・9月に催された「日立ソーシャルイノベーション」(展示フォーラム)で、小島社長は、日立製作所<6501>が目指すイノベーションの未来についてプレゼンした。ライト兄弟の例を引きながら、知恵の掛け算からイノベーションは生まれる、と強調した。何よりも「意志」を持って、①情報、②行動、③科学を掛け算で回していく。
・イノベーションの領域として、1)バイオ、2)生成AI、3)量子コンピュータをあげた。人々の寿命を延伸し、情報処理のスピードを圧倒的に高め、新しいサイエンスの知見を活かしていく。
・生成AIは、LLM(大規模言語モデル)がこの5年で急速に進展し、そのパラメータが数千億個超えてきたところから様変わりし、インパクトを持ってきた。探し出して、まとめてくれるだけでなく、答えがないような質問にも新しいアイディアを出して、知的作業を補助してくれる。
・教訓、匠の技、暗黙知なども引き出してくれる。課題は、1)信頼性、2)著作権、3)倫理にある。加えて、4)省エネも問われる。ビッグデータを扱うデータセンターの消費電力は、2030年には6倍(2010年比)にもなりそうなので、再エネの利用は必須である。
・生成AIだけではイノベーションは生まれない。人の意志と行動力こそが鍵であり、日立は「良きものに力を与えていく(Powering Good)」ことを実践すると語った。
・では、マネジメントはどうか。小島社長のインタビュー記事(日本取締役協会「コーポレートガバナンス」2023年8月号)は、まことに興味深い。本音で語っている。筆者がこれまで感じていたことを、自らの言葉で簡潔に説明された。そのエッセンスを取り上げてみたい。
・中西元社長が語っていたという。大企業か中小企業かという分類は意味がない。成長するかしないか、よい企業かよくない企業か、が問われる。そこで、日立は成長するよい企業になると決めた。なるほど、中西氏らしい合理性を示している。
・日本人中心の経営に拘っては、グローバルに通用する企業にはなれない。変わりにくい会社を変えるには、ガバナンス改革が決め手となった。日立は何の会社か。分かりにくい。「この木なんの木、気になる木」の歌が示すように、枝を伸ばし、枝を切りとり、新しい芽や花をつけて、変わりながら成長していく。これが日立であるという。
・選択と集中で上場子会社22社をゼロにした。企業のパーパスを「社会イノベーション」と定義して、この1つに集中した。ワンパーパスにフィットする会社は、グループに100%取り込み、そうでない会社はグループから外れて、別のパーパスで自立した方がよい。明確なポートフォリオの入れ替えを実施した。
・グローバルロジック(GlobalLogic)を約1兆円で買収した。その後のPMI(買収後の経営統合)では、シナジーが発揮できるように、取締役会に小さな統合のためのアドバイザリーボードを作って、デジタルに詳しい社外取締役と執行サイドでその進捗をモニターし、助言も得た。
・後継者はどう指名されるのか。執行サイドは人を育てて、候補者を数多く作る。その情報を指名委員会に提供する。社外中心の指名委員会が次期社長を選任する。
・小島社長は、R&D、Lumada(ルマーダ:AI)、デジタルの出身である。まさに、日立が目指すITトランスフォーメーションにぴったりの経営トップである。自らがCEOになったら何をやるか、指名委員会で何度も議論してきたという。
・適任者が的確に選ばれるには、豊富に選ぶ対象がいて、その人達の情報が十分あれば、指名委員会がまちがいなく選べると小島社長は強調した。
・社外取締役はどのように選ぶのか。CEOは、友だちがほしいわけではない。異なる理由から違う意見を言ってくれる人、厳しい助言をくれる人が必要とされる。
・この人は日立の企業価値を上げるために役立ってくれるか。この1点から指名委員会は人選していく。実際、日本を代表するトップアナリストであった山本氏も社外取締役に入って大きく貢献している。
・取締役会で何を議論するか。そのテーマ設定については、執行サイドから独立した取締役室が事務局となっている。取締役会議長は社外取であり、代表執行役の社長と議論しながら議題設定をしていく。
・小島社長がリードして策定した中期計画も、取締役会で何度も議論した。1)約束は小さくして達成は大きくというスタンスをとるか、2)より高い目標に大いにチャレンジすべしというスタンスをとるか、意見はぶつかった。
・結果として、平均よりは少しアグレッシブな方向で決着した。取締役会は、小島社長にとって、テニスの壁打ちのようなものであるという。
・執行サイドでは、経営会議の中に、2022年度から1)リスクマネジメント会議、2)成長戦略会議、3)人材戦略会議を設置して、ここで議論した後に、取締役にかけている。
・小島社長になってから、日立の経営革新は、「構造改革モード」から「サステナブル成長モード」に入ったと自ら語っている。まさにSX(サステナブルトランスフォーメーション)で日本をリードしている。
・従来のカラを破るような経営トップが、川村氏、中西氏、東原氏と排出している。筆者は、「社会イノベーション」を追求すると宣言した時、初めは何をいっているか、理解できなかった。
・社会イノベーションという一般名称が日立の固有語になるには、そのコンテンツの肉付けが必要であった。それが毎年のイベント「日立ソーシャルイノベーション」でのプレゼンや展示をみていると、次第に理解できるようになった。
・ガバナンスを改革して企業は変わるのか。この設問に対して、日立の実践はまさに成功事例である。では、日立は例外なのか。そうではない。革新的なリーダーが組織能力を高めるところまで走れば、企業の革新はできる。
・すでに日立の先例がある。そうならば、多くの企業も自信を持って取り組めるはずである。他社との競争ばかりにお目を奪われるのではなく、自社の内部組織をあるべき姿に作り変えてほしい。
・これは意外に手間で、成果も見えにくい。当初は先行投資を伴う。日立に続く企業が次々に離陸してくることを期待したい。そういう企業群のポートフォリオを早めに作っていきたい。
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