高い界面活性剤を探索しましたが、そのほとんどは、必要な皮脂までも落としてしまいました。
しかし、スクリーニングを進める中で、花王が開発したサステナブル界面活性剤バイオIOS（オレフィンC16スルホン酸Na）が、求める洗浄性を満たすことがわかりました。詳細に解析したところ、バイオIOSは特殊な化学構造を持っており、不飽和脂肪酸の中に浸透して不飽和脂肪酸を水に流されやすい性質に変化させることが明らかになりました。一方で、不飽和脂肪酸以外の皮脂中の成分には影響を与えないため、トリグリセリドなどの必要な皮脂は肌上に残すことができます（動画）。

https://www.youtube.com/watch?v=azR7cKH02Zs


動画. バイオIOSと接触した際の不飽和脂肪酸とトリグリセリドの変化

タオルなどで擦り洗いをすると、皮脂そのものが物理的な力で落ちてしまうため、バイオIOSの選択洗浄性を活かすには、どのような洗い方をするのかも重要です。さまざまな洗い方の中で、洗浄剤を泡にして手で洗うことが最も適していることがわかりました。さらに、その他の原料との組み合わせを検討し、泡質などを最適化することで、皮脂中の不飽和脂肪酸を選択的に除去する新しい洗浄技術として確立しました。
まとめ
本技術によって、皮脂成分から選択的に不飽和脂肪酸を取り除き、その他の皮脂を取りすぎないという、従来は困難だった皮脂成分の洗い分けが可能になりました。これにより、背中のべたつきやニキビ、脚や腕の乾燥といった体の異なる肌悩みを改善できると考えられます。
気象庁によると猛暑日は20年前と比べて4倍に増加しており*3、肌を取り巻く環境は厳しくなっています。肌にとって悪影響のある要素を適切に取り除くことができる本洗浄技術は、肌を健やかに保つことに貢献できると考えます。
*3　出典：気象庁ホームページ「過去の気象データ検索」より、2000年代と2020年代のデータを比較