*15:08JST 不二精機 Research Memo(8):成長戦略の下、引き続き自動車関連部品及び医療用精密金型に注力
■不二精機<6400>の中長期の成長戦略
同社は成形品事業の拡大に軸足を置き、コア技術である精密金型技術を生かし、金型から精密成形品へ事業構造の変遷を実行してきた。競争力の源泉である射出成形用精密金型及び成形システム事業では高付加価値の医療・食品容器用金型に注力している。精密成形品その他事業では、自動車用成形品拡大に経営資源を集中、アジア地区での生産拡大により価値の拡大を図っている。
この成長戦略に基づき、工場の増設、新工場開設、生産効率の改善を加速している。具体的にはタイ・インドネシアの増設に加え、国内でも2023年10月に鈴鹿工場が精密部品のマザー工場として稼働し始めた。同工場は開発中のEV部品ユニットの工場として、2025年6月には生産を開始し、2025年~2026年にかけて品目において7~8品目を投入予定で、2026年以降に本格拡大すると見られる。さらに、高知県宿毛市に開設した精密金型の新工場は2025年1月より本稼働を開始しており、ここではCADによる金型設計、金型部品の精密加工作業を行っている。
(1) 射出成形用精密金型及び成形システム事業
射出成形用精密金型及び成形システム事業では、医療分野に注力する方針だ。医療用・食品容器用の成形品は安全性が重要で、素材として低溶出性などが要求され、透明性、低臭気性、剛性、高圧蒸気滅菌等の耐熱性、耐衝撃性なども必要で、成形難度が高い。
現在、売上げはダイアライザー向けが最も多く、次いで注射器用などとなっている。ダイアライザーは糖尿病の増加を背景に人工透析患者の生命維持には欠かせない中空糸を封入したろ過装置である。デバイスのハウジングは大半が射出成形で作られ、人の生命に直結する製品だけに、金型の成形精度が悪いと血液が透析液の中に漏れ出す恐れや血栓を起こす原因になる。このため同社のような高精度の金型技術を有する企業でないと対応できない。日本の人工透析患者数は、日本透析医学会が実施している統計調査「わが国の慢性透析療法の現況」によると2022年末で慢性透析療法を受けている患者総数は347,474人に上る。ダイアライザーは使い捨てであり、1ラインで月産50万本ライン規模のものも多く、汎用デバイスでもある。ダイアライザーはパーツサイズが大きくシェル(格納部)用金型は2個取り程度の金型となるが、直径30mm程度のシェルの中に中空糸が1万本近く格納されており、血栓を発生させない血液経路が必要で、0.1mm以下の偏心精度が要求される。しかも収縮率の大きいPP(ポリプロピレン)が使用されており、いかに均一に成形できるかが差別化要因となる。現在、団塊世代が後期高齢者となり、今後患者数が拡大する可能性があり、国内需要は緩やかな成長が続くと見られる。
今後の注目点は中国市場の拡大にある。2021年の中国における透析患者総数は88万人(血液透析75万人、腹膜透析13万人)と報告されており、2016年の46.5万人から年平均成長率(CAGR)13.6%で増加している。ただし、人口100万人当たりの透析患者数は630人と、日本(2,550人)や米国(2,100人)に比べ依然低水準に留まっている。この格差は医療アクセスの不均等に起因し、上海市などの沿岸都市では透析施設数が10万人当たり5.3施設に対し、甘粛省などの内陸部では1.2施設に留まる。なお中国では2012年から透析医療が保険適用され、従来の自費負担から回数や金額に制限があるものの保険でまかなえることとなり、透析治療に弾みがついている。さらに政府の「健康中国2030」計画では、2025年までに県レベル病院の90%に透析ユニット設置を目標とし、施設拡充が患者数増加に拍車をかけると予測される。従来の公立病院主体の治療施設に加え、医療機器の国産化優遇策もあり、中国最大の医療機器メーカーや中国健康医療機器最大手企業など中国ローカルメーカーで成長が加速している。具体的には「医療装備産業発展計画(2021-2025年)」により、高性能透析膜の国産化が重点プロジェクトに指定され、山東威高グループは2023年に年間500万枚のポリエーテルスルホン(PES)膜生産ラインを稼働、輸入代替率を15%から2025年に30%へ引き上げる目標を掲げている。中国ローカルは国内向けだけでなく、インドや東南アジア市場に向けてさらなる拡大を目指している。なお日系企業は中国以外での製造拠点構築も進めており、同分野は今後も海外中心に拡大が継続すると見られる。
