*13:07JST シュッピン Research Memo(7):独自のEC施策を通じてWeb会員数が拡大し、右肩上がりの成長を実現
■シュッピン<3179>のこれまでの業績推移
2024年3月期までの業績を振り返ると、売上高はWeb会員数の拡大やEC売上高の伸びとともに右肩上がりの成長を実現してきた。2020年3月期以降は、売上成長よりも粗利率改善を重点課題として取り組んだことや消費税増の影響、コロナ禍に伴う店舗売上の落ち込みにより2期連続で伸び悩んだものの、2022年3月期は各EC施策(AIMDの導入を含む)の効果や戦略的在庫投資による「時計事業」の伸びにより大幅な増収を実現した。上場した2013年3月期から2024年3月期までの11年間の売上高年平均成長率は13.2%(そのうち、EC売上高の年平均成長率は17.6%)に上る。また、利益面(営業利益)でも、売上高の伸びとともにおおむね増益基調をたどってきた。営業利益率はしばらく4%~5%のレンジ内で推移してきたが、2022年3月期はAIMDの導入による売上総利益率の改善や販管費の抑制により、大幅な利益率の向上を実現した。2023年3月期には「時計事業」の一時的な落ち込みがあり営業利益率は5.4%となったが、2024年3月期は6.8%の水準に回復し、実質的な収益力の底上げ施策の効果が表れたと言える。
財務面については、自己資本比率はしばらく50%水準で安定推移してきた。2022年3月期は創業者からの自社株式の取得により37.9%に低下したものの、2024年3月期は再び50%を超える水準に戻ってきた。一方、資本効率を示すROEは2022年3月期に37.2%にまで上昇し、2024年3月期も30%を超える水準を維持している。
■中長期の成長戦略
カメラ事業・時計事業のさらなる成長と越境ECに取り組むとともに、AI活用やスリム経営により利益成長を目指す
1. 同社における環境認識
(1) カメラ市場
カメラ市場は、スマートフォンの台頭によりしばらく縮小傾向が続いてきたが、2020年度よりフルサイズミラーレスカメラへの本格移行が始まったほか、メーカー各社から注目の新製品が発売されたことで活況を呈しており、カメラ専門店にとっては追い風となっている。2022年前半までの半導体不足解消に伴いフルサイズミラーレスカメラへの移行が本格化し、日本向け総出荷台数※1は2022年が前年比131.9%(金額では前年比163.3%)、2023年が同120.4%(金額では同106.8%)と伸び続け、2024年も好調に推移している※2。またカメラを本格的な趣味にしたり、映像関連の仕事をする人も年々増加傾向にあり、より専門性を求めて量販店から専門店に流れ込む動きもあるようだ。中古品市場についても、新製品の発売に伴って一世代前のモデルが中古品として販売されるため、しばらく好調な市場環境が続く見通しである。
※1 出所は(一社)カメラ映像機器工業会。
※2 2024年1〜10月(累計)の日本向け総出荷台数は前年同期比109.1%(金額では前年同期比111.0%)となっている。
(2) 時計市場
日本国内の輸入腕時計市場については、2022年がコロナ禍によるインバウンド需要(免税売上)の低迷や高級腕時計の世界的な価格相場の下落のなかで、価格を下げてでも販売を行う動きが強かったこともあり、7,381億円(前年比26%増)の規模に拡大すると、価格相場が比較的安定した2023年も9,557億円(同29%増)と高成長を続けており、1兆円規模に迫ってきた※。特にシェア約2%の同社にとっては、伸びしろの大きな市場と言える。同社では、2021年9月から「ロレックス」製品の取り扱い日本一を目指す方針を打ち出し、戦略的な在庫投資を行ってきた。2021年12月末には「ロレックス」の取り扱いで国内最大級にまで拡大しさらなるラインナップの拡充を図ってきたが、その積極姿勢が相場下落の影響を受ける格好となり一時的な苦戦を強いられた。2023年に入ってから、価格相場の安定とともに同社の業績も一旦回復した。2024年は国内市場の軟調さを受けたものの11月実績でも回復が見えており、直近においても回復に戻りつつある。
※ 出所は(一社)日本時計協会。
2. 中期経営計画
