S&P500月例レポート(23年5月配信)<前編>

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最新投稿日時:2023/06/07 11:40 - 「S&P500月例レポート(23年5月配信)<前編>」(みんかぶ株式コラム)

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S&P500月例レポート(23年5月配信)<前編>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET:2023年4月
個人的見解:企業業績を受けて株価が続伸する一方で、出来高とボラティリティは低下

 戦線が敷かれました。といっても、バイデン対トランプではなく、フロリダ州知事(ロン・デサンティス氏)対ウォルト・ディズニーでもなく、デフォルト対債務上限でもなく、ファースト・リパブリック・バンク(※注:5月1日に経営破綻)対同行の預金者でもなく、ましてや人工妊娠中絶をめぐる反対派対賛成派の戦いでもありません。ここで言う戦いとは、リセッション(景気後退)対プルバック(揺り戻し)の戦いです。景気が減速する一方で、コストプッシュ型インフレが高止まりしている影響で企業利益は許容範囲内の水準を維持しており、直前に予想が引き下げられていたこともあって、決算内容は予想を上回る結果となっています。雇用が堅調な一方で、人員削減の流れも続いていますが、雇用水準全体との相対比較や過去数年の雇用の増加を勘案した場合、削減の発表件数は多いものの、削減数はそれほどでもないようです。

 結果的に、4月の市場はもみ合いの展開となり、最終的に1.46%上昇して月を終えました。2月から反発した3月の3.51%上昇に続く上げで、年初来では8.59%上昇となりました。市場は、米連邦準備制度理事会(FRB)があと1回だけ利上げを行い、有終の美を飾ることを容認しているようで、先物市場が示唆する5月2-3日の連邦公開市場委員会(FOMC)での0.25%の利上げの確率は85%となっています。とはいえ、利上げ終了はあくまで今サイクルの話であり、今後10年以内に利上げ局面は再び訪れるでしょう。

 現時点では、あと1回で利上げ終了(一時停止ではありません)というのが大方の見方であり、今や市場の関心は利下げの開始時期に移っています。FRBのドットチャートは2024年の利下げ開始を示唆していますが、そんなに先の話になると思っている人はいません。FRBが利上げを終了する可能性が高まる中(決定ではありませんが)、次の注目のテスト問題は、債務上限と政府支出をめぐる議論でしょう。市場は、ゲーム理論から「Xデー」の答えを導き出そうとしていますが、これは公式な最善意思決定理論とは何の関係もなく、実際には財務省の「調整」と「定義」によって大きく左右されます。現時点において、デフォルトや政府機関の閉鎖を予想する見方はほとんどなく、「Xデー」の1週間ほど前まで表立った政治的駆け引きが延々と続けられることになると思われます。しかし、最終的に政府支出が決定すれば、信用や税の状況、ひいては企業利益に影響が及び、勝ち組と負け組が出るでしょう。

 4月の市場はボラティリティが大幅に低下し、S&P500指数は月の大半で月初来リターンがマイナスとなっていましたが、最終的に1.46%上昇して月を終えました。値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を上回り、値上がり銘柄数は266銘柄(うち5%以上上昇した銘柄は102銘柄)、値下がり銘柄数は235銘柄(うち5%以上下落した銘柄は89銘柄)でした。年初来のリターンは8.59%となり、値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を上回っています。値上がり銘柄数は291銘柄(うち10%以上上昇した銘柄は136銘柄)、値下がり銘柄数は212銘柄(うち10%以上下落した銘柄は76銘柄)でした。

 4月は11セクターのうち8セクターが上昇し、騰落率が最高となったのはコミュニケーション・サービスで3.56%上昇、最低は資本財・サービスで1.22%下落しました。年初来では11セクターのうち7セクターが上昇しており、最高はコミュニケーション・サービスの24.46%上昇、最低は金融の3.21%下落となっています。S&P500指数の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)の4月の平均値は0.92%となり、3月の1.51%から低下しました。日中の変動率が1%以上となった日数は19営業日中7日でした(3月は14日)。4月の出来高は前月比で24%減少しました。

 スピードの恐ろしさを信じるならば、2008年にワシントン・ミューチュアルは、9日間で167億ドルの預金が流出しました。今回のシリコンバレーバンクに関しては、経営破綻した前日の3月9日に420億ドルの預金が引き出されました。

