● 2019年3月期通期見通し
2019年3月期について三井化学<4183>は、売上高1,540,000百万円(前期比15.9%増)、営業利益106,000百万円(同2.4%増)、経常利益117,000百万円(同6.2%増)、親会社株主に帰属する当期純利益80,000百万円(同11.8%増)と増収増益、及び3期連続の過去最高益更新を予想している。
同社は第2四半期までの進捗を反映し、売上高を従来予想の1兆4,900億円から1兆5,400億円に引き上げた。営業利益と親会社株主に帰属する当期純利益は期初予想を据え置いたが、経常利益については持分法適用会社の収益動向を踏まえて、従来の1,120億円の予想から1,170億円の予想に引き上げた。
今通期の売上高は期初予想の1兆4,800億円から1兆5,400億円に600億円上方修正されている。そのセグメント別内訳は、モビリティで160億円、基盤素材で510億円、それぞれ上方修正された一方、ヘルスケアで30億円、フード&パッケージングで40億円、それぞれ減額されている。モビリティについては自動車向け、ICT向けの強い需要と、原燃料価格上昇を転嫁すべく価格改定が下期に継続することを想定したとみられる。基盤素材については、下期には火災影響がなくなって販売数量が増加することと、原燃料価格上昇による製品価格改定の一段の進展を織り込んだとみられる。ヘルスケアとフード&パッケージングの減額修正は、上期(第2四半期累計期間)の動向を踏まえて個別の商材の販売見通しを修正した結果とみられる。
営業利益の予想は期初見通しから変更はない。前述のように、上期において一部で価格改定の遅れが出て、利益面では交易条件が減益要因となった面もあった。こうした遅れが期を通じて継続する点などを考慮し、売上高の上方修正にも関わらず営業利益については期初予想を据え置いたとみられる。
経常利益については、上期の好調な実績に加えて、下期についても化学品の海外市況が好調を持続すると織り込んで持分法適用会社の業績見通しを修正した結果、期初予想から50億円上方修正された。
親会社株主に帰属する当期純利益が期初予想から据え置かれた理由は特別損失の織り込みによるものとみられる。大阪工場の火災による影響額が下期にも計上される見通しであることが主な内容とみられる。
セグメント別動向は以下のとおり。
モビリティ事業の今下期は、売上高2,058億円(上期比106億円増収)、営業利益224億円(同23億円増益)を予想している。売上高については上期同様販売数量の増加が継続するほか、原料価格上昇を受けた製品価格の改定が進むことを想定している。一方利益については上期同様、販売数量増加により上期比23億円の増益を予想している。この結果通期ベースでは売上高4,010億円、営業利益425億円を予想している。期初予想との比較では、売上高は数量差と価格差の両要因に押し上げられて期初予想を上回るが、利益面では原材料価格上昇を完全には転嫁しきれていないことにより期初予想から引き下げている。
ヘルスケアの今下期は売上高758億円(上期比46億円増)、営業利益67億円(同4億円増)を予想している。上期はビジョンケア、歯科材料が堅調に販売を伸ばしたが今下期も同様の事業環境が持続するとみられる。そうしたなか、高機能不織布について名古屋の新工場と四日市工場の増設分がともに10月に稼働して生産量を順次拡大させてきており、販売数量が上期比増加することが期待される。今通期ベースでは売上高1,470億円、営業利益130億円を予想している。売上高については上期の動向(汎用不織布の販売の計画比ショート)を踏まえて期初予想から30億円減額したが、営業利益については期初予想が維持されている。
フード&パッケージングの今下期は売上高1,094億円(上期比128億円増)、営業利益127億円(同39億円増)を予想している。下期は農薬が需要期に入ることやコーティング・機能材や機能性フィルム・シートの販売増が続くと期待されることから上期比大幅増収を予想している。利益面では数量増に加えて、原材料価格の価格転嫁を進める計画で交易条件の利益影響が上期比好転することを織り込んで上期比39億円の増益を予想している。通期ベースでは売上高2,060億円、営業利益215億円を予想している。売上高、利益ともに上期の未達分を反映させて期初予想から減額修正している。
基盤素材の今下期は売上高4,147億円(上期比684億円増)、営業利益186億円(同2億円増)を予想している。下期は上期の定修、火災影響の減少に伴う販売数量増に加え、下期の原燃料価格の想定が上期実績よりも高く、それに伴って製品価格の想定も高くなっており、これらが売上高の上期比大幅増収の主な要因となっている。利益面では、交易条件による増益効果は上期比減少するとみる一方、定修影響や火災影響といった固定費他の要因が上期比費用減(プラス効果)となることを想定し、下期の営業利益を上期比2億円増と予想している。通期ベースでは売上高7,610億円、営業利益370億円を予想している。売上高は上期の実績に加えて下期の原燃料価格の想定を引上げた影響で、期初予想から大幅に引き上げられた。営業利益については上期実績や下期市況の見通し変更などにより期初予想から40億円の増額修正となっている。
以上の業績見通しは、予想を策定した時点での事業環境に照らせば充分合理性があり、過去実績に照らしても精度の高い予想であったと言える。しかしながらその後、原油価格が大きく下落したことで今後の見通しが変わる可能性が出てきている。
上記の説明で随所に見られる「原燃料価格上昇分の価格転嫁」ということは起こらない可能性が出てきている。その場合、売上高の増収効果のうち、価格効果によるものが予想と比べてはく落することとなる。したがってその分だけ、売上高は予想を下回る可能性がある。
一方、利益面では、交易条件における利益インパクトが問題となる。原材料価格が低下したことで、原材料価格上昇を理由とする製品価格の改定が難しくなったと言える。その結果として上期において取りこぼした分は、そのまま減益要因として残ることになる。一方で、今下期にも継続すると懸念されたコストプッシュによるマージン圧縮は避けられる可能性が高まった。言い方を変えれば、下期については想定した交易条件(の利益効果)が確保される可能性が高まったと弊社ではみており、結果的に、今通期は現在の利益予想の線で着地すると考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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