*14:37JST ワコム Research Memo(7):次の「Wacom Chapter 4」での成長加速に向け、構造改革を推進
■中期経営方針「Wacom Chapter 3」アップデート(改編)の進捗
1. 基本的な方向性とこれまでの経緯
ワコム<6727>は、4ヶ年の中期経営方針「Wacom Chapter 3」(2022年3月期~2025年3月期)に沿った取り組みを推進してきた。「ライフロング・インク」のビジョン※1を継承し、改めて「5つの戦略軸」を設定したうえで、その実行に当たって「6つの主要技術開発軸」を定め、具体的な価値提供と持続的な成長につなげる方針である※2。特に既存技術と親和性の高いAI、XR、セキュリティの3分野※3を選択し、新コア技術と新しいビジネスモデルで新しい価値提供を目指すことが戦略の目玉となっている。また、コーポレート・ガバナンス改革等を通じた経営の質の向上、同社独自のアプローチによる社会・コミュニティへの関わりにも取り組む方針であり、これらの基本的な方向性(ストーリーライン)に見直しはない。
※1 「お客様と社会に対して、同社の技術に基づく『人間にとって意味のある体験』を長期の時間軸で、ご提供し続けていきます」というもの。
※2 「5つの戦略軸」(テクノロジー・リーダーシップ、コミュニティ・エンゲージメント、新しいコア技術/新しい価値創造、持続可能な社会へ貢献する技術革新、人間と社会にとって意味深い成長)や、「6つの主要技術開発軸」(ペンの技術、ペンと紙の技術、デジタルインク技術、AIとデジタルインク技術、XR描画技術、セキュリティ認証技術)を含む、「Wacom Chapter 3」(アップデートプラン)の全体像に関する解説については、本レポートでは説明を省く。
※3 新たにリモートが追加。
ただ、足元の経済環境の悪化に伴う急激な消費者センチメントの低下などにより、「ブランド製品事業」の業績が想定以上に落ち込んだことに加え、商品ポートフォリオや販路マネジメントの強化など同社自身の体制にも改善すべき余地があることから、後半2年間(2024年3月期~2025年3月期)を次のWacom Chapter 4での事業成長につなげるための「事業構造変革期間」と位置付け、粗利改善や成長基盤の構築に注力する方針(アップデートプラン)を打ち立てた(2023年5月公表)。さらに「ブランド製品事業」についてはもう一段の追加構造改革が必要であると判断し、アップデートプランの改編を発表した※。
※コロナ禍の期間に発生した「需要先食い」の解消が見込みよりも遅れていること、2) 特定地域(中国など)では、全体市況として消費者による買い控えが継続していること、3) ペンタブレット製品のエントリーゾーンにおいては、ペンタブレット製品以外の選択肢が多様化しており、他カテゴリーへ需要が若干シフトする傾向が発生していることなどが改編に至った背景である。
2. アップデートプラン(改編)の進捗(2024年4月時点)
(1) 市場環境の直近トレンド
1) ブランド製品事業
創作ワークフローのDXに伴い同社製品の潜在的な重要度は高くなっているものの、プロ向け制作ワークフローの技術インフラが次々と更新されるなかで、同社製品の買い替え優先度が相対的に下がり、調達サイクルの長期化が見られる。エントリーゾーンでは、他カテゴリー(iPad等)へ需要がシフトする傾向が進行している。特定地域(中国等)での買い控え傾向についても継続中であり、コロナ禍における需要先食いは解消方向にあるものの、厳しい状況が続いている。
2) テクノロジーソリューション事業
スマートフォン市場全体は微増なるも、高付加価値・高機能モデル群の成長が見込まれている。一方、PC・タブレット市場は回復基調にあるものの、ペン搭載モデル需要は顧客ごとにトレンドが異なる。電子ペーパー技術を使った電子書籍や電子ノート向けの需要は今後も高まっていくことが予想されている。
(2) アップデートプラン(改編)の概要と進捗
1) 商品ポートフォリオの刷新の粗利改善(ブランド製品事業)
i) 新しい付加価値提供(エントリーからプロまで)、ii) 粗利改善の価格政策、iii) VE(Value Engineering)による原価構造改善に取り組んでいる。i) については、新しい付加価値提供する商品ポートフォリオを順次導入中であり、第3四半期には2モデルの新製品を導入した。2024年4月に新ユースケースを形成する新製品※も導入している。ただii) については、値上げによる粗利益率の改善は一部実現できたものの、在庫削減プロモーションによる粗利減により改善効果が薄まった。以上から、同社自身による進捗評価は「改善未達」となっている。
※「ポータブルCreative」(持ち運び可能なdrawing特化体験)を形成する「Movink」。
2) 集中領域で事業構築(ブランド製品事業)
i) クリエイティブ領域への集中、ii) 新創作ワークフロー対応(仮想化/遠隔化)、iii) ソリューション型付加価値提供体制への変革に取り組んでいる。i) については、様々なクリエイティブ教育の案件に取り組み中である※1。ii) についても、リモートソリューションの商用版を正式導入した※2。iii) については、ソリューション型価値提供の体制を地域ごとに検討中である。以上から、同社自身による進捗評価は「推進中」となっている。
※1 フロリダ州職業訓練校への導入や(株)KENAZとの連携によるWebtoon作家育成のための教育プログラム、専門学校HAL(東京、大阪、名古屋)への導入など。
※2 2024年1月にクラウド環境/リモート環境向けのソリューション「Wacom Bridge」を商用導入開始した。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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1. 基本的な方向性とこれまでの経緯
