*14:06JST ワコム Research Memo(6):2025年3月期のROICは10%以上、ROEは10%~15%程度を目指す
■ワコム<6727>の中期経営方針「Wacom Chapter 3」のアップデート
(8) デジタルインクサービスの立ち上げと投資(「全社共通」)
既存の「ブランド製品事業」及び「テクノロジーソリューション事業」に加えて新たに「デジタルインクサービス」を立ち上げる。これら3つの価値提供は、同根の技術開発投資の中から生まれるものであり、既存の2事業が相互レバレッジを掛けながら成長するとともに、新たな「デジタルインクサービス」が前者のハードビジネスの伸長にも貢献するねらいである。特にAI、XR、セキュリティの3つの新コア分野でのサービスやリモート環境でのソリューション提供に取り組んでおり、2024年3月期から商用サービス実装を開始するとともに、次の「Wacom Chapter 4」での本格展開を目指す。
3. 財務方針のガイドライン(更新後)
2023年3月期の業績が下振れたこと、今後2年間を「事業構造変革期間」と位置付けたことに伴い、ROIC及びROEの目標を引き下げた。「ブランド製品事業」の粗利改善を進めることにより、2025年3月期のROICは10%以上への回復を目指す。また、資本効率を示すROEについても10%~15%程度を想定している(2023年3月期のROICは3.7%、ROEは4.3%にそれぞれ大きく低下している)。
4. 「5つの戦略軸」と「6つの主要技術開発軸」
「Wacom Chapter 3」の方向性(ストーリーライン)のベースとなっている「5つの戦略軸」と、その実行に当たっての「6つの主要技術開発軸」については、以下のとおりである。
(1) 5つの戦略軸
a) テクノロジー・リーダーシップ
引き続き、同社の提供価値の源泉である技術革新に注力し、圧倒的な技術優位を維持・展開する戦略である。これまで、クリエイティブ(デジタルコンテンツ制作)や教育分野をはじめ、各種ワークフローDX(行政窓口手続き、書類申請、業務フローでのPDF書き込み、電子投票等)への寄与、様々な最新機種やデジタル文具等への搭載、スマートホームソリューションへの組み込みなどに取り組んできた。今後もハードウェア、ソフトウェア、サービスにまたがる技術開発により、デジタルで最高の「ペンと紙とインク体験」を提供する考えだ。
b) コミュニティ・エンゲージメント
コミュニティ(パートナー)と深く連携し、価値ある体験を形成する戦略である。具体的には、ピクシブ(株)との共同による大規模オンライン作画フェスの開催、教育分野などで広く導入されているChromebook対応認定商品やアンドロイド対応、リモート環境での創作ワークフローの構築などで様々な連携を図っている。
c) 新しいコア技術、新しい価値創造
既存のコア技術に加え、新しいコア技術をもとに新しい価値を創造する戦略である。既存技術と親和性の高いAI、XR、セキュリティの3分野を選択し、新コア技術と新しいビジネスモデルで新しい価値提供を実現する考えだ。例えば、デジタルインクとAIによる新しい教育体験※1の創造や、ブロックチェーン証明による著作権の保護※2、XR空間での描画体験※3などについては、すでに他社との協業によりプロジェクトが動いている。
※1 Z会グループとの教育分野における「手書き×デジタル」の利用に向けた包括的な業務提携契約を締結したほか、エスディーテック(株)とは「手書き×デジタル」のAI利活用に向けた共同開発などに取り組んでいる。
※2 デジタル署名認証技術を用いて、デジタルアート作品やその証明書に署名を組み込んで作品証明とし、制作者の権利を保全して流通させる仕組み。
※3 複数・遠隔地のクリエイターとの共同作業や2Dと3Dを自由に行き交う新たなクリエーション体験など。
d) 持続可能な社会へ貢献する技術開発
環境ケアに貢献する技術開発と商品開発により、持続可能な社会発展への貢献を目指している。気候変動イニシアティブ(JCI)への参加に始まり、TCFDへの賛同とその情報開示、そしてCDPスコア開示も実施している。また環境ケア技術開発部門の設置により、リサイクル可能なPCRプラスチックやアルミの使用率を高めた環境配慮の製品開発などサステナビリティを意識した技術革新も進めている。また「使い続けていく」ことを体現する企業活動にも取り組んでおり、例えば、廃材で作られた「コネクテッド・インク」※で使用されたステージを家具へ再利用する団体の活動支援なども行っている。