 4月の日中ボラティリティは3月の1.51%から0.92%に大幅に低下し(2月は1.41%)、年初来では1.31%となりました。2022年は1.83%、2021年は0.97%、2020年は1.51%でした。4月の出来高は、3月に前月比16%増加した後、24%減少し(営業日数調整後)、前年同月比では横ばいでした。2023年4月までの過去1年間の出来高は前年比19%増加しました。2022年は同6%の増加でした。

 4月に前日比で1%以上変動した日数は19営業日中3日(上昇が2日、下落が1日)、2%以上変動した日はありませんでした。3月は1%以上変動した日数は23営業日中11日(上昇が6日、下落が5日)、2%以上変動した日はありませんでした。2月は1%以上変動した日数は19営業日中9日(上昇が4日、下落が5日)でした。年初来では、1%以上変動した日数は81営業日中32日(上昇が18日、下落が14日)、2%以上変動した日数は2日(上昇が1日、下落が1日)でした。2022年は、1%以上変動した日数は122日(上昇が59日、下落が63日)、2%以上変動した日数は46日(上昇が23日、下落が23日)でした。2021年は、1%以上変動した日数は55日(上昇が34日、下落が21日)、2%以上変動した日数は7日(上昇が2日、下落が5日)でした。

 4月は19営業日中7日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上の変動はありませんでした(3月は23営業日中14日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上の変動が6日、3%以上の変動はありませんでした)。年初来では1%以上の変動が52日、2%以上の変動が12日、3%以上の変動はありませんでした(直近で3%の変動があったのは2022年11月30日)。2022年は1%以上の変動が218日、2%以上の変動が89日、3%以上の変動が20日、4%以上の変動が4日ありました。2021年は1%以上の変動が93日、3%以上の変動が3日ありました。

 過去の実績を見ると、4月は64.2%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.34%、下落した月の平均下落率は3.97%、全体の平均騰落率は1.37%の下落となっています。2023年4月のS&P500指数は、1.46%の上昇となりました。

 5月は58.9%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.07%、下落した月の平均下落率は4.68%、全体の平均騰落率は0.11%の下落となっています。

 今後の米連邦公開市場委員会FOMCのスケジュールは、2023年は5月2日-3日、6月13日-14日、7月25日-26日、9月19日-20日、10月31日-11月1日、12月12日-13日、となっています。

 S&P500指数は4月に1.46%上昇して4169.48で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス1.56%)。3月は4109.31で終え、3.51%の上昇(同プラス3.67%)、2月は3970.15で終え、2.61%の下落(同マイナス2.44%)でした。過去3ヵ月では2.28%の上昇(同プラス2.72%)、年初来では8.59%の上昇(同プラス9.17%)、過去1年のリターンはプラスに転じ0.91%の上昇(同プラス2.66%)でした。2022年は19.44%の下落(同マイナス18.11%)、2021年は26.89%の上昇(同プラス28.71%)、2020年は16.26%の上昇(同プラス18.40%)、2019年は28.88%の上昇(同プラス31.49%)、2018年は6.24%の下落(同マイナス4.38%)でした。

 2022年1月3日の高値からは13.07%の下落(同マイナス11.17%)、コロナ危機前の2020年2月19日の高値からは23.13%上昇(同プラス29.64%)でした。ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は4月に2.48%上昇して3万4098.16ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス2.57%)。3月は3万3274.15ドルで終え、1.89%の上昇(同プラス2.08%)、2月は3万2656.70ドルで終え、4.19%の下落(同マイナス3.94%)でした。2022年1月4日の高値(3万6799.65ドル)からは7.34%下落しました。年初来では2.87%の上昇(同プラス3.53%)、過去1年では3.40%の上昇(同プラス5.64%)、2022年は8.78%の下落(同マイナス6.86%)でした。

主なポイント

 ○市場の関心は3月に起きた金融不安から企業業績へ、そして月末には(下半期の)予想利益へと移っていきました。5月のFOMCでの0.25%の追加利上げは完全に織り込まれており、大半の市場関係者は5月を最後に利上げが打ち止めになると予想しています。

  ⇒4月のS&P 500指数の騰落率は1.46%の上昇となりました。3月は3.51%上昇し、2月は2.61%の下落でした。年初来では8.59%上昇しています(2022年の年間騰落率は19.44%下落、2021年は26.89%上昇、2020年は16.26%上昇)。