(2) 精密成形品その他事業
精密成形品その他事業では、自動車部品事業がカギを握る。同社はタイ、インドネシア、中国(上海)で精密成形品の製造を行っている。現在、中国勢のEV攻勢で伸び悩む動きもあり、日系自動車各社の中国市場での苦戦も報じられるなど、環境は決して楽観できない状況にある。ただし同社は2輪向けが5割強を占め、燃料噴射関連、スターターモーター、ECUほかなど、2輪については堅調な販売が続いている。4輪では日系現地法人である日立Astemo、デンソー<6902>、ミクニ<7247>、東海理化電機製作所<6995>、ミツバ<7280>、アイシン<7259>、住友電装、大同メタル工業<7245>などを通じて、トヨタ自動車<7203>や本田技研工業向けを中心にワイヤーハーネス関連、電動ウォーターポンプ、キーレススイッチ、オルタネーターなどの成形品が自動車メーカーに採用されている。今後、4輪生産では軽量化に伴う樹脂化への動きも加わり、台数が伸び悩んでも樹脂成形品需要の拡大が見込める。さらに同社は2019年12月期に精密プレス加工用の金型設計・製作と板金プレス部品、インサート成形品などの製造を行う秋元精機工業を子会社化したが、これにより精密金属部品を金型内にインサートして樹脂成形する「インサート成形品」への対応が可能となった。今回のEV部品ユニットについてもインサート成形品のノウハウが生かされ、シナジー効果が本格化すると見られる。なお同社はEV車向けだけでなく、インサート成形品の採用拡大を目指しており、高付加価値化で同部門の収益性向上も見込まれる。EV関連部品の本格拡大は2026年になると見られるが、トヨタ自動車のEV化推進などの動きもあり、精密成形品その他事業の拡大の基軸となってこよう。なお自動車以外では医療向けに微細精密成形品の開発も行っている状況で、今後の展開に注目したい。
2025年12月期までは先行投資による負担増が重しとなるものの、2026年12月期以降はEVユニット部品の本格拡大による自動車関連部品の収益性の向上、医療用精密金型のグローバル展開による売上げ拡大から収益の本格拡大が期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)
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同社は成形品事業の拡大に軸足を置き、コア技術である精密金型技術を生かし、金型から精密成形品へ事業構造の変遷を実行してきた。競争力の源泉である射出成形用精密金型及び成形システム事業では高付加価値の医療・食品容器用金型に注力している。精密成形品その他事業では、自動車用成形品拡大に経営資源を集中、アジア地区での生産拡大により価値の拡大を図っている。
この成長戦略に基づき、工場の増設、新工場開設、生産効率の改善を加速している。具体的にはタイ・インドネシアの増設に加え、国内でも2023年10月に鈴鹿工場が精密部品のマザー工場として稼働し始めた。同工場は開発中のEV部品ユニットの工場として、2025年6月には生産を開始し、2025年~2026年にかけて品目において7~8品目を投入予定で、2026年以降に本格拡大すると見られる。さらに、高知県宿毛市に開設した精密金型の新工場は2025年1月より本稼働を開始しており、ここではCADによる金型設計、金型部品の精密加工作業を行っている。
(1) 射出成形用精密金型及び成形システム事業
射出成形用精密金型及び成形システム事業では、医療分野に注力する方針だ。医療用・食品容器用の成形品は安全性が重要で、素材として低溶出性などが要求され、透明性、低臭気性、剛性、高圧蒸気滅菌等の耐熱性、耐衝撃性なども必要で、成形難度が高い。
現在、売上げはダイアライザー向けが最も多く、次いで注射器用などとなっている。ダイアライザーは糖尿病の増加を背景に人工透析患者の生命維持には欠かせない中空糸を封入したろ過装置である。デバイスのハウジングは大半が射出成形で作られ、人の生命に直結する製品だけに、金型の成形精度が悪いと血液が透析液の中に漏れ出す恐れや血栓を起こす原因になる。このため同社のような高精度の金型技術を有する企業でないと対応できない。日本の人工透析患者数は、日本透析医学会が実施している統計調査「わが国の慢性透析療法の現況」によると2022年末で慢性透析療法を受けている患者総数は347,474人に上る。ダイアライザーは使い捨てであり、1ラインで月産50万本ライン規模のものも多く、汎用デバイスでもある。ダイアライザーはパーツサイズが大きくシェル(格納部)用金型は2個取り程度の金型となるが、直径30mm程度のシェルの中に中空糸が1万本近く格納されており、血栓を発生させない血液経路が必要で、0.1mm以下の偏心精度が要求される。しかも収縮率の大きいPP(ポリプロピレン)が使用されており、いかに均一に成形できるかが差別化要因となる。現在、団塊世代が後期高齢者となり、今後患者数が拡大する可能性があり、国内需要は緩やかな成長が続くと見られる。