※同社が主催するオープンイベントであり、東京、北京、デュッセルドルフ、ポートランド等の会場で毎年開催している。人間の創造性の源に思いを馳せ、アート、教育、テクノロジーなど多様な領域のパートナーと共創する「創造的混沌」がテーマとなっている。同社のコミュニティエンゲージメント(社会への貢献)が体験できるイベントであり、同イベントで紹介したプロジェクト以外にもパートナーとの様々な取り組みや同社の新たな挑戦を垣間見ることができる。「コネクテッド・インク2022」の内容は同イベントのホームページから閲覧できるようにしている。
e) 意味深い成長
経済的な成長(財務側面)をしっかり確保しながら、顧客・ユーザー、社会・コミュニティ、関連する個人など多面的側面での「意味深い成長」を模索する方針であり、長期的な視点での持続的な成長を目指す。
(2) 6つの主要技術開発軸と具体的な価値例
a) ペンの技術(現行コア技術/現行ビジネスモデル)
同社の提供価値の源泉であるデジタルペンの技術をさらに発展させ、環境ケア型商品を含む新商品群の導入を目指す。
b) ペンと紙の技術(現行コア技術/現行ビジネスモデル)
あらゆる「紙」との連携(ディスプレイ、アプリ)により、新たな顧客群の開拓に取り組む。
c) デジタルインク技術(現行コア技術/現行ビジネスモデル)
データフォーマットやアプリ連携、クラウド対応などにより、クリエイティブや教育分野などでリモートDX体験を提供する。
d) AIとデジタルインク技術(新コア技術/新ビジネスモデル)
AIとインク連携サービスを実現するプラグイン開発により、個別最適化教育や創作支援サービスなどへ発展させる。
e) XR描画技術(新コア技術/新ビジネスモデル)
XR空間での3D描画技術により、クリエイティブ、教育、建築、医療等向けに新しい3D描画ワークフローを提供する。
f) セキュリティ認証技術(新コア技術/新ビジネスモデル)
手書きによる個人認証技術により、クリエイティブ、医療等向けに個人認証や著作権保護サービスを提供する。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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(8) デジタルインクサービスの立ち上げと投資(「全社共通」)
既存の「ブランド製品事業」及び「テクノロジーソリューション事業」に加えて新たに「デジタルインクサービス」を立ち上げる。これら3つの価値提供は、同根の技術開発投資の中から生まれるものであり、既存の2事業が相互レバレッジを掛けながら成長するとともに、新たな「デジタルインクサービス」が前者のハードビジネスの伸長にも貢献するねらいである。特にAI、XR、セキュリティの3つの新コア分野でのサービスやリモート環境でのソリューション提供に取り組んでおり、2024年3月期から商用サービス実装を開始するとともに、次の「Wacom Chapter 4」での本格展開を目指す。
3. 財務方針のガイドライン(更新後)
2023年3月期の業績が下振れたこと、今後2年間を「事業構造変革期間」と位置付けたことに伴い、ROIC及びROEの目標を引き下げた。「ブランド製品事業」の粗利改善を進めることにより、2025年3月期のROICは10%以上への回復を目指す。また、資本効率を示すROEについても10%~15%程度を想定している(2023年3月期のROICは3.7%、ROEは4.3%にそれぞれ大きく低下している)。
4. 「5つの戦略軸」と「6つの主要技術開発軸」
「Wacom Chapter 3」の方向性(ストーリーライン)のベースとなっている「5つの戦略軸」と、その実行に当たっての「6つの主要技術開発軸」については、以下のとおりである。
(1) 5つの戦略軸
a) テクノロジー・リーダーシップ
引き続き、同社の提供価値の源泉である技術革新に注力し、圧倒的な技術優位を維持・展開する戦略である。これまで、クリエイティブ(デジタルコンテンツ制作)や教育分野をはじめ、各種ワークフローDX(行政窓口手続き、書類申請、業務フローでのPDF書き込み、電子投票等)への寄与、様々な最新機種やデジタル文具等への搭載、スマートホームソリューションへの組み込みなどに取り組んできた。今後もハードウェア、ソフトウェア、サービスにまたがる技術開発により、デジタルで最高の「ペンと紙とインク体験」を提供する考えだ。
