●「期待で買って、現実で売る」展開になった任天堂株
2025年1月16日の22時2分に「Switch(スイッチ)」の後継機「Nintendo Switch2(以下Switch2)」が突然発表された。あちこちで話題になったので、すでに内容はご存じの方も多いと思う。筆者は「見ただけでゲーム機は売れるかどうかが分かる」と普段から主張している。そのうえで「Switch2」の発表を見て感じたのは、「任天堂 <7974>は大変売れるゲーム機を発表した」というのが第一印象であった。
その理由は後ほど記すとして、まず株価的な視点でお伝えしておくと「期待で買って、現実で売る」という、格言の通りの展開となった。24年12月下旬から「Switch2」のリーク写真と称するものがたびたびネットを騒がせるようになり、25年1月上旬にラスベガスで開催されたテクノロジー見本市「CES2025」では、「Switch2」のモックアップ(試作品)と称されるものが展示されていたという。
このモックアップについては、任天堂からは公式なものではないとの見解が示されたがネットでは大きな話題になっており、何もアナウンスされていないのにX(旧Twitter)ではトレンドの上位に入るなど、この"リーク動画"に対する解説が過熱していた。
結果、1月16日の「Switch2」発表直前には任天堂の株価は9590円と、この時点での史上最高値を更新する状況になっていた。"リーク動画"の効果もあってか、投資家の期待が発表前に十分に盛り上がっていたということだろう。
しかし、いざ「Switch2」が発表されると、前日比4%以上の急落となったのである。上記のリークやモックアップが事実であったことが確認されたために、投資家目線では利確の動きが強まったということのようだ。そして、そのまま下がると思った方も多かったと思う。ところが株価はその後再び急騰して、1万1000円を超える水準となった。
理由はいくつか考えられるが、最も大きな要因は、SNSでの「Switch2」に対する拡散度の高さ、そして次に考えられるのは半導体セクターからの資金移転だ。
特にSNSでの「Switch2」の拡散スピードの速さは驚くべきものがある。世界中からアクセスがあった任天堂公式Xアカウントのポストは5500万閲覧を超えている。同社の他のポストの多くが閲覧数30万程度であることを考えると、この数は驚異的である。反響が大きければ投資家も興味を示すのは当然のことなのである。
●Switch2が売れると考えるワケ
現時点で筆者は、「Switch2」が「Switch」の約1.5億台を上回る販売台数になると予想している。レーティングについてはアナリストレポートでしか言及できないので、各自でお調べいただきたいと思うのだが、この件が1月23日付の株探ニュースに取り上げられているのでご参照いただきたい。
本コラムでは、このニュースについて、もう少し詳しく解説しておこうと思う。一般的な投資家の目線では、ゲーム機はゲームソフトを遊ぶための機器なので、価格とゲームソフト(が動く性能)が分からないと、おそらく業績が良くなるか判断できないとお考えだと思う。しかしこの二つは売れるかどうかには関係ないと筆者は考えていて、発表時点で予測可能だと思っているのである。
予測できると考える理由は、90年代から週間ゲーム機販売数が公開されており、いくつかの特徴が分かっているためだ。ゲーム機の販売動向から見える傾向は4点ある。一つは「ゲーム機は初動(2週間)で40万台前半の販売台数を達成しないと、販売台数は伸び悩む」ということ。二つ目は「ローンチタイトルの影響を受けていない」こと。そして「価格の影響を受けていない」こと。さらに「モデルチェンジの影響を受けている」ということだ。
任天堂の電子ゲームビジネスの実質的な創業者と言える故山内溥氏は、「ゲーム機はソフトのために嫌々買われるもの」と定義していたが、観測されるデータは逆であることを示している。価格も性能もソフトも、販売の成否にはなんら影響を与えていない。
半面、モデルチェンジの影響は受けているようなのだ。一番分かりやすいのは「ニンテンドーDS」のマイナーチェンジ「DS Lite」だ。このゲーム機は白を基調としたデザインで女性を中心に大いに受けた。「Switch」では他にも有機ELを採用したOLEDモデルがヒットして異例のロングランとなった。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE、現ソニー・インタラクティブエンタテインメント、ソニーグループ <6758> 傘下)の「PSP(プレイステーション・ポータブル)」も薄く軽量化した「PSP-2000」がヒットしているのである。
