安田秀樹【お堅いイメージから脱却し、新しい経営スタイルの確立を! 鉄道セクター投資のこれから】

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最新投稿日時:2025/01/15 12:15 - 「安田秀樹【お堅いイメージから脱却し、新しい経営スタイルの確立を! 鉄道セクター投資のこれから】」(株探)

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安田秀樹【お堅いイメージから脱却し、新しい経営スタイルの確立を! 鉄道セクター投資のこれから】

配信元:株探
投稿:2025/01/15 12:15
●資産の積み上げで収益を得る鉄道業界のビジネスモデル

 今回は鉄道業界の話を進めたい。日本では明治政府が新橋~横浜間に鉄道を敷設したことが始まりだが、ご存じのように当時は蒸気機関だった。明治末期になって京都市電と川崎の大師電気鉄道(現・京浜急行電鉄 <9006>)が路面電車の建設を始め、阪神電鉄が出入橋~神戸(現・三宮)間に軌道を敷設して、インターアーバン(都市間電気鉄道)を完成させると、電車の先進性に注目が集まるようになった。

 電車は蒸気機関と比較して勾配に強く、加減速を繰り返せるので、停車駅を増やしてこまめに乗客を得ることが出来たのだ。大正期から昭和初期にかけて、電車の優位性が広く理解されると、関西では箕面有馬電気軌道(現・阪急電鉄=阪急阪神ホールディングス <9042> 傘下)、京阪電気鉄道(京阪ホールディングス <9045> 傘下)、大阪電気軌道(現・近鉄=近鉄グループホールディングス <9041> 傘下)が建設された。その後、成功した各社は、沿線を中心とした遊園地や野球場、百貨店、不動産ビジネスへと多角化していった。高度成長期には輸送力を増強する必要に迫られ、設備の増強に奔走することになる。

 最初に鉄道の歴史に触れたのは、鉄道会社のビジネスモデルが、事業への投資をすることで「資産を積み上げ、人員を整備することで収益を得る」というものである点を理解してもらいたかったからである。資産が増えれば増えるほどそこから得られるリターンは大きくなる。したがって、何よりも資産を増やすように動くのが、鉄道会社の事業の"王道"になっていたということである。

 しかし1990年代に入ると、民営化されたJR各社が旧・国鉄の設備を生かして大攻勢を掛け始める。そんな中、関西の私鉄は、モータリゼーションの進展や沿線人口の減少など社会構造の変化もあり、各社とも一転して設備が過剰になるケースが目立つようになってきた。一例として、近鉄はここ30年で半分近い旅客減となっている。

 そしていま、東証から資本コストを意識した経営を求められるようになり、相対的に資本効率の悪いビジネスと捉えられがちな鉄道会社の評価は悪化している。JR東海 <9022>は東海道新幹線を非常に効率的に運営して、高い収益を上げている。一方、24年度に入って関西圏の鉄道セクターの株価は、阪急阪神HDや京阪電鉄HD、近鉄GHDとも軒並み下がっているのである。

 筆者は個人投資家向けのアナリストなのでよく理解できない部分もあるのだが、機関投資家が求めていることと鉄道会社の経営陣にギャップが存在しているように感じる。資本コストの問題はもっともな指摘だと思うのだが、筆者が得意とするゲームや電子部品セクターでは、ここまで資本コストの話題が出ることはない。機関投資家は鉄道セクターの資産効率性だけを評価の対象にしているようで、他の課題がなおざりになっていることは残念である。

●鉄道会社が有望だと考える二つの理由

 もう一つ、このセクターで資本コストの課題として挙げられているのが、各社の不動産事業である。そもそも不動産賃貸事業は非常に利益率が高いのだが、資産計上されているので資本効率という面では悪く見えてしまう。これを売却してオフバランス(財務諸表から除外)することで、効率化して欲しいというのである。そして、増やした現金を株主に還元し、借り入れを増やして不動産開発をすれば、成長を図れるという考えが提案されている。

 この考えは一理あるが、いくつか問題があるように思う。一つはまず、不動産開発には相応の時間がかかるということである。ゲームの開発もそうだが、ひと昔前と比べて、プロジェクトを終えるまでに非常に時間がかかるようになっている。今の状況を考えれば、一年では新規の大型ビルやマンションを建設することは不可能である。

