b) 顧客ニーズに合わせた最適な物流サービス
冷蔵倉庫事業においては、顧客のニーズに合わせた最適な物流アウトソーシングサービス、最新の物流情報を迅速に提供するICTサービスも手掛けている。物流アウトソーシングサービスでは、通関から保管・配送までのプロセスにおいて、多様なサービスの提供を行っている。これら多様なサービスを顧客のニーズに合わせて組み合わせることによって、業務効率の改善と物流コストの削減に貢献している。加えて、高度なサービスとシステムの融合、経験豊富なスタッフにより、ジャスト・イン・タイムの物流を実現している。
通関サービスにおいては、世界各地からの食材の輸入や日本各地からの輸出を全国5拠点(東京通関部、横浜通関部、大阪通関部、神戸通関部、九州通関部)の重要拠点に設けた通関事業部門(税関から認定を受けた「AEO通関業者」)が迅速にサポートしており、税関申告、厚生労働省申請、動物検疫、植物検疫等に対応している。保管業務に関しては、同社が保有する国内の冷蔵倉庫での保管サービスを提供している。配送サービスに関しては、同社の提携先ネットワークを生かした配送網を構築し、顧客の輸送をサポートしている。
ICTサービスでは、顧客のニーズに対応した各種ICTサービスを提供している。同社ICTサービスの特徴は、メインシステムを自社開発していることだ。これにより、顧客の幅広いニーズに柔軟に対応することを可能にしている。加えて、システムの堅牢性確保にも注力している。BCP(事業継続計画)の観点からホストコンピューターのデータセンター化を行うとともにデータバックアップ機能を充実させている。ICTサービスではYIS(YOKOREI Information System:ワイズ)サービスとEDI(Electronic Data Interchange)サービスを提供している。YISを利用することによって、顧客はインターネット経由で入出庫実績、通関状況、在庫情報をリアルタイムで確認できる。重量情報が直接基幹データベースにリアルタイムでアップデートされるため、不定貫貨物を取り扱っている顧客もタイムリーに重量把握を行うことが可能になる。加えて、顧客の利便性をさらに高めるためにメールによる不足分の自動通知、入出庫のオンライン予約など、順次サービスの拡充に努めている。EDIサービスでは、顧客のニーズに合わせて、30数社とEDIで取り引きを行っている。EDIで送受信しているデータの種類は、入・出庫依頼データ、入・出庫実績データ、在庫報告データ、請求データなどである。また、顧客の希望に応じて、指定フォーマットの帳票や専用用紙の帳票を発行する業務も行っている。現在稼働しているEDI手順は、全銀TCP/IP、JX、ebxML、FTP、SFTPの5種類である。同社では自社開発である強みを生かし、EDIサービスによって顧客の業務効率化を支援している。
c) 社会的ニーズに対応した冷蔵倉庫
同社は地球温暖化やエネルギー問題など持続可能な社会に対する関心が高まるなかで、早くから自然環境にやさしい物流システムの構築に注力してきた。具体的には、オゾン層破壊の原因となるフロン冷媒の段階的廃止と自然冷媒の導入、太陽光発電パネルの冷蔵倉庫への設置などを挙げることができる。加えて、IT技術による入出庫の効率化、ペーパーレス化、トラック予約受付システムによる待機時間の削減などによっても環境負荷の軽減に取り組んでいる。これらの取り組みを着実に進めることによって、自然冷媒導入率は69.0%、太陽光発電量は8,005MWhとなっている(2023年9月期末時点)。また、2015年と比べて収容能力当たりの温室効果ガス排出量は33.0%削減(暫定)することに成功している(2023年9月期末時点)。今後は、「ヨコレイサステナビリティビジョン2030」の下、さらなる環境負荷の軽減に取り組む方針である。