これらのことを考えると、ゲーム機はデザインの影響を受けていることが分かるだろう。しかも日本で売れているゲーム機は「ファミコン(ファミリーコンピュータ)」、「ゲームボーイ」、「ニンテンドーDS」、「ニンテンドー3DS」、「Switch」、「PS(プレイステーション)」、「PS2」「PSP」と小型のゲーム機ばかりである。
その観点から「Switch2」を見ると、黒を基調とした本体、狭額縁ディスプレイ、薄い本体とよくまとまっている。ゲーム機に見えずに苦戦している「PS5」と比べても、非常に分かりやすいデザインになっていると言えるだろう。
人間には大きな変化を嫌うという"現状維持バイアス"が存在しており、「Switch」と遊び方が変わらず、画面だけが大きくなった「Switch2」は良い選択だったと考えるのである。実際、普及率が高くなったアップルの「iPhone(アイフォーン)」は、近年デザインの変化ですら最小限にしている。
ゲーム機もファミコン発売から40年以上が経過し、遊び方が固定されていること、日本での人口普及率も25%を超えると推測されていることを考えると、適切な選択だったのではないだろうか。よって「Switch2」は「Switch」以上の初動になると現時点では予想している。
●第3四半期決算と「Switch2」で変化する任天堂
では「Switch2」の登場によって、任天堂の業績はどう変わっていくのだろうか。25年3月期第3四半期累計の決算は大幅な減収減益だった。筆者の予想を大幅に下回り、通期計画も大幅な下方修正となった。さすがに「Switch」が8年目で、「Switch2」が登場間近となると、業績的にはやむを得ないところだろう。「Switch」ハードの販売が年末商戦期に弱かったのもこのためだ。24年の同社のゲームハードが全体的に不振だった理由は、「Switch」のデザイン面での対策が、「Switch2」の発表を控えた時期に行うことが難しかったことが響いたと考えている。
来期は大幅な改善を予想しているが、「Switch2」の発売時期次第である。新聞などで報道されている通り、まだ販売価格やローンチソフトは発表されていないが、少なくとも「Switch2」の初期出荷量は「Switch」を大きく上回ってくると考えている。
2月4日に開催された任天堂の質疑応答では、この点を筆者が質問(Q6)したのだが、すでに「Switch2」は生産が始まっていて、しかも「リスクを取って進めている」とのこと。これで「Switch」の274万台や「PS5」の450万台(いずれも最初の四半期)より少ないとは考えにくいだろう。筆者は7月上旬発売で7-9月には600万台の販売を想定している。
価格は昨今のインフレや円安を考えると、高額になる可能性が高い。価格も数量も「Switch」の初動を上回るとなると、業績的なインパクトは発売後に大きくなるだろう。単価が高くて数が出るということは、「Switch」から非連続的な見たこともないような成長を考えているということだろう。特にゲーム機は初動が良いと、そのあと3年間は急激に販売が拡大する特性がある。再来期(2027年3月期)の業績は相当大きなペースで伸びるはずである。
「Wii U」の失敗で経験したように大変な損失を計上するリスクがある一方で、成功したときには非連続の成長を享受できるのがゲームセクターへ投資する魅力である。「Switch2」という一見すると代わり映えしないゲーム機が、投資家にもユーザーにも大きな夢を与えるのは、とてもいいことだと思う。2018年に社長に就任した古川俊太郎氏が初めて主導するゲーム機「Switch2」を大いに楽しみたいものである。
【著者】
安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
東洋証券アナリスト
1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、同社アナリストとなる。大手証券会社の利害に縛られない、独立系アナリストとしての忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。