同社は、毎年向こう3ヶ年の中期経営計画を更新しており、2024年5月に新たな中期経営計画を公表した。前回の中期経営計画と比べてトップラインの伸びを増額修正するとともに、売上総利益率の目標を引き上げた。一方、利益を生み出すための投資(システム人財の育成、AI施策強化に向けたシステム投資、コンテンツ撮影スタジオ新設など)についても若干積み増した。ただ、今後の方向性に見直しはない。引き続き新たなテクノロジーの活用によりECに注力する方針であり、主軸となる「カメラ事業」のさらなる成長と「時計事業」の回復からの拡大、越境ECによるグローバル展開の活性化などに取り組む。特に売上高の成長以上に利益成長を重視し、1) AI活用による利益率の改善、2) スリムな経営による販管費比率の低減、という2つの施策を推進し、最終年度となる2027年3月期の目標として売上高73,514百万円(3年間の年平均成長率14.6%)、営業利益5,598百万円(営業利益率7.6%)を目指す。
3. 中長期的な注目点
AIの活用や様々な価値の追求により特定分野でさらにプレゼンスを高め、利益成長を重視する戦略は、弊社でも合理性があると評価している。戦略的に取り組んできた「時計事業」は想定外の相場変動や円高基調に伴う影響を受けたものの、これをきっかけとして先を進む「カメラ事業」と同様にAIやテクノロジーを導入し、ビジネスモデルの精度を高めることができれば、他社との差別化を図るうえでも大きな転機となる可能性がある。1兆円規模を誇る市場において後発である同社がいかにシェアを高めていくのか、今後の進展に期待したい。また、長期的なアップサイド要因として注目されるのは、M&Aや事業提携を含む、海外への本格展開、並びに新たな収益源の創出にある。海外展開については、すでにテストマーケティング的に取り組み「カメラ事業」を中心に認知度が上がってきており、越境ECを通じて着実に利用者から高い評価を受けている。国内と同様、海外でのブランド力や買取の仕組みを確立することができれば、新たな成長の軸となる可能性は大きい。さらに新たな収益源の創出(例えば、情報力及び会員基盤を生かした有料サービスの導入、メディア事業への展開など)についてもポテンシャルがある。その具現化のためにはロイヤリティ(熱量)が高く、質・量ともに充実した会員基盤をはじめ、愛好者にとって魅力的なコンテンツ情報が集まる仕組みを、いかに収益化に結び付けていくかがカギを握ると見ている。外部資源の活用を含め、同社ならではのビジネスモデルの確立に注目したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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2024年3月期までの業績を振り返ると、売上高はWeb会員数の拡大やEC売上高の伸びとともに右肩上がりの成長を実現してきた。2020年3月期以降は、売上成長よりも粗利率改善を重点課題として取り組んだことや消費税増の影響、コロナ禍に伴う店舗売上の落ち込みにより2期連続で伸び悩んだものの、2022年3月期は各EC施策(AIMDの導入を含む)の効果や戦略的在庫投資による「時計事業」の伸びにより大幅な増収を実現した。上場した2013年3月期から2024年3月期までの11年間の売上高年平均成長率は13.2%(そのうち、EC売上高の年平均成長率は17.6%)に上る。また、利益面(営業利益)でも、売上高の伸びとともにおおむね増益基調をたどってきた。営業利益率はしばらく4%~5%のレンジ内で推移してきたが、2022年3月期はAIMDの導入による売上総利益率の改善や販管費の抑制により、大幅な利益率の向上を実現した。2023年3月期には「時計事業」の一時的な落ち込みがあり営業利益率は5.4%となったが、2024年3月期は6.8%の水準に回復し、実質的な収益力の底上げ施策の効果が表れたと言える。
財務面については、自己資本比率はしばらく50%水準で安定推移してきた。2022年3月期は創業者からの自社株式の取得により37.9%に低下したものの、2024年3月期は再び50%を超える水準に戻ってきた。一方、資本効率を示すROEは2022年3月期に37.2%にまで上昇し、2024年3月期も30%を超える水準を維持している。
■中長期の成長戦略
カメラ事業・時計事業のさらなる成長と越境ECに取り組むとともに、AI活用やスリム経営により利益成長を目指す
1. 同社における環境認識
(1) カメラ市場
