―従業員のやる気をアップさせ生産性を向上させるエンゲージメントなどに注目―
新型コロナウイルスの新たな変異株であるオミクロン株の感染拡大で、世界各国は再び警戒感を強めつつある。ただ、現時点でオミクロン株の影響は不透明なものの、ウィズコロナに舵を切った流れは継続するとの見方が強い。
コロナ禍では、在宅勤務やリモートワークが求められるなか、オンライン会議やチャットの活用などが広く普及した。これに伴い、企業側の人事に対する考え方も変化しつつあり、人事分野にITを取り入れたHRテックを導入する企業の裾野が広がりつつある。こうした流れは社会のデジタル化の進展で今後も拡大すると見込まれており、HRテック関連企業のビジネスチャンスは増えそうだ。
●市場規模は25年に2.4倍へ
そもそもHRテックとは、「ヒューマン・リソース」(人的資源)と「テクノロジー」を組み合わせた造語。定義はないものの、クラウドや人工知能(AI)、 ビッグデータ解析などを活用し、採用活動や人材の育成、配置、評価、給与計算など人事領域の効率化に寄与するソリューションを主に示している。
調査会社のシード・プランニング(東京都文京区)によると、2020年の市場規模は、求人需要が低調に推移したことで採用領域のサービス需要が停滞したものの、前年比15%増の1381億円に拡大した。21年は、前年からの反動需要や中長期的な人事・労務管理業務領域のデジタルトランスフォーメーション(DX)化に向けた需要拡大により、前年比24%増の1716億円に拡大すると予想。更に25年には20年比約2.4倍の3278億円に成長すると予測している。
●HRテックの注目分野
HRテック関連のサービスは多岐にわたるが、日本では求人や採用分野で導入が進んでいるのに対して、配置や人材開発、離職対策などの分野では導入が遅れているといわれている。これらの課題を解消するためには人事データの一元管理・可視化・分析や従業員のコミュニケーションの円滑化による満足度の向上などが必要とされ、HRテックの活躍の余地は大きい。
特にコロナ禍では、個人の働き方が多様化するなか、社員の会社に対する愛着心ややる気を数値化し、それを改善することで離職防止や適切な人材配置、生産性向上につなげる「エンゲージメント」などが注目されている。また、定型業務の削減やオペレーションの効率化なども、これまでの大企業から中堅・中小企業市場で導入が広がりつつある。関連する企業のビジネスチャンスは更に拡大が期待できよう。
●PAコンサル、ビジョナルなどに注目
スタメン <4019> [東証M]は、SaaSモデルの「社内制度運用クラウド」と「組織コンサルティング」をワンストップで提供するエンゲージメント経営プラットフォーム「TUNAG(ツナグ)」が主力。「TUNAG」の利用企業数は21年12月期第3四半期時点で394社(前年同期比27.1%増)と順調に増加しており、直近10月では403社と400社を突破し、ストック収益の積み上げに貢献している。21年12月期は単独営業利益2300万円(前期比10.5%増)を見込むが、会社側では「第3四半期は計画を上回る進捗で進んでいる」としており、上振れが期待される。
プラスアルファ・コンサルティング <4071> [東証M]は、ビッグデータを可視化しマーケティング領域などに活用する「見える化エンジン」などを手掛けているが、HRテック事業として社員のスキル、適性、評価、アンケート、採用などの人事情報を見える化し、社員活用に用いる「Talent Palette(タレントパレット)」事業を展開。21年9月期の同事業は顧客数が700件(前の期比62.8%増)に増加し業績を牽引。22年9月期は顧客数が950~970件へ拡大する見通しで、同事業を牽引役に単独営業利益25億円(前期比18.7%増)を見込む。
ビジョナル <4194> [東証M]は、即戦力として働きたい人の会員制転職サービス「ビズリーチ」のほか、採用から入社後の活動までの情報を一元化・可視化することで人材活用を支援する「HRMOS(ハーモス)」などをHRテック事業として展開している。足もとでは、主力のビズリーチ事業がコロナ禍からの回復基調にあることに加え、「HRMOS」を利用する企業数が21年7月期時点で941社(前の期比18.1%増)と順調に増加し、更なる拡大が見込まれている。これらHRテック事業が牽引役となり、22年7月期は連結営業利益26億7000万円(前期比12.7%増)を見込む。
カオナビ <4435> [東証M]は、人材情報をクラウド上で一元管理し、データ活用のプラットフォームとなるタレントマネジメントシステム「カオナビ」を展開しており、利用企業数は22年3月期第2四半期時点で2214社(前年同期比15.9%増)に上る。「カオナビ」に対する導入ニーズは強く、今後も利用企業数の増加が見込まれる一方、マーケティング投資などを積極化させることから、22年3月期通期単独営業利益は1億円(前期1100万円の赤字)を見込む。
アトラエ <6194> は、成功報酬型求人メディア「Green」を主力としているが、同僚や上司との関係や健康状態などに関する5から20程度の質問で、部署やチーム単位で社員のエンゲージメントを可視化する「Wevox(ウィボックス)」サービスも順調に拡大中。「Wevox」の導入社数は21年9月期時点で2140社(前期比26.6%増)と順調に増加しており、「Green」事業と並んで業績を牽引した。22年9月期もこの基調は継続する見通しだが、スポーツビジネスへの投資が膨らむため、連結営業利益5億円(会計基準変更のため前期との比較なし、前期10億1000万円)を見込んでいる。
このほかにも、社員が複数の設問に回答するだけで組織の状態を可視化・数値化する「モチベーションクラウド」による診断とコンサルティングにより従業員エンゲージメントの向上を図るリンクアンドモチベーション <2170> 、社内報、チームマネジメント、福利厚生の3つのプロダクトでエンゲージメント事業を展開するウォンテッドリー <3991> [東証M]、従業員エンゲージメントに影響するデータをモニタリングする「TeamSpirit(チームスピリット)」を展開するチームスピリット <4397> [東証M]、従業員同士が「貢献に対する称賛のメッセージ」と「少額のインセンティブ」を送り合う「Peer Bonus(ピアボーナス)」を展開するUnipos <6550> [東証M]などにも注目したい。
株探ニュース
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