株探ニュース
2025年1月16日の22時2分に「Switch(スイッチ)」の後継機「Nintendo Switch2(以下Switch2)」が突然発表された。あちこちで話題になったので、すでに内容はご存じの方も多いと思う。筆者は「見ただけでゲーム機は売れるかどうかが分かる」と普段から主張している。そのうえで「Switch2」の発表を見て感じたのは、「任天堂 <7974>は大変売れるゲーム機を発表した」というのが第一印象であった。
その理由は後ほど記すとして、まず株価的な視点でお伝えしておくと「期待で買って、現実で売る」という、格言の通りの展開となった。24年12月下旬から「Switch2」のリーク写真と称するものがたびたびネットを騒がせるようになり、25年1月上旬にラスベガスで開催されたテクノロジー見本市「CES2025」では、「Switch2」のモックアップ(試作品)と称されるものが展示されていたという。
このモックアップについては、任天堂からは公式なものではないとの見解が示されたがネットでは大きな話題になっており、何もアナウンスされていないのにX(旧Twitter)ではトレンドの上位に入るなど、この"リーク動画"に対する解説が過熱していた。
結果、1月16日の「Switch2」発表直前には任天堂の株価は9590円と、この時点での史上最高値を更新する状況になっていた。"リーク動画"の効果もあってか、投資家の期待が発表前に十分に盛り上がっていたということだろう。
しかし、いざ「Switch2」が発表されると、前日比4%以上の急落となったのである。上記のリークやモックアップが事実であったことが確認されたために、投資家目線では利確の動きが強まったということのようだ。そして、そのまま下がると思った方も多かったと思う。ところが株価はその後再び急騰して、1万1000円を超える水準となった。
理由はいくつか考えられるが、最も大きな要因は、SNSでの「Switch2」に対する拡散度の高さ、そして次に考えられるのは半導体セクターからの資金移転だ。
特にSNSでの「Switch2」の拡散スピードの速さは驚くべきものがある。世界中からアクセスがあった任天堂公式Xアカウントのポストは5500万閲覧を超えている。同社の他のポストの多くが閲覧数30万程度であることを考えると、この数は驚異的である。反響が大きければ投資家も興味を示すのは当然のことなのである。
●Switch2が売れると考えるワケ
現時点で筆者は、「Switch2」が「Switch」の約1.5億台を上回る販売台数になると予想している。レーティングについてはアナリストレポートでしか言及できないので、各自でお調べいただきたいと思うのだが、この件が1月23日付の株探ニュースに取り上げられているのでご参照いただきたい。
本コラムでは、このニュースについて、もう少し詳しく解説しておこうと思う。一般的な投資家の目線では、ゲーム機はゲームソフトを遊ぶための機器なので、価格とゲームソフト(が動く性能)が分からないと、おそらく業績が良くなるか判断できないとお考えだと思う。しかしこの二つは売れるかどうかには関係ないと筆者は考えていて、発表時点で予測可能だと思っているのである。
予測できると考える理由は、90年代から週間ゲーム機販売数が公開されており、いくつかの特徴が分かっているためだ。ゲーム機の販売動向から見える傾向は4点ある。一つは「ゲーム機は初動(2週間)で40万台前半の販売台数を達成しないと、販売台数は伸び悩む」ということ。二つ目は「ローンチタイトルの影響を受けていない」こと。そして「価格の影響を受けていない」こと。さらに「モデルチェンジの影響を受けている」ということだ。
任天堂の電子ゲームビジネスの実質的な創業者と言える故山内溥氏は、「ゲーム機はソフトのために嫌々買われるもの」と定義していたが、観測されるデータは逆であることを示している。価格も性能もソフトも、販売の成否にはなんら影響を与えていない。
半面、モデルチェンジの影響は受けているようなのだ。一番分かりやすいのは「ニンテンドーDS」のマイナーチェンジ「DS Lite」だ。このゲーム機は白を基調としたデザインで女性を中心に大いに受けた。「Switch」では他にも有機ELを採用したOLEDモデルがヒットして異例のロングランとなった。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE、現ソニー・インタラクティブエンタテインメント、ソニーグループ <6758> 傘下)の「PSP(プレイステーション・ポータブル)」も薄く軽量化した「PSP-2000」がヒットしているのである。