  ⇒4月の市場は、11セクターのうち8 セクターが上昇しました。3月は7セクターが上昇し、2月は1セクターのみが上昇しました(情報通信だけが0.29%上昇)。騰落率が4月に最高となったのはコミュニケーション・サービスで3.56%上昇しました(年初来では24.46%上昇)。最低となったのは資本財・サービスで1.22%下落しました(同1.77%上昇)。

  ⇒4月の値上がり銘柄数は266銘柄となり、3月(263銘柄)から僅かに増加しました。10%以上上昇した銘柄は22銘柄(3月は32銘柄)、20%以上上昇した銘柄は1銘柄(同7銘柄)でした。値下がり銘柄数は235銘柄(同240銘柄)、そのうち10%以上下落した銘柄は28銘柄(同53銘柄)、20%以上下落した銘柄は4銘柄(同14銘柄)でした。年初来でも値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を上回り、291銘柄が値上がり(20%以上上昇は47銘柄)、212銘柄が値下がりしました(20%以上下落は19銘柄)。

 ○市場全体で見ると、S&P500指数の時価総額は4月に5030億ドル増加し(年初来では1兆1190億ドル増)、34兆8440億ドル(2022年に時価総額は8兆2240億ドル減少)となりました。コロナ危機前の2020年2月19日との比較では6兆7810億ドル増加しています。

 ○人員削減計画の発表が続いています。マクドナルドはオフィス閉鎖に踏み切り、人員削減を含む事業再編計画を発表する可能性があります。スイスの新聞報道によると、UBSグループはクレディ・スイス・グループ買収に伴い、行員全体の最大30%に相当する人員削減に踏み切るとみられています(行員数はスイス国内で1万1000人、スイス国外で2万5000人)。食肉加工大手のタイソンフーズは管理職を15%、従業員を10%(現在の同社の管理職を含む全従業員数は14万2000人)削減する計画を公表しました。

 ○267社が2023年第1四半期の決算発表を終えました。そのうちの 205銘柄(76.8%)で営業利益が予想を上回り、265銘柄中192銘柄(72.5%)で売上高が予想を上回りました。

  ⇒2023年第1四半期の営業利益は前期比1.3%増、前年同期比3.4%増が見込まれていますが、2022年末時点での予想と比較すると4.4%低下しています。売上高は過去最高を記録した前期(2022年第4四半期)から3.9%の減少が見込まれています。消費者が買い控え、企業がコストの増加分の全てを消費者に転嫁できていない状況にあります。

  ⇒2023年第1四半期の営業利益率は2022年第4四半期の10.92%から上昇して11.51%となる見通しです(1993年以降の平均は8.29%、過去最高は2021年第2四半期の13.54%)。

利回り、金利、コモディティ

 ○米国10年国債利回りは3月末の3.48%から3.43%に低下して月末を迎えました(2022年末は3.88%、2021年末は1.51%、2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は 2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは3月末の3.66%から3.67%に上昇して取引を終えました(同3.97%、同1.91%、同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。

 ○英ポンドは3月末の1ポンド=1.2326ドルから1.2567ドルに上昇し(同1.2099ドル、同1.3525ドル、同1.3673ドル、同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは3月末の1ユーロ=1.0840ドルから1.1017ドルに上昇しました(同1.0703ドル、同1.1379ドル、同1.2182ドル、同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は3月末の1ドル=132.77円から136.30円に下落し(同132.21円、同115.08円、同103.24円、同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は3月末の1ドル=6.8688元から6.9122元に下落しました(同6.9683元、同6.3599元、同6.6994元、同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。

 ○4月末の原油価格は1.6%上昇し、3月末の1バレル=75.54ドルから同76.73ドルとなりました(2022年末は同79.35ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は4月に6.6%上昇しました(4月末は1ガロン=3.765ドル、3月末は同3.533ドル、2022年末は同3.203ドル、2021年末は同3.375ドル)。2020年末から原油価格は58.5%上昇し(2020年末は1バレル=48.42ドル)、ガソリン価格は61.6%上昇しました(2020年末は1ガロン=2.330ドル)。

 ○2023年3月時点のEIAの報告によると、ガソリン価格の内訳は、50%が原油(2月の53%、1月の55%から下落)、15%が連邦税および州税(2月は15%、1月は15%)、11%が販売・マーケティング費(2月は13%、1月は10%)、そして24%が精製コストおよび利益(2月は20%、1月は20%)となっています。