b) コミュニティ・エンゲージメント
コミュニティ(パートナー)と深く連携し、価値ある体験を形成する戦略である。具体的には、ピクシブ(株)との共同による大規模オンライン作画フェスの開催、教育分野などで広く導入されているChromebook対応認定商品やアンドロイド対応、リモート環境での創作ワークフローの構築などで様々な連携を図っている。
c) 新しいコア技術、新しい価値創造
既存のコア技術に加え、新しいコア技術をもとに新しい価値を創造する戦略である。既存技術と親和性の高いAI、XR、セキュリティの3分野を選択し、新コア技術と新しいビジネスモデルで新しい価値提供を実現する考えだ。例えば、デジタルインクとAIによる新しい教育体験※1の創造や、ブロックチェーン証明による著作権の保護※2、XR空間での描画体験※3などについては、すでに他社との協業によりプロジェクトが動いている。
※1 Z会グループとの教育分野における「手書き×デジタル」の利用に向けた包括的な業務提携契約を締結したほか、エスディーテック(株)とは「手書き×デジタル」のAI利活用に向けた共同開発などに取り組んでいる。
※2 デジタル署名認証技術を用いて、デジタルアート作品やその証明書に署名を組み込んで作品証明とし、制作者の権利を保全して流通させる仕組み。
※3 複数・遠隔地のクリエイターとの共同作業や2Dと3Dを自由に行き交う新たなクリエーション体験など。
d) 持続可能な社会へ貢献する技術開発
環境ケアに貢献する技術開発と商品開発により、持続可能な社会発展への貢献を目指している。気候変動イニシアティブ(JCI)への参加に始まり、TCFDへの賛同とその情報開示、そしてCDPスコア開示も実施している。また環境ケア技術開発部門の設置により、リサイクル可能なPCRプラスチックやアルミの使用率を高めた環境配慮の製品開発などサステナビリティを意識した技術革新も進めている。また「使い続けていく」ことを体現する企業活動にも取り組んでおり、例えば、廃材で作られた「コネクテッド・インク」※で使用されたステージを家具へ再利用する団体の活動支援なども行っている。
※同社が主催するオープンイベントであり、東京、北京、デュッセルドルフ、ポートランド等の会場で毎年開催している。人間の創造性の源に思いを馳せ、アート、教育、テクノロジーなど多様な領域のパートナーと共創する「創造的混沌」がテーマとなっている。同社のコミュニティエンゲージメント(社会への貢献)が体験できるイベントであり、同イベントで紹介したプロジェクト以外にもパートナーとの様々な取り組みや同社の新たな挑戦を垣間見ることができる。「コネクテッド・インク2022」の内容は同イベントのホームページから閲覧できるようにしている。
e) 意味深い成長
経済的な成長(財務側面)をしっかり確保しながら、顧客・ユーザー、社会・コミュニティ、関連する個人など多面的側面での「意味深い成長」を模索する方針であり、長期的な視点での持続的な成長を目指す。
(2) 6つの主要技術開発軸と具体的な価値例
a) ペンの技術(現行コア技術/現行ビジネスモデル)
同社の提供価値の源泉であるデジタルペンの技術をさらに発展させ、環境ケア型商品を含む新商品群の導入を目指す。
b) ペンと紙の技術(現行コア技術/現行ビジネスモデル)
あらゆる「紙」との連携(ディスプレイ、アプリ)により、新たな顧客群の開拓に取り組む。
c) デジタルインク技術(現行コア技術/現行ビジネスモデル)
データフォーマットやアプリ連携、クラウド対応などにより、クリエイティブや教育分野などでリモートDX体験を提供する。
d) AIとデジタルインク技術(新コア技術/新ビジネスモデル)
AIとインク連携サービスを実現するプラグイン開発により、個別最適化教育や創作支援サービスなどへ発展させる。
e) XR描画技術(新コア技術/新ビジネスモデル)
XR空間での3D描画技術により、クリエイティブ、教育、建築、医療等向けに新しい3D描画ワークフローを提供する。
f) セキュリティ認証技術(新コア技術/新ビジネスモデル)
手書きによる個人認証技術により、クリエイティブ、医療等向けに個人認証や著作権保護サービスを提供する。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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