同社は、「複合型マルチ物流サービス」の提供にも注力している。これは、冷凍食品消費の増加、ドライバー不足、環境問題などの外部環境の変化に率先して対応したものだ。複合型マルチ物流サービスとは、商品の保管・配送・仕分け・積み替えの複数機能を1つの物流センターに集約したものである。従来、別々の物流拠点で行われていたオペレーションを1つの物流センターに集約することによって、配送時の温室効果ガス排出抑制やトラックドライバー不足といった課題に対応している。今後は顧客のニーズや冷蔵倉庫の立地特性などを踏まえて、複合型マルチ物流サービス対応可能な倉庫を拡充する計画である。持続可能な社会の実現に貢献するために、事業活動を通じて排出する温室効果ガス抑制に対する関心が今後も高まることが想定される。加えて、2024年にはトラックドライバーの長時間労働規制が強化されることが予定されており、効率的な配送方法の確立が目下の課題となっている。これらの外部環境から同社の「複合型マルチ物流サービス」に対するニーズが高まると弊社は見ている。
(2) 食品販売事業
同社事業のもう1つの柱となるのが食品販売事業だ。食品の産地・消費地に営業所を構え、国内・海外の多様な産地から直接高品質な食品を調達している。そして、これらの食品を商社、仲卸業者、食品メーカー、外食産業、流通チェーンなどの各事業者に販売しているほか、海外への輸出も積極的に行っている。経験豊富な営業担当者が世界の生産地・生産者を選定し、仕入・販売まで一貫して手掛けるビジネススタイルを確立している。同社の消費地型営業所は国内の主要都市に設置しており、量販、外食チェーンや仲卸業者のニーズに応え、加工製品や製品原料をタイムリーに提供している。産地型営業所は国内外の漁港や農産地など水産物や農産物の産地に展開している。原料サプライヤーとして現地の担当者が自らの目で高品質な水産・畜産・農産品を見極め、調達を行っている。また産地に営業所を置くことによって、供給量などを適宜把握することができる。これにより、ある産地の供給力が少なくなりそうであればほかの産地から融通するなど柔軟な対応を行うことができ、環境変化に強い供給体制の構築にもつながっている。これら国内並びに世界各国に張り巡らされた調達ネットワークを生かして、サーモン、サバ、アジ、イカ、トビコ、エビ、ポーク、チキンなど多岐にわたる食材を調達している。
同社は、海外展開にも注力してきた。1989年にTHAI YOKOREI CO.,LTD.を設立し、バンコクの営業所を東南アジア地域のハブとして稼働させたことを皮切りに、2009年には海外に広域ネットワークを持つ水産物専門商社からの営業譲渡(のちに(株)アライアンスシーフーズとして子会社化)、2020年には同社グループの(株)クローバートレーディングとアライアンスシーフーズの完全合併、2023年にはVIETNAM YOKOREI CO.,LTD.(現 連結子会社)の設立と海外強化のための基盤づくりを確実に進めてきた。さらに近年は、主要調達先である東南アジアや北欧をはじめ、ロシア、北米、南米、オーストラリアにもネットワークを拡大しているほか、国際的に評価の高い日本の水産物の海外輸出にも注力している。実際、海外展開強化の効果は業績に結実しており、2023年9月期においても海外売上高比率は着実に高まった。
また、パートナー企業であるHofseth International AS(ホフセス)の養殖場において、ITを活用した徹底した生育環境の管理、厳選された飼料などによって、健康的で質の良い脂の乗ったサーモントラウトを育てている。特に同サーモンに対する顧客からの評価は高く、2023年9月期においても取り扱いが拡大した。
さらに食品を扱ううえで重要となる食品の安全・安心を確保している。各営業担当者が原料の調達から同社拠点での輸入、輸出、保管、仕分け、凍結、販売までを一元管理しており、これにより、各プロセスにおける食品のトレーサビリティ(複数段階における食品の移動を把握すること)を確保し、高品質の維持と外部からの異物の混入を防ぐシステムを構築している。
現在は、2024年9月期を初年度とする新・中期経営計画第II期「繋ぐ力」の下で、収益性の向上や同社の強みを生かせる事業品(ノルウェーサーモンなど)・全社取組商材(北海道産ホタテなど)の販売拡大、独自商品の開発などの重点施策に注力している。これにより、売上の拡大と収益性の向上を実現する計画だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
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