2. 保険薬局事業の成長戦略と進捗状況
保険薬局事業では、「戦略的出店による規模の拡大」と「薬局の価値創出」を基本戦略として成長を目指していく。
(1) 戦略的出店による規模の拡大
店舗数については自力出店とM&Aにより年間50~70店舗のペースで出店し、2023年3月期に1,000店舗に拡大することを目標としていたが、2021年3月期がやや伸び悩んだこともあって、1,000店舗の達成は一年後ずれする可能性もある。出店ターゲットとするエリアは、3大都市圏等人口の多いエリアが中心で、ドミナント出店により効率的な店舗数拡大を目指している。M&Aについても同様で、主要都市部において地域連携が取れやすいところを対象に進めていく。また、薬科大学が近隣にある地域についても薬剤師の採用が進みやすいことから対象としている。
店舗形態としては、同社が強みとするマンツーマン薬局での出店を継続し、M&Aの対象についても同様となる。異業種連携による新業態薬局の店舗数については、2021年3月末時点で43店舗となっている。内訳は、ローソン協業店が38店舗、ビックカメラ内店舗が5店舗である。このうち、主力のローソン協業店については認知度の向上によって、収益力も向上しており、今後も顧客の利便性を高めるサービスを提供する店舗形態として注力していくことにしている。
具体的には、訪問服薬指導と合わせて一般医薬品やその他の商品を顧客の注文に応じて配送する移動販売サービスを試験的に開始する。同社が重点施策として掲げている在宅調剤の需要を取り込むことにもつながり、他社にない強みとなる可能性がある。同社は今後も、安全性と利便性を兼ね備えた店舗としての展開を進め、地域社会の生活インフラとしての機能を果たしていく考えだ。
調剤薬局業界では、2021年8月より導入される機能別認定制度や、2020年から解禁されたオンライン服薬指導、2022年夏の運用開始が予定されている電子処方箋システム等、ITサービスに対応することが必要となってくるため、今後はこうした市場環境の変化に対応できるだけの投資余力を持つ大手企業への集約化が加速していくものと見られている。現在、調剤薬局は全国に約5.9万店舗あり、市場規模としては約7.4兆円となるが、このうち、調剤売上高上位10社の合計は1.4兆円程度で、市場シェアにすると約19%の水準にとどまっている。ドラッグストア業界が業界再編により現在は上位10社で70%以上のシェアを占めていることを考えれば、調剤薬局業界についても今後、業界大手による寡占化が進む可能性は高い。同社も自力出店と合わせてM&Aを積極的に推進することで出店を拡大していく好機となる。なお、M&Aについては売上規模やシナジー効果の有無等社内で厳格な基準を定めて可否を判断するようにしている。
(2) 薬局の価値創出
同社では「薬局の価値創出」に向けた取り組みとして、「地域連携薬局」となるマンツーマン薬局では、薬剤師のコミュニケーション能力向上や質の高い薬局づくり、在宅調剤の推進やITの活用による業務効率向上とサービス品質の向上(=対物業務から対人業務への構造転換)に取り組むことでロイヤル顧客の獲得を進め、収益力を高めていく戦略となっている。
特に、在宅調剤については超高齢化社会に向けて在宅医療の市場拡大が一段と進むことが見込まれており、重点施策として強化していく方針となっている。厚生労働省の資料によれば、現在の在宅調剤の市場規模は約3,100億円規模、利用者数で29万人と推計されている。調剤市場全体に占める比率は4%強だが、団塊の世代が75歳を迎える2025年以降はさらなる市場拡大が見込まれている。在宅調剤の9割弱は特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホーム等の施設となっており、こうした施設向けを中心に顧客を開拓し、在宅調剤の売上高を3年後に3倍に引き上げていくことを目標としている。
在宅調剤における差別化戦略として、最新の調剤機器の導入・活用、誤薬防止対策としてのバーコード管理の導入、感染対策支援、在宅調剤特化型店舗、栄養管理士による栄養サポート、スマートフォンアプリ「クオールグループ処方せん送信&お薬手帳」を活用した安全性・利便性の高いサポート等の取り組みを推進しており、前述した移動販売サービスの試験運用もその一つとなる。
一方、「専門医療機関連携薬局」では、高度な薬学管理への対応が必要となることから、社内教育の充実により高度なスキルを持つ人材の育成に取り組み、医療機関と連携して対応できる薬局づくりを目指していく。
なお、同社は「在宅調剤」と並ぶ重点施策として「DXの推進」を掲げている。ITの活用による業務効率化と生産性向上(薬剤適正在庫、人員最適配置等)だけでなく、顧客のQOL向上に寄与する新規サービスの創出により、競争優位性をさらに高めていく戦略だ。同社はオンライン服薬指導に関して、2020年9月に全店で対応できるようにする等、業界の中でもデジタル技術を積極的に導入し業務改革を推進してきた。2020年10月にはデジタルAI推進室を新設し、業務のDX推進を加速していく方針であることを発表している。「利便性の高い医療サービスの提供」「患者サービスの向上」「従業員満足度の向上」についてこれまで以上の水準を目指しいく。
また、政府が2022年夏頃の運用開始を目指している電子処方箋システムについても、今後策定されるガイドラインに沿って対応を進めていく予定にしている。電子処方箋システムが普及すれば、紙の受渡しが不要となるほか、薬の重複投与の防止にもつながり、業務効率の向上や医薬品ロスの削減効果が期待される。同社は300万人以上のクオールカード会員数を保有しており、これら会員基盤のビッグデータを活用した新規サービスの創出にも取り組んでいく。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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