これらのことを考えると、ゲーム機はデザインの影響を受けていることが分かるだろう。しかも日本で売れているゲーム機は「ファミコン(ファミリーコンピュータ)」、「ゲームボーイ」、「ニンテンドーDS」、「ニンテンドー3DS」、「Switch」、「PS(プレイステーション)」、「PS2」「PSP」と小型のゲーム機ばかりである。
その観点から「Switch2」を見ると、黒を基調とした本体、狭額縁ディスプレイ、薄い本体とよくまとまっている。ゲーム機に見えずに苦戦している「PS5」と比べても、非常に分かりやすいデザインになっていると言えるだろう。
人間には大きな変化を嫌うという"現状維持バイアス"が存在しており、「Switch」と遊び方が変わらず、画面だけが大きくなった「Switch2」は良い選択だったと考えるのである。実際、普及率が高くなったアップル
ゲーム機もファミコン発売から40年以上が経過し、遊び方が固定されていること、日本での人口普及率も25%を超えると推測されていることを考えると、適切な選択だったのではないだろうか。よって「Switch2」は「Switch」以上の初動になると現時点では予想している。
●第3四半期決算と「Switch2」で変化する任天堂
では「Switch2」の登場によって、任天堂の業績はどう変わっていくのだろうか。25年3月期第3四半期累計の決算は大幅な減収減益だった。筆者の予想を大幅に下回り、通期計画も大幅な下方修正となった。さすがに「Switch」が8年目で、「Switch2」が登場間近となると、業績的にはやむを得ないところだろう。「Switch」ハードの販売が年末商戦期に弱かったのもこのためだ。24年の同社のゲームハードが全体的に不振だった理由は、「Switch」のデザイン面での対策が、「Switch2」の発表を控えた時期に行うことが難しかったことが響いたと考えている。
来期は大幅な改善を予想しているが、「Switch2」の発売時期次第である。新聞などで報道されている通り、まだ販売価格やローンチソフトは発表されていないが、少なくとも「Switch2」の初期出荷量は「Switch」を大きく上回ってくると考えている。
2月4日に開催された任天堂の質疑応答では、この点を筆者が質問(Q6)したのだが、すでに「Switch2」は生産が始まっていて、しかも「リスクを取って進めている」とのこと。これで「Switch」の274万台や「PS5」の450万台(いずれも最初の四半期)より少ないとは考えにくいだろう。筆者は7月上旬発売で7-9月には600万台の販売を想定している。
価格は昨今のインフレや円安を考えると、高額になる可能性が高い。価格も数量も「Switch」の初動を上回るとなると、業績的なインパクトは発売後に大きくなるだろう。単価が高くて数が出るということは、「Switch」から非連続的な見たこともないような成長を考えているということだろう。特にゲーム機は初動が良いと、そのあと3年間は急激に販売が拡大する特性がある。再来期(2027年3月期)の業績は相当大きなペースで伸びるはずである。
「Wii U」の失敗で経験したように大変な損失を計上するリスクがある一方で、成功したときには非連続の成長を享受できるのがゲームセクターへ投資する魅力である。「Switch2」という一見すると代わり映えしないゲーム機が、投資家にもユーザーにも大きな夢を与えるのは、とてもいいことだと思う。2018年に社長に就任した古川俊太郎氏が初めて主導するゲーム機「Switch2」を大いに楽しみたいものである。
【著者】
安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
東洋証券アナリスト
1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、同社アナリストとなる。大手証券会社の利害に縛られない、独立系アナリストとしての忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。
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