シュクレイの代表的なブランドは「東京ミルクチーズ工場」、「ザ・メープルマニア」、「バターバトラー」、「コートクール」、「築地ちとせ」で、主に駅や空港内、駅隣接のルミネなどの商業施設へ出店。ケイシイケイでは「小樽洋菓子舗ルタオ(北海道)」「GLACIEL(グラッシェル)」を展開するなど、各ブランドの店舗は観光客や訪日外国人に向けた旅先の非日常的な買い物体験を演出している。事業モデルの特徴は、商品を単体で売るのではなく、店舗体験や接客、パッケージデザインなども含めた「ブランド」として訴求している点が特徴だ。そのほか、小麦粉や砂糖、包装資材などの原材料価格は上昇傾向にあるものの、同社は価格転嫁によって利益率を守る体制を構築。特に「価値に見合った価格設定」を経営方針の根幹に据えており、商品力と接客力の両面で価格以上の価値を提供することに注力している。なお、原材料価格の高止まりや円安の進行により製造コストは引き続き上昇基調にあるが、それを吸収可能な利益体質へと転換している点も大きな特徴である。ブランドごとの高付加価値戦略が功を奏し、数量を維持しつつ単価を引き上げることに成功している。
寿スピリッツが展開するインバウンド向けの土産菓子市場には、強力な競合が存在する。具体的には、「白い恋人」(石屋製菓)、「東京ばな奈」(グレープストーン)、「ロイズ」(ロイズコンフェクト)などが挙げられる。これらはいずれも地域代表銘菓として確固たるブランド地位を確立しており、大型空港やターミナル駅など、極めて高い集客力を持つ好立地に店舗を構えている点が特徴である。こうした競合と比較して、寿スピリッツの最大の強みは、「複数地域にまたがる分散型ブランド戦略」が挙げられる。特定エリアに依存せず、地域の魅力を活かした複数のブランドポートフォリオを構築している。また、成田・関空・羽田・新千歳といった主要国際線空港でも、「ルタオ」などのブランドで一定のシェアを獲得。現場対応では、インバウンドの取り込みを目標とした外国語対応やリピーター獲得に向けた接客強化などの「現場の工夫」を推奨している。こうした地道な接客力の積み重ねが顧客獲得に寄与し、短期的なインバウンド獲得から中長期的な顧客ロイヤルティの向上も広くカバーしている。
2025年3月期の売上高は72,349百万円(前期比13.0%増)、営業利益は17,610百万円(同11.6%増)と売上高及び各段階利益ともに3期連続で過去最高を更新した。インバウンド売上が100億円(同40.6%増)と大きく伸長。なかでもアジア圏からの訪日客による購買意欲が顕著に表れた。また、主力ブランドである「ルタオ」を展開するケイシイシイの成長がグループ売上をけん引する結果となった。具体的には、人件費の増加及び原材料価格の高騰に加えて、新工場設置及び製造ラインの移設・改修に伴う初期段階の生産効率の低下などのコスト増加要因があった中、インバウンド売上高の伸長や新規出店、価格改定効果などが寄与した。
2026年3月期の売上高は79,670百万円(同10.1%増)、営業利益は19,650百万円(同11.6%増)を見込む。引き続き「プレミアムギフトスイーツ」の創造と育成に注力し、主力商品対策及び新商品開発の推進、インバウンド対策、好立地に拘った出店展開などの施策遂行により増収・増益を目指していく。出退店では、今期の期初計画は6店舗の出店・2店舗のリニューアル・2店舗の退店を予定。
中長期的な成長戦略としては、2030年3月期に向けて経常利益率30%、5ヵ年の平均売上成長率10%を目標としている。創出するキャッシュを更なる成長投資・株主還元に投入し、更なる収益性の向上により高ROE経営を推進する方針で、成長投資(工場投資や出店投資など)に30-40%、株主還元に50-60%、売上の30%程度を目安に手元流動性を確保する。足元では、既存ブランドの深耕と新ブランド・新業態の創出に加え、空港・観光地における出店再編、さらにはキャパシティ拡大に向けた工場投資が重点施策とされている。新ブランド創出として「woofie」や「canaria」、「KOKUNEKO」などを展開。工場増設は今後の成長に向けた重要施策とされ、生産インフラの整備に本格的に着手しており、旺盛な需要に対する供給体制の強化を進めている。海外展開は、現時点では「テストマーケティング段階」と位置付けており、短期的な業績貢献は限定的。ただし、中長期的にはアジア圏を中心とした需要取り込みが期待されており、一定の成果が得られれば、第二の成長ドライバーとなる可能性もあるだろう。
株主還元については、2025年3月期より総還元性向50%以上を目標に増配や機動的な自己株式取得を行っていく。内部留保とのバランスを取りながら、株主との利益共有を強化する姿勢が打ち出された。M&Aについては有力案件の少なさから積極的な展開は控えめとなっている一方、工場・研究開発・人材投資といった内部成長のための投資が優先されており、キャッシュアロケーションの基本軸が明確になっている。前期ROE(自己資本当期純利益率)32.2%と高ROE経営を推進して業績も堅調に成長を遂げる同社の今後の動向に注目しておきたい。
<HM>
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