カメラ市場は、スマートフォンの台頭によりしばらく縮小傾向が続いてきたが、2020年度よりフルサイズミラーレスカメラへの本格移行が始まったほか、メーカー各社から注目の新製品が発売されたことで活況を呈しており、カメラ専門店にとっては追い風となっている。2022年前半までの半導体不足解消に伴いフルサイズミラーレスカメラへの移行が本格化し、日本向け総出荷台数※1は2022年が前年比131.9%(金額では前年比163.3%)、2023年が同120.4%(金額では同106.8%)と伸び続け、2024年も好調に推移している※2。またカメラを本格的な趣味にしたり、映像関連の仕事をする人も年々増加傾向にあり、より専門性を求めて量販店から専門店に流れ込む動きもあるようだ。中古品市場についても、新製品の発売に伴って一世代前のモデルが中古品として販売されるため、しばらく好調な市場環境が続く見通しである。
※1 出所は(一社)カメラ映像機器工業会。
※2 2024年1〜10月(累計)の日本向け総出荷台数は前年同期比109.1%(金額では前年同期比111.0%)となっている。
(2) 時計市場
日本国内の輸入腕時計市場については、2022年がコロナ禍によるインバウンド需要(免税売上)の低迷や高級腕時計の世界的な価格相場の下落のなかで、価格を下げてでも販売を行う動きが強かったこともあり、7,381億円(前年比26%増)の規模に拡大すると、価格相場が比較的安定した2023年も9,557億円(同29%増)と高成長を続けており、1兆円規模に迫ってきた※。特にシェア約2%の同社にとっては、伸びしろの大きな市場と言える。同社では、2021年9月から「ロレックス」製品の取り扱い日本一を目指す方針を打ち出し、戦略的な在庫投資を行ってきた。2021年12月末には「ロレックス」の取り扱いで国内最大級にまで拡大しさらなるラインナップの拡充を図ってきたが、その積極姿勢が相場下落の影響を受ける格好となり一時的な苦戦を強いられた。2023年に入ってから、価格相場の安定とともに同社の業績も一旦回復した。2024年は国内市場の軟調さを受けたものの11月実績でも回復が見えており、直近においても回復に戻りつつある。
※ 出所は(一社)日本時計協会。
2. 中期経営計画
同社は、毎年向こう3ヶ年の中期経営計画を更新しており、2024年5月に新たな中期経営計画を公表した。前回の中期経営計画と比べてトップラインの伸びを増額修正するとともに、売上総利益率の目標を引き上げた。一方、利益を生み出すための投資(システム人財の育成、AI施策強化に向けたシステム投資、コンテンツ撮影スタジオ新設など)についても若干積み増した。ただ、今後の方向性に見直しはない。引き続き新たなテクノロジーの活用によりECに注力する方針であり、主軸となる「カメラ事業」のさらなる成長と「時計事業」の回復からの拡大、越境ECによるグローバル展開の活性化などに取り組む。特に売上高の成長以上に利益成長を重視し、1) AI活用による利益率の改善、2) スリムな経営による販管費比率の低減、という2つの施策を推進し、最終年度となる2027年3月期の目標として売上高73,514百万円(3年間の年平均成長率14.6%)、営業利益5,598百万円(営業利益率7.6%)を目指す。
3. 中長期的な注目点
AIの活用や様々な価値の追求により特定分野でさらにプレゼンスを高め、利益成長を重視する戦略は、弊社でも合理性があると評価している。戦略的に取り組んできた「時計事業」は想定外の相場変動や円高基調に伴う影響を受けたものの、これをきっかけとして先を進む「カメラ事業」と同様にAIやテクノロジーを導入し、ビジネスモデルの精度を高めることができれば、他社との差別化を図るうえでも大きな転機となる可能性がある。1兆円規模を誇る市場において後発である同社がいかにシェアを高めていくのか、今後の進展に期待したい。また、長期的なアップサイド要因として注目されるのは、M&Aや事業提携を含む、海外への本格展開、並びに新たな収益源の創出にある。海外展開については、すでにテストマーケティング的に取り組み「カメラ事業」を中心に認知度が上がってきており、越境ECを通じて着実に利用者から高い評価を受けている。国内と同様、海外でのブランド力や買取の仕組みを確立することができれば、新たな成長の軸となる可能性は大きい。さらに新たな収益源の創出(例えば、情報力及び会員基盤を生かした有料サービスの導入、メディア事業への展開など)についてもポテンシャルがある。その具現化のためにはロイヤリティ(熱量)が高く、質・量ともに充実した会員基盤をはじめ、愛好者にとって魅力的なコンテンツ情報が集まる仕組みを、いかに収益化に結び付けていくかがカギを握ると見ている。外部資源の活用を含め、同社ならではのビジネスモデルの確立に注目したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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