 ○金価格は3月末の1トロイオンス=1987.40ドルから上昇し1997.90ドルで4月の取引を終えました(2021年末は1829.80ドル、2020年末は1901.60ドル、2019年末は1520.00ドル、2018年末は1284.70ドル、2017年末は1305.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は3月末の18.70から15.78に下落して3月を終えました。月中の最高は20.08、最低は15.72でした(2022年末は21.67、2021年末は17.22、2020年末は22.75、2019年末は13.78、2018年末は16.12)。

 ○同指数の2022年の最高は38.89、最低は16.34でした。

 ○同指数の2021年の最高は37.51、最低は14.10でした。

 ○同指数の2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。

各国中央銀行の動き(および関連ニュース)

 ○(0.25%の利上げを決定した)3月開催のFOMCの議事録から、利上げ停止が検討されたものの、インフレは依然として高止まり状態にあるとの結論に至ったことが明らかとなりました。また、2023年の後半には緩やかなリセッションに陥る可能性があり、回復に向かうのは2024-2025年になるとの見解が示されました。

 ○FRBのベージュブック(地区連銀経済報告)では、信用収縮の進行が指摘されています。また、労働市場の逼迫感(人手不足)には緩和の兆候が見られるものの、物価上昇圧力が依然として解消されていないとの記述もあります。

企業業績

 ○267社が2023年第1四半期の決算発表を終えました。そのうちの205銘柄(76.8%)で営業利益が予想を上回り、265銘柄中192銘柄(72.5%)で売上高が予想を上回りました。

 ○2023年第1四半期の営業利益は前期比1.3%増、前年同期比3.4%増が見込まれていますが、2022年末時点での予想と比較すると4.4%低下しています。売上高は過去最高を記録した前期(2022年第4四半期)から3.9%の減少が見込まれています。消費者が買い控え、企業がコストの増加分の全てを消費者に転嫁できていない状況にあります。

 ○2023年第1四半期の営業利益率は2022年第4四半期の10.92%から上昇して11.51%となる見通しです(1993年以降の平均は8.29%、過去最高は2021年第2四半期の13.54%)。

 ○2023年第1四半期中に株式数の減少によって1株当たり利益(EPS)が大きく押し上げられた発表済みの銘柄の割合は、これまでのところ、2022年第4四半期の19.4%に対して19.8%となりました。この割合は、2022年第1四半期とコロナ禍に見舞われた 2020年第1半期は17.6%でした。

 ○2023年通年の利益は前年比10.7%増となる見通しで、2023年予想PERは 19.1倍となっています。

 ○2024年の利益は同12.0%増が見込まれており、2024年予想PERは17.1倍となっています。

個別銘柄

 ○日用品小売りチェーンのベッド・バス&ビヨンドは連邦破産法11条による保護の適用を申請しました。同社は再建計画の一環として、資産の一部を整理し、480店舗の営業を継続する意向です。

 ○娯楽とニュースを提供するフォックスは、選挙の集計システムを手がけるドミニオン・ヴォーティング・システムズから名誉毀損で訴えられていた裁判で、7億8750万ドルの和解金を支払うことを発表しました(訳注:FOXニュースは、ドミニオン・ヴォーティング・システムズが2020年の米大統領選挙で不正に加担したと報道し、ドミニオン・ヴォーティング・システムズから損害賠償を求められていました)。

注目点

 ○米国普通株の配当金の支払額は2023年第1四半期に97億ドル増加し、2023年3月までの12ヵ月間では597億ドル増加(2022年第4四半期は163億ドル増加、2022年第1四半期の277億ドル増加からは減少)しました。

 ○ジョンソン・エンド・ジョンソンは、タルク(滑石)を原料とする製品でがんを発症したとして賠償を求められていた訴訟で、25年間で89億ドルを支払う和解案を発表しました(裁判所の承認を条件としています)。

 ○ビットコインは1月の1万6531ドルから上昇し、4月には一時、3万1006ドルをつけ(2021年11月は6万8790ドル)、2万9341ドルで月末を迎えました。

 ○娯楽大手のウォルト・ディズニーとフロリダ州(および州知事)の対立が深刻化し、ディズニーがフロリダ州の報復措置を非難する訴訟を起こしました。(訳注:ディズニーがフロリダ州で成立した法律を批判したことを受けて、フロリダ州はディズニーに対する税制上の優遇措置の廃止を決定しました)。

<後編>へ続く
 


配信元: みんかぶ株式コラム

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