 つまり開発した物件を、毎年安定的に売却することができない可能性が高まっているのだ。となると、毎年の業績がブレてしまうことにつながる。理論的になりすぎるので詳細は触れないが、業績のボラティリティ(変動率)増加は資本コストの増加に直結するので矛盾が起こる。

 もう一つの難点は、借り入れを行った時点ではROE(自己資本利益率)が下がってしまうことだ。これは、投下した資金が生み出す利益が減少するということなのだが、あまり考慮されていないように感じるのである。機関投資家の視点はアナリストとしてよく理解できるのだが、問題点も多いと思う。そこで筆者としては、「株探」ユーザーの個人投資家に向け、逆手に取った考えを紹介したい。

 結論から述べると、鉄道セクターはかなり有望な投資先だと思うのである。これには主に二つの理由がある。まず一つ目は、鉄道会社はリスクを抑えた経営を行っているので、存続可能性が高いということだ。長期に存続できるのであれば配当と株主優待を長期にわたって得ることが可能になる。実際、JR東日本 <9020> 、JR西日本 <9021> 、JR東海に加えてJR九州 <9142>といったJR上場各社には、広範囲に使える株主優待がある。それ以外の私鉄でも、在阪の鉄道会社はもちろん、東急 <9005>京成電鉄 <9009>東武鉄道 <9001>、京浜急行電鉄といった各社でも、地域ローカルにはなるが居住地域の移動手段として利用する優待が使えるのである。

 機関投資家にとって、株主優待の特典は意味がない。だが個人投資家は違う。鉄道を利用する機会が多い人にとっては、各社の株主優待は魅力的だと言える。個人投資家の皆さんは、アナリストや機関投資家が重視しない、このような考え方もあることを、ぜひ知っておいて欲しいものである。

●資産に頼らない鉄道会社の新しい経営スタイルとは

 そのうえで筆者からは、鉄道会社には資産に頼らないビジネスの創出を提案したい。このコラムでも何度か取り上げたが、まず2023年と24年に、ANYCOLOR(エニーカラー) <5032> 運営のバーチャルライバーグループ「にじさんじ」 所属の周央サンゴさんとのコラボレーションが、大きな成功を収めた近鉄グループの志摩スペイン村の例を伝えたい。

 このイベントでは人気Vチューバーの等身大パネルやプリントシール機、グッズ、食品など、志摩スペイン村でしか手に入らないものを提供することで大いに成功を収めた。24年上期にはポケットモンスターとのコラボも行われて、大いに集客につながったとしている。筆者の推計だが、志摩スペイン村は上期に10億円を超える営業利益になったと見ている。長らく利益貢献を果たせなかった志摩スペイン村が、人気Vチューバーの宣伝効果によってここまで改善できたのだ。

 筆者から見ると、周央サンゴさん(2024年は壱百満天原サロメさんも)の等身大パネルがあるだけで集客できるのは、もはや寺社仏閣と変わらない。このような知的財産は資産計上されていないので非常に効率が良い。実際、エニーカラーのROEは50%を超えている。

 このような知的財産をうまく活用できれば、鉄道会社が課題としている資産効率の低さを大きく変えられると思うのである。分かりやすい例は阪神タイガースという人気コンテンツを有し、利益も出している阪急阪神ホールディングスだ。

 これらの点を考えると、JR九州は実に惜しいと思うのである。同社は子会社の博多シティ(博多駅の駅ビルを運営している)で、羽形モモさんがVチューバー活動を行っているが、動画を見ていると博多に活動が限定されてしまっている。JR九州のキャラクターではなく、駅ビルのIPに留まっているのは残念である。

 筆者は鉄道会社と知的財産は相性が良いと考えている。JR九州には「櫻燕隊(おうえんたい)」という演舞を行う社員によるチームがあり、海外も含めて高く評価されている。お堅いイメージが強い鉄道会社の経営スタイルだが、こうした資産計上されない人的資本を活用して、ぜひ、新しいスタイルを確立して欲しいものである。

【著者】
安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
東洋証券アナリスト 

1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、同社アナリストとなる。忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。


株探ニュース
配信元: 株探

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