今後の注目点は中国市場の拡大にある。2021年の中国における透析患者総数は88万人(血液透析75万人、腹膜透析13万人)と報告されており、2016年の46.5万人から年平均成長率(CAGR)13.6%で増加している。ただし、人口100万人当たりの透析患者数は630人と、日本(2,550人)や米国(2,100人)に比べ依然低水準に留まっている。この格差は医療アクセスの不均等に起因し、上海市などの沿岸都市では透析施設数が10万人当たり5.3施設に対し、甘粛省などの内陸部では1.2施設に留まる。なお中国では2012年から透析医療が保険適用され、従来の自費負担から回数や金額に制限があるものの保険でまかなえることとなり、透析治療に弾みがついている。さらに政府の「健康中国2030」計画では、2025年までに県レベル病院の90%に透析ユニット設置を目標とし、施設拡充が患者数増加に拍車をかけると予測される。従来の公立病院主体の治療施設に加え、医療機器の国産化優遇策もあり、中国最大の医療機器メーカーや中国健康医療機器最大手企業など中国ローカルメーカーで成長が加速している。具体的には「医療装備産業発展計画(2021-2025年)」により、高性能透析膜の国産化が重点プロジェクトに指定され、山東威高グループは2023年に年間500万枚のポリエーテルスルホン(PES)膜生産ラインを稼働、輸入代替率を15%から2025年に30%へ引き上げる目標を掲げている。中国ローカルは国内向けだけでなく、インドや東南アジア市場に向けてさらなる拡大を目指している。なお日系企業は中国以外での製造拠点構築も進めており、同分野は今後も海外中心に拡大が継続すると見られる。
(2) 精密成形品その他事業
精密成形品その他事業では、自動車部品事業がカギを握る。同社はタイ、インドネシア、中国(上海)で精密成形品の製造を行っている。現在、中国勢のEV攻勢で伸び悩む動きもあり、日系自動車各社の中国市場での苦戦も報じられるなど、環境は決して楽観できない状況にある。ただし同社は2輪向けが5割強を占め、燃料噴射関連、スターターモーター、ECUほかなど、2輪については堅調な販売が続いている。4輪では日系現地法人である日立Astemo、デンソー<6902>、ミクニ<7247>、東海理化電機製作所<6995>、ミツバ<7280>、アイシン<7259>、住友電装、大同メタル工業<7245>などを通じて、トヨタ自動車<7203>や本田技研工業向けを中心にワイヤーハーネス関連、電動ウォーターポンプ、キーレススイッチ、オルタネーターなどの成形品が自動車メーカーに採用されている。今後、4輪生産では軽量化に伴う樹脂化への動きも加わり、台数が伸び悩んでも樹脂成形品需要の拡大が見込める。さらに同社は2019年12月期に精密プレス加工用の金型設計・製作と板金プレス部品、インサート成形品などの製造を行う秋元精機工業を子会社化したが、これにより精密金属部品を金型内にインサートして樹脂成形する「インサート成形品」への対応が可能となった。今回のEV部品ユニットについてもインサート成形品のノウハウが生かされ、シナジー効果が本格化すると見られる。なお同社はEV車向けだけでなく、インサート成形品の採用拡大を目指しており、高付加価値化で同部門の収益性向上も見込まれる。EV関連部品の本格拡大は2026年になると見られるが、トヨタ自動車のEV化推進などの動きもあり、精密成形品その他事業の拡大の基軸となってこよう。なお自動車以外では医療向けに微細精密成形品の開発も行っている状況で、今後の展開に注目したい。
2025年12月期までは先行投資による負担増が重しとなるものの、2026年12月期以降はEVユニット部品の本格拡大による自動車関連部品の収益性の向上、医療用精密金型のグローバル展開による売上げ拡大から収益の本格拡大が期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)
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