―石炭火力の8割近くが対象、ベステラ、第一カッタなどのビジネスチャンス拡大か―
政府が2020年10月、50年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標を打ち出したことや、米国で環境政策に前向きなバイデン政権が誕生したことなどを受けて“脱炭素”への関心が高まっている。その一環として国際的に進められているのが「脱石炭」だ。
石炭火力に依存し続ける日本に対しては、欧州をはじめ国際社会は厳しい目を向けていたが、そうしたなか梶山弘志経済産業大臣は20年7月、非効率な石炭火力発電所について、30年までにフェードアウト(休廃止)する方針を発表するなど、ここに来て日本もようやく「脱石炭発電」に本腰を入れ始めた。それに伴い今後、廃止される石炭火力発電所の 解体工事に伴うビジネスチャンスが膨らむとみられ、関連銘柄に注目したい。
●石炭火力発電への国際社会の厳しい目
日本はこれまで、資源の乏しさを理由として、安価な石炭を用いた石炭火力発電を重視してきた。19年度における日本の電源構成における石炭火力発電の比率は全体の32%に及びもっとも大きい。19年に行われた国連気候行動サミットでは「脱炭素」の流れが加速するなかでも、石炭火力発電を「重要なベースロード(基幹)電源」と位置づけ、石炭火力発電の輸出を公的資金で支援してきた日本には厳しい目が向けられたが、それでも石炭火力発電重視の姿勢を崩さずにいた。
ただ、海外では石炭火力発電を全廃する方向に動き始めている。自然エネルギー財団によると、ベルギーは16年にEUで初めて石炭火力をゼロにしたほか、フランスは21年までに、スウェーデンは22年までに、イギリス、オーストリア、イタリアは25年までに、オランダ、カナダは30年までにそれぞれ石炭火力発電ゼロの方針を打ち出している。
更にここ数年で広がっている、石炭関連事業への投融資をやめる「石炭ダイベストメント」の動きが日本企業にも広がりつつあり、三菱商事 <8058> はベトナムで計画している石炭火力発電プロジェクト「ビンタン3」から撤退する方針を固めるなど、総合商社を中心に「脱石炭発電」の動きが強まっている。石炭火力は保有しても価値を生まない「座礁資産」となる可能性も高く、こうした国際社会の声を考慮し、日本としても方向転換を迫られるようになったといわれている。
●非効率な石炭火力発電所は段階的にフェードアウト
ただ、非効率な石炭火力発電所の休廃止方針は、18年7月にまとめられた「第5次エネルギー基本計画」で既に明記されており、梶山大臣の発言はこの方針の確実性を強めたものといえる。
石炭火力発電で主に利用されているのは蒸気タービンのみで発電する方式で、発電効率によって「亜臨界圧」「超臨界圧」「超々臨界圧」と効率が高くなる。このほか、石炭をガス化して燃焼させるガスタービン発電と、その排熱で発生した蒸気を利用する蒸気タービン発電を組み合わせた「石炭ガス化複合発電」がある。
第5次エネルギー基本計画では、発電効率38%以下の「亜臨界圧」と38~40%程度の「超臨界圧」を非効率石炭火力発電と位置づけ、30年までに段階的に休廃止させる方針だ。現在、国内の石炭火力発電所は150基(20年7月時点)あり、非効率とされる「超臨界圧」以下の発電所は8割近い118基ある。これらの非効率石炭火力発電の多くは1990年代以前に建設されたものが多く、79年以前に建設され、築40年以上を経たものも20基以上あり、老朽化の観点からも休廃止が望まれている。
基本計画ではこれらの休廃止により、日本の電源構成における石炭火力発電の比率を26%に引き下げる。石炭火力発電所の解体には、1基当たり50億円から100億円の費用がかかるといわれており、関連企業にとっての大きなビジネスチャンスが生じることになるだけに、関連銘柄には要注目だ。
●独自技術で解体に取り組む関連銘柄
石炭火力発電所をはじめ、プラントの解体工事に関連した銘柄の代表格は、ベステラ <1433> だろう。
同社は、ガスホルダーや石油タンクなどの球形貯槽の解体工事でリンゴの皮をむいていくように切断していく工法をはじめ、解体工事分野でさまざまな特許工法を有しており、工事実績も多い。26年1月期を最終年度とする中期経営計画で売上高100億円(21年1月期36億8200万円)、営業利益10億円(同1億2400万円)を目指しており、石炭火力発電所の解体をはじめ、高度成長期以降に建設された老朽化プラントの解体工事需要を積極的に取り込むとしている。
第一カッター興業 <1716> は、社会インフラ全般に対して、ダイヤモンド工法やウォータージェット工法など独自の技術を用いた切断穿孔工事を手掛けており、プラント解体などでも活躍の場は多い。また同社は18年9月にベステラと、プラント解体工事ではベステラが元請けとなり、社会インフラ工事では同社が元請けとなる業務提携を締結していることから、今後更にプラント解体に関する実績が増えそうだ。
太平電業 <1968> は、総合プラント建設会社として、建設からメンテナンス、解体・廃炉に至るまでをトータルに手掛けており、ジャッキダウン工法など独自の技術・工法による火力発電所の解体工事の実績も多い。また、原子力発電所の熱交換機撤去・解体工事なども手掛けており、発電所の解体工事で欠かせない企業の一つといえる。
イボキン <5699> [JQ]は、建築構造物を解体する工事だけにとどまらず、解体工事現場で発生する産業廃棄物を自社の中間処理工場に持ち帰って選別・加工を施し、建築資材などの再生資源としてリサイクルしている。同社では今後の事業展開の一環として解体工事の営業体制の強化を掲げており、なかでも製鉄所や発電所(石炭火力、原子力、風力)などの解体工事の受注に注力するとしていることから、今後の業績への貢献も期待されている。
●原発の廃炉も追い風
また、日本には19ヵ所60基の原子炉があるが、うち24基は既に廃炉が決定している。原子力規制委員会による新規制基準適合性の審査が進むことで、更に原発の廃炉に関連したビジネスが拡大するものとみられている。
原発の廃炉には原子炉1基当たり数百億円以上の費用がかかるといわれ、日立製作所 <6501> 、東芝 <6502> 、三菱重工業 <7011> の3大原発プラントメーカーのほか、圧力容器などを手掛け、13年には除染技術を持つ米ナイトロシジョンを買収したIHI <7013> などのビジネスチャンス拡大にもつながる。防護服を手掛けるアゼアス <3161> [東証2]やセーレン <3569> などにもその影響は波及しそうだ。
株探ニュース
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