―農水省は新制度導入へ、食料安全保障の強化へ先端技術活用の設備投資活発化の予感―
NHKは4日、「食料安全保障の強化が課題となるなか、農林水産省は生産者だけでなく、食料を消費者に届けるまでのサプライチェーン全体を下支えする必要があるとして、加工業者や卸売業者なども支援する新たな制度を導入する方針」だと伝えた。背景には国際紛争や異常気象などにより食料価格が高騰するリスクや供給が途絶える懸念が高まっていることがある。報道によると、事業者の生産や流通の過程で生じる環境に対する負荷を軽減する取り組みやロボットなどの先端技術を活用した設備投資、企業買収や新たなビジネスへの参入を通じた規模拡大などを国が認定し、支援することが想定されているようで、関連銘柄への関心が高まりそうだ。
●上昇基調強める世界食料価格
国連食糧農業機関(FAO)が6日発表した11月の世界食料価格指数は、前月比0.5%上昇の127.5と2023年4月以来の水準となった。主因は食用油価格の高騰で、東南アジアにおける豪雨により世界的な減産が見込まれるなか、前月比7.5%上昇と22年7月以来の高値を記録。また、乳製品価格も西ヨーロッパでの需要を受けて上昇しており、前月比で0.6%、前年比では20.1%と高い水準となった。穀物価格は前月比で2.7%下げたが、FAOの別の穀物報告書では、世界の穀物利用は消費量の増加により24~25年シーズンは前シーズンに比べて0.6%増の28億5900万トンに達する見込みだとしている。
国連の推計で世界の人口は、24年の82億人から80年代半ばには103億人に増加し、ピークに達する見通し。農水省では世界の食料需要は50年に約58億トン(10年に比べ1.7倍)になると予想しており、なかでも畜産物(同1.8倍)と穀物(同1.7倍)の増加率が大きくなるとみている。食料の多くを輸入に頼っている日本にとって、生産性向上と持続性を両立させる食料システムの構築は大きな課題だ。大規模自然災害や地球温暖化、生産者の減少など生産基盤の脆弱化、健康志向・アレルギー対応などの多様な食需要を見据えた取り組みを推進していく必要があり、ビジネス機会が広がっている。
●求められる生産性向上と持続性
生産性を向上させるためには品種改良や農業の効率化が欠かせず、 種苗を販売するカネコ種苗 <1376> [東証S]やサカタのタネ <1377> [東証P]、各種農薬を扱うOATアグリオ <4979> [東証S]や北興化学工業 <4992> [東証S]、農家向け防除機大手の丸山製作所 <6316> [東証S]や農業用管理機械を手掛けるやまびこ <6250> [東証P]などに注目。
また、人工知能(AI)やドローンなどを活用した稼げる農業実現プロジェクト「SMART AGRI FOOD」を推進するオプティム <3694> [東証P]、技能の可視化・継承などを支援する農業ICTソリューション「OGAL(オーガル)」を展開するキーウェアソリューションズ <3799> [東証S]、農業ロボット開発の子会社を持つアルプス技研 <4641> [東証P]、高精度かつ安定した位置情報で農作業の自動化・無人化により業務効率を向上させるICT農機の運用を支援するジェノバ <5570> [東証G]といったスマート農業関連株も見逃せない。
●流通面では農業総研などに商機
流通面では、全国の拠点で集荷した農産物を都市部のスーパーマーケット内に設置したインショップ(農家の直売所)で販売する独自のプラットフォームを提供する農業総合研究所 <3541> [東証G]に商機がありそうだ。9月には日本電信電話 <9432> [東証P]グループのNTTアグリテクノロジーと資本・業務提携。大規模施設園芸事業と産直卸事業という両社の強みを掛け合わせることで、生産者と消費者をつなぎ、食の安定供給や安全性の高い国産野菜の流通・拡大を目指し、農産物を通じた新たな価値の創造を進める構えだ。
セラク <6199> [東証S]は10月、東京富士青果(東京都中央卸売市場板橋市場 青果卸売事業者)、大治(東京都中央卸売市場大田市場 青果仲卸事業者)などと立ち上げた「板橋市場活用型有機農産物物流実証実験プロジェクト」として、物流効率化による配送コスト低減を目的に、オンライントレードプラットフォームと市場便の活用による有機農産物の新たな流通方式の確立に向けた実証に取り組むことを発表。これにより、物流問題の緩和や有機農産物需要の拡大といった効果が期待されるという。
イーサポートリンク <2493> [東証S]は、生鮮流通サプライチェーン全体の「見える化」を実現するシステムを展開。同社はサプライチェーンを構成する異なる企業や部門間の流通情報をオンライン上で一元管理することにより、次世代の生鮮流通サプライチェーン実現をサポートしている。
●目を向けたい食品ロス削減関連
食品ロス削減の観点からは、eBASE <3835> [東証P]が11月に店舗単位で販売したい特定商品を、特定顧客に割引販売する販促システムの特許を取得したことを明らかにしている。これは販促対象商品に付与された値引き、ポイント付与、景品付与などの特典情報を当該ユーザーに提供するシステムで、提供する特典情報はユーザーごとに変更することが可能だという。
クラダシ <5884> [東証G]とイー・ロジット <9327> [東証S]は11月、食品ロス削減を目指して業務提携したと発表。イーロジットに物流を委託している企業に対して食品ロスや廃棄量を減らしていく取り組みを推進するほか、クラダシのクライアントには出荷業務代行サービスを提供することで在庫適正化につなげたい考えだ。
需要予測・自動発注サービスなどを展開するシノプス <4428> [東証G]は10月、製造工程における食品の原材料や包装資材の発注、在庫のムダにフォーカスした食品製造業向け需要予測型自動発注サービス「sinops-CLOUD M(シノプス クラウド エム)」の提供を開始したと発表。一連の業務を効率化することで、食品ロス削減や人手不足の解消が期待できる。
●日本電技、オイシックスなどにも注目
これ以外では、食品製造業向けシステムを手掛ける日本電技 <1723> [東証S]、食品・飲料メーカー向けの独自ソリューションを展開するブレインパッド <3655> [東証P]、製品を吸着しながら搬送するコンベヤを販売する大同工業 <6373> [東証S]、食品の検品作業などに使用できる外観検査AIを取り扱うTDSE <7046> [東証G]なども要マーク。
オイシックス・ラ・大地 <3182> [東証P]は11月、新潟を食関連スタートアップの集積地とする「新潟フードテックタウン構想(仮称)」を発表。25年以降にコンソーシアムやベンチャーキャピタルを設立し、食領域のスタートアップが次々に創出する環境の実現を目指すとしている。
株探ニュース
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