ワコム<6727>は、4ヶ年の中期経営方針「Wacom Chapter 3」(2022年3月期~2025年3月期)に沿った取り組みを推進してきた。「ライフロング・インク」のビジョン※1を継承し、改めて「5つの戦略軸」を設定したうえで、その実行に当たって「6つの主要技術開発軸」を定め、具体的な価値提供と持続的な成長につなげる方針である※2。特に既存技術と親和性の高いAI、XR、セキュリティの3分野※3を選択し、新コア技術と新しいビジネスモデルで新しい価値提供を目指すことが戦略の目玉となっている。また、コーポレート・ガバナンス改革等を通じた経営の質の向上、同社独自のアプローチによる社会・コミュニティへの関わりにも取り組む方針であり、これらの基本的な方向性(ストーリーライン)に見直しはない。
※1 「お客様と社会に対して、同社の技術に基づく『人間にとって意味のある体験』を長期の時間軸で、ご提供し続けていきます」というもの。
※2 「5つの戦略軸」(テクノロジー・リーダーシップ、コミュニティ・エンゲージメント、新しいコア技術/新しい価値創造、持続可能な社会へ貢献する技術革新、人間と社会にとって意味深い成長)や、「6つの主要技術開発軸」(ペンの技術、ペンと紙の技術、デジタルインク技術、AIとデジタルインク技術、XR描画技術、セキュリティ認証技術)を含む、「Wacom Chapter 3」(アップデートプラン)の全体像に関する解説については、本レポートでは説明を省く。
※3 新たにリモートが追加。
ただ、足元の経済環境の悪化に伴う急激な消費者センチメントの低下などにより、「ブランド製品事業」の業績が想定以上に落ち込んだことに加え、商品ポートフォリオや販路マネジメントの強化など同社自身の体制にも改善すべき余地があることから、後半2年間(2024年3月期~2025年3月期)を次のWacom Chapter 4での事業成長につなげるための「事業構造変革期間」と位置付け、粗利改善や成長基盤の構築に注力する方針(アップデートプラン)を打ち立てた(2023年5月公表)。さらに「ブランド製品事業」についてはもう一段の追加構造改革が必要であると判断し、アップデートプランの改編を発表した※。
※コロナ禍の期間に発生した「需要先食い」の解消が見込みよりも遅れていること、2) 特定地域(中国など)では、全体市況として消費者による買い控えが継続していること、3) ペンタブレット製品のエントリーゾーンにおいては、ペンタブレット製品以外の選択肢が多様化しており、他カテゴリーへ需要が若干シフトする傾向が発生していることなどが改編に至った背景である。
2. アップデートプラン(改編)の進捗(2024年4月時点)
(1) 市場環境の直近トレンド
1) ブランド製品事業
創作ワークフローのDXに伴い同社製品の潜在的な重要度は高くなっているものの、プロ向け制作ワークフローの技術インフラが次々と更新されるなかで、同社製品の買い替え優先度が相対的に下がり、調達サイクルの長期化が見られる。エントリーゾーンでは、他カテゴリー(iPad等)へ需要がシフトする傾向が進行している。特定地域(中国等)での買い控え傾向についても継続中であり、コロナ禍における需要先食いは解消方向にあるものの、厳しい状況が続いている。
2) テクノロジーソリューション事業
スマートフォン市場全体は微増なるも、高付加価値・高機能モデル群の成長が見込まれている。一方、PC・タブレット市場は回復基調にあるものの、ペン搭載モデル需要は顧客ごとにトレンドが異なる。電子ペーパー技術を使った電子書籍や電子ノート向けの需要は今後も高まっていくことが予想されている。
(2) アップデートプラン(改編)の概要と進捗
1) 商品ポートフォリオの刷新の粗利改善(ブランド製品事業)
i) 新しい付加価値提供(エントリーからプロまで)、ii) 粗利改善の価格政策、iii) VE(Value Engineering)による原価構造改善に取り組んでいる。i) については、新しい付加価値提供する商品ポートフォリオを順次導入中であり、第3四半期には2モデルの新製品を導入した。2024年4月に新ユースケースを形成する新製品※も導入している。ただii) については、値上げによる粗利益率の改善は一部実現できたものの、在庫削減プロモーションによる粗利減により改善効果が薄まった。以上から、同社自身による進捗評価は「改善未達」となっている。
※「ポータブルCreative」(持ち運び可能なdrawing特化体験)を形成する「Movink」。
2) 集中領域で事業構築(ブランド製品事業)
i) クリエイティブ領域への集中、ii) 新創作ワークフロー対応(仮想化/遠隔化)、iii) ソリューション型付加価値提供体制への変革に取り組んでいる。i) については、様々なクリエイティブ教育の案件に取り組み中である※1。ii) についても、リモートソリューションの商用版を正式導入した※2。iii) については、ソリューション型価値提供の体制を地域ごとに検討中である。以上から、同社自身による進捗評価は「推進中」となっている。
※1 フロリダ州職業訓練校への導入や(株)KENAZとの連携によるWebtoon作家育成のための教育プログラム、専門学校HAL(東京、大阪、名古屋)への導入など。
※2 2024年1月にクラウド環境/リモート環境向けのソリューション「Wacom Bridge」を商用導入開始した。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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