1. 2023年5月期の業績
2023年5月期の日本経済は、緩やかに回復している。個人消費は、外食、旅行などのサービス消費が個人消費全体の回復をけん引し、行動制限の緩和によりコロナ禍前以来となる各種催事の復活が相次ぎ、人出が回復している。消費者マインドを示す消費者態度指数(2023年5月)も、3ヶ月連続で前月水準を上回る推移となった。設備投資についても、「法人企業統計季報」(含むソフトウェア)では1~3月期が前期比2.3%増加し、4四半期連続の増加となった。輸出についても、アジア、米国及びEU向けの輸出はおおむね横ばいとなっており、その他の地域向けの輸出は持ち直しの動きが見られる。
同社が属する不動産業界においては、底堅い動きとなっている。先行指標となる新設住宅着工戸数は、2023年4月が季節調整済年率換算値で771,000戸となり、前月比12.1%減であったが、同3月は前月比2.0%増で前月を上回る水準が続いている。また、首都圏マンションの初月契約率については、2023年5月が74.3%となり、好不況の分かれ目とされる70%を4ヶ月連続で上回っている。
このような状況のなか、同社は、賃貸開発事業及びバリューアップ事業における新規物件の取得や保有物件の売却及び分譲開発事業における個別分譲販売を進めてきた。この結果、2023年5月期の売上高は20,015百万円(前期比13.1%増)、営業利益2,557百万円(同20.2%増)、経常利益2,098百万円(同24.1%増)、当期純利益1,562百万円(同37.6%増)と大幅な増収増益となった。収益性を表す各段階の利益率は、軒並み改善している。事業環境に応じて3事業のバランスを柔軟に変える、同社の事業戦略の成果が表れた好決算と評価できる。
2022年7月11日付で公表した期初の業績予想に対しては、売上高は5.3%下回ったが、営業利益は15.4%、経常利益は20.5%、当期純利益は19.3%、それぞれ予想を上回る好調な決算であった。また、同社の売上高は顧客への引渡しをもって計上されるため、物件の引渡し時期に応じて四半期ごとの業績に偏重が生じる傾向がある。2023年5月期第2四半期では大幅な増収増益決算となったが、元々2023年5月期は上期偏重型の計画であり、業績は同社の計画どおりに推移していたことから、期初の通期業績予想を維持していた。
セグメント別では、分譲開発事業は、2023年5月期は販売物件がなく、売上高は計上なし(前期は427百万円)となった。一方、売却済の物件に係る追加工事費用が発生したことから、営業損失3百万円(同17百万円の利益)を計上した。同事業では、首都圏市場全体で地価や建築費が上昇して販売価格が高くなりすぎたことで、土地の取得が難しくなったことや、高い水準での収益確保が難しくなったことから、同社全体に占める売上高・営業利益のウェイトは低下傾向にある。ただ、2024年5月期には、ガレリア ドゥエル神田岩本町の竣工に伴い、再び収益貢献する見通しだ。
賃貸開発事業では、富士見プロジェクト、浅草橋6プロジェクト等、前期と同じく15プロジェクトを売却した。その結果、売上高は13,202百万円(前期比14.5%増)、営業利益は2,903百万円(同17.9%増)となった。売却物件が大型化したことで増収となり、売却物件のエリアが都心部中心という地域優位性や商品企画が評価されたことから増益となった。利益率は22.0%(同0.7pt上昇)と高く、引き続き同社の業績をけん引する原動力となった。個人の相続税対策として、都心の優良物件に対するニーズが強いことを示すものである。
バリューアップ事業では、西新宿2プロジェクト、広尾2プロジェクト及び内神田4プロジェクト等の15棟(同4棟増)を売却した結果、売上高は6,813百万円(同19.1%増)となった。立地条件が良く収益性の高いエリアでの物件売却が進んだ結果、営業利益は950百万円(同35.8%増)で、利益率は13.9%(同1.7pt上昇)となり、同社の好決算の一翼を担った。
2. 財務状態及びキャッシュ・フローの状況
2023年5月期の資産合計は、前期末比2,236百万円増の30,950百万円となった。これは主に、保有物件の売却を積極的に進めた一方で、今後の業績の原資となる仕入れを推進したことから、販売用不動産と仕掛販売用不動産が合わせて1,126百万円増加したことによる。また、物件売却を推進したことにより、現金及び預金が725百万円増加した。
負債合計については、前期末比762百万円増の22,183百万円となった。これは主に、新規物件の取得に伴い有利子負債合計が650百万円増加したことによる。また、純資産合計については、前期末比1,473百万円増の8,766百万円となった。当期純利益の計上により利益剰余金が1,493百万円増加したことによる。
利益の積み上げと、2020年11月に実施したシノケングループ向けの第三者割当増資の結果、自己資本比率は28.0%と、2013年5月期末の9.5%から大幅に上昇し、同社が中期的な目標とする30%台達成に近づいた。同社では、今後も自己資本30%台を確固たるものにし、厳しい経営環境下でも生き残れる会社となることを目指している。また、同期間に、D/Eレシオ(負債資本倍率)は8.28倍から2.38倍に低下し、流動比率も161.3%から209.4%に上昇しており、短期的な資金繰りに困らない十分な支払い能力を確保している。このように、不測の事態への備えは十分に整ったと評価できるだろう。
こうした強固な財務内容は、不動産の仕入など事業面でも有利に働くと考えられる。筆頭株主のシノケングループとの関係強化によって、シノケングループが運用する私募REITへ賃貸不動産を供給するなど新たな協業もスタートし、今後も同社にとって有力な売却先として期待される。このように、グループ会社間でのシナジーを発揮することで収益力も一層強化されると考えられる。
現金及び現金同等物の2023年5月期末残高は、前期末より797百万円増加し、5,229百万円となった。各キャッシュ・フローの状況について見ると、営業活動により獲得した資金は174百万円となった。これは、主に税引前当期純利益を2,100百万円獲得したものの、棚卸資産が1,125百万円増加し、法人税等の支払いが547百万円、利息の支払いが402百万円発生したことによる。投資活動により獲得した資金は63百万円となった。これは、主に定期預金の預入により45百万円の支出が発生した一方で、定期預金の払戻により118百万円を獲得したことによる。財務活動により獲得した資金は553百万円となった。これは、主に物件の売却に伴い長短借入金を返済したことで14,959百万円の支出が発生した一方で、物件の取得に伴い15,612百万円の長短借入金を獲得したことによるものである。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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